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んー…………
あぁ、寝ちまったんだ。
確か……上野の近く。
ふと、腕時計を見る。
0時か…………電車。
大きく息を吐きながら、顔を上げる。
……………………ん?
――――
「起きたかい?」
……………………え?
目の前には、ネタケース。
そこには、まるで標本のように整えられた魚たちが、静かに光を返していた。
――――
ここ…………寿司屋?
また、なんで寿司屋に。
「まあ、これでも飲んで」
すまし汁だ。
立つ湯気が…………く、くさっっ!!
――――
「あの……これ、くさ……」
「ペソだよ。」
ぺ、ぺソ?
「根魚、というより深海魚に近いか。そこに住んでる魚だ。生なら、とてつもなく味は良いがアラを煮た、この『ソッペ汁』は臭いがきつくなる。」
――――
「ほんとに、これ飲んでも大丈夫なんですか。」
「あぁ、一口飲めば分かるよ。」
くさいけど……
グビッ
あ、あれ?
なんだ……?あれだけくさかったのに、この喉を通る旨味は、何なんだ……
もう、一口。グビッ
……舌の奥が痺れたかと思うと、じわっと甘味が昇ってきた。臭さの奥に、旨さが潜んでいた。
今まで出会った事のない味。
――――
グビッ グビッ
「あ、アラは食べない方が良いよ。そのまま残して。」
グビッ グビッ
はああ…………
「うまい!!!!」
店主は、軽く微笑む。
――――
「どうだい、酔いも覚めてきただろう。」
そういえば……あれだけ飲んだのに。
「まだそっちもいける、って口だな」
カウンター上にある、店の名刺をもらっておこう。
今度は、あいつらも呼んで一緒に呑むか。
――――
俺は時計を見た。
まだ、0時だ。
「じゃ、次はこれだ。」
わさび漬けのような緑色の、刺身……
「これが、さっきのペソの刺身。」
店主は続けて、
「ペソの刺身には、この酒が合う。」
――――
一合徳利に、おちょこ。
「紅米時 。特別純米酒・ぬる燗」
日本酒は好んでよく呑むが、これは初めてだ。
おちょこに注ぐ。
「刺身は、何も付けなくて良いから。付けたら全て台無しになる。」
――――
まずは刺身を一切れ。
ん!まず新鮮さが、次に舌の上で溶けていく。
「なんだこれ……」
もう、一切れ。
……嘘だろ、これ。舌の上で、勝手に消えてく
……なのに、香りだけ置いていく。
――――
ここで、一献。
海の香りを残しながら、
邪魔しない米の香りが新たに融合していく……
相乗効果。どちらも控えてない。
でも、相容れている……
無限ループのようだ。
あっと言う間に平らげた。
――――
「もう、一品いくかい。」
「ええ!ぜひお願いします!!」
しかし、他の客は誰もいないのか?
「そしたら、次はこれだ。」
――――
店主のいる付け台から、炎が立ちのぼる。
「うあ!!」
炎に照らされる店主は、真剣な表情だ。
炎はしだいに弱くなり、皿の上にのせられる。
「マタンの藁焼き、お待ちどう。」
――――
マタン……?すごく厚みのある魚だ。
色は味噌漬けにしたような山吹色。
「これに合わせるのは、怪訝。」
怪訝山廃吟醸。
「軽く、燗を付けておいた。」
今度は、怪訝を一献。
――――
か、からっ!!……けど、舌の奥に渋みが残る。
しかしえぐ味じゃない、本来の旨味だ。
「ふふ、マタンの前に燗酒を先にやったか。」
俺は慌てて、マタンの身を食う。
「待て。マタンは身と皮を一緒に食べるんだ。」
店主に言われた通り、身と皮にかぶりつく。
これを、怪訝で追いかける。
この酒の為にこの魚が……逆なのか。
全てが、整う。
――――
これも、あっと言う間に平らげた。
まだまだいけるぞ!!
さて、お次は……と。
今、0時か……。
――――
澄んだ空気と、見た事も無い魚に目を向ける。
「悪いな、そろそろ閉店……看板だ。」
そうですか……ほん……と…………に
ごちそ…………