マンションへ戻った理紗子は、昨日パーティーへ行く前に書き進めていた小説の続きに取り掛かった。
今日は午後から証券会社のセミナーに参加してその後健吾と食事に行く約束をしていたので今のうちに少しでも進めておきたかった。
執筆しながら理紗子は確かな手応えを感じていた。
最近ずっとスランプ気味になっていた恋人達のシーンが以前とは違いスラスラと書けてしまう。
セリフはポンポンと飛び出してくるし二人がいる情景もリアルに思い浮かぶ。書きながら次々と頭の中に描写が浮かびタイピングの速度は速まる一方だ。
苦手でいつも苦戦していたベッドシーンも既にイメージが湧いていた。今回はおそらくすんなり書けるだろう。
この状況に理紗子は自分でもかなり驚いていた。
そしてこうしてスランプを脱出出来たのは全て健吾のお陰だとわかっていた。
健吾は様々な刺激を理紗子に与えてくれた。理紗子が未経験の事をいっぱい体験させてくれた。
全てを書き尽くしてしまい途方に暮れていた理紗子の感性は健吾のお陰で息を吹き返し再び動き始めた。
理紗子は今書く事が楽しくて仕方がなかった。書いていると身体中から悦びが溢れてくる。
その時理紗子の頭には二人で過ごした濃密な一夜の一コマ一コマがまるで映像のように思い浮かんだ。
そして思わず頬を染める。
健吾とは『偽装恋人』なのに本当の恋人同士のように深い関係まで行ってしまった。
小説や漫画の中ではこの先にはハッピーエンドが待っている。しかしこれは小説ではない。
リアルな世界でのこの結末はどんなエピローグを迎えるのだろうか?
残念ながら理紗子にその答えはわからなかった。
理紗子は今自分が健吾の事を愛しているという自覚がある。そしてこのまま健吾の傍にいたいとも思っている。
しかしそれは理紗子側の思いだ。健吾が理紗子の事をどう考えているかは全くわからない。
(もし相手が本気じゃなかったら?)
それはそれで受け入れるしかない。人の気持ちは他人が変える事は出来ないのだ。それは弘人と別れた時によくわかったはずだ。
理紗子はそう自分に言い聞かせると再び仕事に集中した。
午後になると理紗子はセミナー会場へ向かった。オフィスビルが立ち並ぶビルの一室でセミナーは開催される。
理紗子は地下鉄に乗り日本の経済の中心地である街を目指した。
一応筆記用具も持って来た。
この先一人で生きて行く為にいずれ理紗子も投資を始めるかもしれない。その為にも今日は真剣に講義に耳を傾けるつもりでいた。
セミナーに参加するのは初めてだったので何を着ようか迷った。散々悩んだ挙句黒のパンツに白シャツというオーソドックスな服にする。勉強の場なのだからこれでいいだろう。
しかしあまりにも地味な装いだったのでアクセサリーだけは健吾がプレゼントしてくれたジュエリーを身に着けた。
ビルへ入りセミナー会場まで行くと受付があった。証券会社の社員が応対している。
理紗子がそこへ行って名前を告げるとスタッフは健吾から聞いていたようで理紗子を席まで案内してくれた。
会場はもう既に満席に近い状態で席が埋まっている。理紗子が案内されたのは一番後ろの窓際の席だった。
一つ席を空けた隣には50代くらいの男性が座っていたので理紗子は軽く会釈をしてから椅子に座る。
そしてホッと一息つくとゆっくりと会場内を見回した。
参加者の男女の比率は半々だろうか?
年代は20代の若者から白髪交じりの高齢者まで幅広かった。中には主婦の姿も見える。今は女性も投資には積極的だ。
しかし理紗子はそこである事に気づいた。
会場の最前列を見るとそこはなぜか女性ばかりが座っている。それも見た感じ20~30歳前後の若い女性ばかりだ。
その一角がとても華やかに見えるのは彼女達の装いがカラフルであでやかだったからなのだと気付いた。
(意識高い系投資系女子ってあんなに派手だったっけ?)
理紗子はこういったセミナーに来る女性はパンツスーツにひっつめ髪、きりっとした表情のキャリアウーマンタイプが多いと思っていたがその予想は見事に外れていた。そこで更に気付く。
(もしかしてこれって全員ケンちゃん狙い?)
理紗子は思わず苦笑いをする。そしてその予想が当たっている事を確信した。
なぜなら最前列の女性達はしきりに髪をブラシでとかしたり手鏡を出して口紅を塗り直したりしていたからだ。
(ケンちゃんって本当にモテるんだなぁ)
そう思いながら理紗子は自分の会社員時代を思い出す。当時の理紗子は最前列にいる彼女達のようにお金持ちの男性と出会いたいなどという事は全く考えていなかった。むしろ自分の仕事のキャリアについてばかりを考えていた。
(私は男に頼って生きようなんて最初から思っていなかったのかも……)
理紗子はふとそう思った。
それから理紗子は受付でもらったペットボトルのお茶を一口飲むと机の上に置かれていた証券会社のチラシや冊子に目を通していく。
その時マナーモードにしていた理紗子のスマホが光った。健吾からのメッセージだ。
【着いたかな? セミナーが終わったらこのビルの真裏にあるカフェで待ってて。一度行ってみたかったカフェなんだ。今日は理紗子と偵察だ!】
それを見た理紗子は思わずフフッと笑う。
健吾のカフェ熱は果てしない。出掛けた先でもカフェチェックを怠らない。健吾はよほど自分のカフェが大事なのだろう。
【わかった! セミナー頑張ってね♡】
いつもは『!』とするところをあえて『♡』をつけてあげる。
するとすぐに返事が来た。
【『♡』なんてつけられたら今すぐ理紗子を抱きたくなるだろー】
【バカッ! 今はセミナーに集中しなさい】
【わかったよ。チュッ💋】
そこで理紗子は声を出して笑った。しかし隣の男性の視線を感じて慌てて黙り込む。
しかしどうしても顔がにやけてしまうので窓の方を向いた
その時ちょうどセミナーの開始時刻となった。
コメント
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シンプルな白シャツに黒のパンツ。セミナーにぴったりの装い👍一見地味かもしれないけど、逆にこのシンプルさが理紗子ちゃんをより美しく魅せてると思うなぁ。そして更に美しさを倍増させる健吾🎁の黒真珠のネックレスとピアス✨ こんな理紗子ちゃんを見たらもうどうにも止められなくなっちゃうんじゃなぁい?健吾さん!?(ΦωΦ)フフフ…ꔛ♡
健吾さんに愛され 大切にされ、 執筆意欲も増し お仕事も絶好調な理紗子 ちゃん💪💻️✨ 健吾さんのセミナーも楽しみだね~🎵 セミナー開始前の、二人のラブラブなメールのやり取りに思わずニヤけちゃう....😘💕🤭 健吾さ~ん❣️ 天然さんで 自己評価が低めの理紗子ちゃんには、 態度だけでは伝わらないよ~🤔 「愛してる」と、言葉でハッキリ伝えてあげてね💖✨
健吾の愛を一心に受けたお陰で理沙ちゃんの恋愛経験値が跳ね上がって一時のスランプが嘘のようにスラスラ書けるのがとても嬉しいし健吾も嬉しさ爆発💥だね❤️ ただ健吾のセミナーには健吾のお金と肩書きとステータスに群がる女ばっか😠💨早く健吾が理沙ちゃんに『偽装恋人解消』を伝えて彼女に昇格させてね💞 それでは❤️と💋の掛け合い漫才も程々で❣️セミナーも始まりお後がよろしいようで😚🤙