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#普通
野々さくら
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ありあ
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「今日はわざわざ有栖のために
ありがとうございます」
宗太郎が改めて礼を告げると、銚子は柔らかな笑みを浮かべた。
「いえいえ。『子供は国の宝』が
我が青葉保育園のモットーですので」
銚子は咄嗟に考えた、それらしいモットーを口にする。
「ありがとうございます」
宗太郎は再び頭を下げた。
銚子はそんな宗太郎から、その隣にいるひよりへと視線を移す。
「その・・・有栖ちゃんは入園を
ご希望だと伺いましたが?」
すると、ひよりの表情がわずかに曇った。
「そうなんですが・・・」
その歯切れの悪い返事に、銚子は首を傾げる。
「どうかされました?何か不安な事でも?」
ひよりは有栖へ目を落とした。
「ひよりは生まれてから、もう3年になるんですが
まだ外で遊ばせた経験がないんです・・・」
「なるほど・・・」
「だから・・保育園で上手くやっていけるか
友達は出来るのかって、それが不安で・・・」
ひよりは有栖の頭を優しく撫でながら、不安げな表情で俯いた。
その姿を見つめ、銚子は静かに口を開く。
「その気持ちは痛いほどわかります。
私も娘がおりますか、初めて保育園に入園させる時は
それはもう不安で不安でたまりませんでした」
「そうなんですか?」
「もちろんです。世の中のお母さんは
皆不安でたまらなかったはずです
ひよりさんのお母さんも、そうだったはずですよ」
「そうですか・・・」
銚子の言葉に、ひよりの表情が少しだけ和らぐ。
「まあ、すぐに入園ではなくても当保育園では
体験入園も実施致しておりますので
まずそこからやってみませんか?」
「体験入園?」
体験入園とは、正式に入園する前に、短いものでは数日、長いものでは数週間、お試しで子供を保育園に通わせる事で、環境や雰囲気を体験して慣れさせるという制度の事。
簡単に言えばオープンキャンパスのような物だ。
「そんなのがあったんですね
初めて知りました。すいません
無知でお恥ずかしい・・・」
ひよりは恥ずかしそうに小さく笑った。
「いえ、いいんですよ」
その様子を見ていた宗太郎が、ふと疑問を口にする。
「でも、数日から数週間って、だいぶ
差があるんですね?何か理由があるんですか?」
銚子は穏やかに頷いた。
体験入園は、子供を保育園に慣れさせるための時間で、子供によってはすぐに友達を作って遊び回るような子供もいる。
しかし逆に、親と離れ離れになるのが辛くて、泣いてしまい、慣れるまでに時間がかかる子供もいる。
銚子の説明を聞き、宗太郎は納得したように頷いた。
「なるほど・・すぐに友達を作るような子供は
既に環境に慣れてるから数日で済むけど
泣いちゃう子供なら、慣れさせるまで時間が
必要だから数週間入園するって事ですか?」
「その通りです」
「有栖の場合は、どのくらいかかるでしょうか?」
「そうですね・・・」
ひよりの問いに銚子は、少し考えるような素振りを見せると、有栖のそばへ歩み寄り、その小さな身体をそっと抱き抱えた。
突然抱き上げられた有栖は、もちろん人形なため、驚くでも泣くでもなく、ただじっと銚子の顔を見つめている。
銚子もまた、そんな有栖の様子を静かに観察した。
しばらくして、銚子は安心させるように微笑んだ。
「有栖ちゃんは、泣いたりぐずったり
しない子みたいなので・・まあ、実際は
入園させてみないと何とも言えませんが
数日・・いや、一日で大丈夫かもしれませんよ」
「一日?」
ひよりは思わず聞き返した。
「たったそれだけでいいんですか?」
「親と離れ離れになる事への耐性の有無
これが重要なので。有栖ちゃんはその点は
クリアしていそうなので、一日で問題ないかと」
「なるほど」
宗太郎はすぐに話を進めようとする。
「なら早速今日から──」
「いや、急すぎない?」
ひよりがすかさず遮った。
「いくらなんでも今すぐなんて迷惑──」
「そんな事はありませんよ?」
銚子はひよりが抱く不安の種を一言で摘み取る。
「え!?そうなんですか?」
目を丸くするひよりに、銚子は穏やかに微笑む。
「そもそも私は今日、そのつもりで来ましたから」
その言葉に、宗太郎は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「善は急げって言うだろ?ウカウカしてたら
誰かに先を越されるかもしれないし」
「そうね・・・確かに」
ひよりは有栖へ視線を向け、しばらく考え込んだ。
確かに、このままずっと家の中だけで過ごさせるわけにはいかない。
有栖にだって友達は必要だ。
同年代の子供たちと触れ合うことが、この子の成長に繋がるかもしれない。
ひよりの頭の中で宗太郎の言葉がリピートされる。
「でしたら──」
ひよりは意を決して顔を上げる。
そして、迷いを振り切るように力強く頷いた。
「はい!有栖をよろしくお願いします」
ひよりの返事を聞いた瞬間、のは心の中で小さく拳を握った。
(上手く行った!)
「でしたらすぐに、体験入園の手続きを
始めさせていただきます。よろしいですか?」
「はい、お願いします」
こうして有栖は、青葉保育園で一日だけの体験入園をすることになった。
「では我が青葉保育園では、運転免許証と母子手帳の
コピーを取らせていただいてまして
それを体験入園の手続き書類とさせていただきます」
銚子の説明に、ひよりは少し安心したように尋ねる。
「あ、書類を書いたりとかじゃないんですね?」
「体験入園の時だけですね。正式入園の時には
保険証のコピーや戸籍謄本などの書類を
ご準備いただく必要がありますけど」
銚子はそう付け加えると、柔らかく笑みを浮かべた。
「それに今は何でも電子化の時代ですからね」
「あはは・・・なるほど」
ひよりが納得したように笑うと、銚子はバッグから一台のタブレットを取り出した。
慣れた手つきで端末を操作し、カメラを起動する。
「では、こちらをお借りしますね」
ひよりから運転免許証と母子手帳を受け取ると、銚子はそれぞれを机の上に並べ、タブレットをかざした。
画面の中に収まるよう位置を調整しながら、まずは運転免許証を撮影する。
続いて、母子手帳にもカメラを向けた。
こうして、ひよりの運転免許証と母子手帳の画像が、体験入園の手続きに必要な資料として記録された。
手続きが一通り終わると、ひよりは改めて宗太郎へ向き直った。
「では園長先生、有栖をよろしくお願いします」
「はい、もちろんです。お子さんは
責任を持って預からせていただきます」
宗太郎は穏やかにそう答え、銚子へ頭を下げる。
「よろしくお願いします」
しかし、ひよりだけは、ほんの少しだけ名残惜しそうに有栖へ目を向けていた。
娘が初めて母親と離れて過ごす記念すべき日。
たとえ一日だけの体験入園とはいえ、やはり母親として不安がないわけではない。
それでも、いつまでもこうしている訳にはいかない。
ひよりは気持ちを切り替えるように微笑むと、信愛と有栖に声をかけた。
「よろしくお願いします」
「はい、ご安心ください」
それから一同は有栖と共にマンションを後にした。
コメント
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×××さん、224話読了しました〜!有栖ちゃんの体験入園、無事決まってよかったですね…!でも銚子さんの「そのつもりで来てた」発言、ちょっと不気味でぞわっとしました🥀 ひよりさんの母としての不安がリアルで、その気持ちすごくわかるなあ。一日で大丈夫って言われてほっとしたけど、タブレットで書類撮る手際の良さも逆に怪しくて…次が気になります!