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【第二章】第5話 出逢いの記憶(日向司・談)

2023年09月27日

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——それからどのくらい経ったんだろうか。

大きな事件が起きてしまい、ずっとその件に掛かりっきりで、すっかり唯の働く店には行けなくなった。桐生も「『火の屋』の餃子が食いたい…… 」とぼやくも、残念ながら事件が解決する目処は立たず、残業の日々が長らく続いた。

何とかまとまった休みが取れそうになってきた頃にはもう、夜のコンビニ前で彼女等と話した日から半年は経っていたと思う。


「今日こそは『火の屋』に行こうぜ!」と桐生に誘われた。コンビニの件を思い出すとちょっと複雑な気分にはなったものの、唯の働く姿は見たいなと思い同意する。

だが、店に行っても、いつもなら出迎えてくれた唯がいない。桐生が店長に「あれ?唯ちゃんは?もしかしてお休みの日だった?」と訊くと、「就職したからな、もうウチには来れないんだよ」と教えてくれた。


(…… 就職した?)


「え?マジっすか!?どこに?」

「有名なホテルの名前を言ってた気がしたが…… 悪いな!ちょっと思い出せないや」

「おおー。いいところに就職出来たんだ。唯ちゃんなら、向いてそうだな」

「…… そうか?ホテルなんて全然向いてないと思うが」


(顔を覚えれないとマズイだそう、あの仕事は)


こういった流れになると、どうしたってコンビニでの出来事を思い出して少し渋い気持ちになる。

「結構厳しいなお前は」

彼女の致命的な欠陥を知らない桐生なら、そう感じるのも当然だ。

「事実を言ってるまでだ」

「なんだよ、お前だって気に入ってたんだと思ってたのに」

「気に入ってるのはここの料理だ、彼女じゃない」

「お!そりゃ嬉しいな!ありがとな」

嬉しそうな店長の声に、気まずさを感じた。


(まぁ、料理は確かに気にいてるし、嘘では無いよな?)


「んじゃ今日は一品好きな品サービスしようか」

気を良くした店長がおごってくれる事になり、俺達は間髪入れずに「「餃子で」」と同時に言った。




相変わらず仕事に追われるうちに、あれから四年という歳月が過ぎた。その間も『火の屋』には出入りしていた。だが、唯に会うような偶然は全く無かった。店長からたまに近況を聞く事はあっても、それだけだった。じゃあ、就職先にまで会いに行くかとなると、そうする気にもなれない。どうせ俺の事など覚えてもいないだろうから…… 。


仕事の後、桐生と食事をし、酒は飲まずに帰宅しようとしていた帰り道。

「放して!いやあああ‼︎」

突然女性の悲鳴が聞こえた。急いで声のする方へ走る。どうやら、酔っ払いに絡まれている様だ。見た所凶器を手には持っていない。この程度なら簡単に話は済みそうだ。

「放しなさい、嫌がってる」

睨みながらそう言うと、酔っ払いは驚く程あっさりと引き下がって行く。交番に連行するまでに至らなくてよかった。今からまた、仕事に関る気分でもなかったから。

「あ、ありがとうございます!助かりました、すみません!」

何度も何度も頭を下げて言うもんだから、襲われていた少女の顔がわからない。


(こんなに低姿勢にならなくてもいいだろうに…… ったく)


「…… そのままにもできないから」と、視線も合わせずに返した。

もし悲鳴を聞いても駆けつけず、その件が殺人に繋がりでもして、警視庁に勤める人間が見殺しにしましたなんてなっから一大事だからなのだが、そこまではわざわざ言わなかった。まぁ、正義感が全く無かった訳でもないので。

「私じゃどうにもできなくて…… 怖かった…… 」

そう言う声が震えている。当然だ、こんな子供が酔った大人に絡まれれて怖くない方がおかしい。


(可哀想に……)


ついそう思ってしまい、軽く頭を撫でてやる。ふわっとした柔らかな髪の感触が何だか新鮮に感じた。異性の髪に触ったのなんて、そういえば何年ぶりだろうか。

「子供がこんな時間に一人で歩いてはダメだ、家は?ご両親に、遅れるって言ったのか?」

未成年者が一人で歩くには遅い時間だ。部活の後にしたって、流石にこの時間はないだろう。

「…… え?あ、私仕事帰りで…… 」

キョトンとした声が返ってきた。

「こんな時間までバイトって、条例違反じゃないか。何処でやってる」

こんな小さな子供に仕事をさせるなんて何を考えてるんだか。これはきちんと調べさせないといけない。

「せ、正社員ですけど…… 」


(正社員?何言ってるんだ?)


意味がわからなかった。未成年者の誤魔化しか、いくら補導されたく無いとはいえ随分と無理な言い分だ。これはきちんと確認しないと駄目だ。保護者にも連絡しないと。

「…… は?身分証あるのか?」

「私これでも二十五歳なんですが…… 」

そう言って、少女が俺の顔をしっかりと見上げてきた。


(——え。まさか、唯か?嘘だろ?)


時間が止まった気がした。目の前にいる存在に現実味を感じない。

何やら手をパタパタと動かし、色々説明しだしたがあまり耳に入ってこない。まさかこんな形で再会する事になるとは思いもしなかった。驚き過ぎて、言葉が上手く出せない。

少し言葉を交わした気がするが、よく覚えていない。

何とかしないと、次に繋げないとと気持ちが不思議と焦る。これでまたこのまま別れれば、もう一生彼女に会うチャンスなど無い様な気がする。どうしてこんな事を考えてしまうのか自分でもわからなかったが、今その理由を模索する時間は無い。


(行動を起こせ、後悔はしたくない)


「送って行く。また変な奴が居ても困るから」

「お、お願いします‼︎」

ここは居酒屋か?ってくらいに気持ちのいい返事が返ってきて、少し安心した。

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