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恋愛小説家の恋

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恋愛小説家の恋

第82話 - 第82話

109

2024年08月31日

#恋愛

#大人の恋愛

#イケメン

#大人ロマンス

#第3回テノコン

#ハッピーエンド

瑠璃マリコ

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瑠璃マリコ

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セミナーの開始時刻になると証券会社の社員が前に出て来て挨拶を始めた。

そしてこのセミナーの趣旨を話し始める。

昨今投資ブームはネット証券の参入やアプリの利便性もあり若い世代から高齢者まで大人気だ。

誰でも気軽に投資に参加出来る一方で投資詐欺の被害も後を絶たない。

このセミナーではそういった投資詐欺に騙されないよう注意喚起する役割もあると社員は述べた。

そして投資詐欺に騙されずに少しでも堅実な投資が続けられるようにと毎回有名な投資家を招いて講義を開いているとも言った。

そこで今日招かれたのが健吾だった。

健吾は個人投資家としてトレードを続けながらこうした大手証券会社との繋がりもある。

一方理紗子もフリーランスとして小説を書きながら美月出版などの大手出版社との繋がりがある。

この関係性はどちらも同じようなものなのかもしれないと理紗子は思う。

その時今度は違う社員が話を始めた。

社員はホワイトボードを使い為替トレードについてをざっくり説明する。今日の講座は為替トレードがメインのようだ。

一通り説明が終わったところで健吾が会場に入って来た。

その途端最前列の女性達からは悲鳴が上がる。まるで芸能人扱いだ。

しかし健吾に注目しているのは女性達だけではなかった。後方に座る若者達も前に身を乗り出すようにして健吾の事を見ている。それは自分一人の力で『億り人』になった健吾を崇拝するような眼差しだ。

中にはスマホを取り出し健吾の写真を撮影したり、健吾が話し始めた途端ボイスレコーダーのスイッチを押して録音を始める者もいた。

それとは対照的に最前列にいる華やかな美女達は健吾の話にうんうんと大きく頷いてアピールをしたり、しきりに髪を掻き上げて精一杯の色気を振りまいたりとかなり賑やかだ。思わず理紗子の目は『点』になっていた。

しかし健吾はそんな女性達には目もくれずに司会を務める社員との会話に集中していた。

そしていよいよ健吾の講座が始まった。

講義が始まると後方にいた若者達は健吾の一言一句を聞き洩らさないように集中しているようだ。

必死にノートを取ったり持参したノートパソコンに文字を打ち込んでいく。皆真剣そのものだ。

初心者の理紗子にはその内容はかなり難しかった。聞いても話がちんぷんかんぷんだ。

あまりにも暇だったのでマイクを持って前に立つ健吾の観察を始めた。

今日の健吾は少し光沢のあるグレーのスーツを着ていた。スーツの下にはパリッと糊の効いた白いワイシャツをノーネクタイで着用し、ネクタイの代わりに胸ポケットにグレーのポケットチーフを入れている。なんともお洒落だ。

普通の男性がノーネクタイでスーツを着るとだらしないイメージになりがちだが健吾が着るとビシッと決まっている。

ワイシャツの喉元からは男の色気さえ感じる。

姿勢良く立ちホワイトボードに向かって文字を書き込んでいる姿もキマっていた。最前列の女性達はそんな健吾に目が釘づけだ。

しかし健吾は全く気にする様子もなく余裕の表情で講義を続けていた。

（どこからどう見ても完璧なスパダリ男だわ。マイクを通して力強く響く声さえも完璧すぎる）

理紗子はそんな風に思った。

そして健吾の見た目や声だけではなくその無駄のないシンプルな言葉選びは講義を聞く者にとってとても理解しやすい。

その話し方を見た理紗子はこの人は元々頭が良いのだろうなと思う。

満席の会場は参加者の熱気で少し蒸し暑く感じた。

おそらく健吾も暑くなったのだろう。健吾は話しを続けながらおもむろに上着を脱いだ。そして上着を椅子に掛けると真っ白なワイシャツの袖をまくり始めた。その一挙一動がとてもセクシーだ。

上着を脱ぎガッチリとした健吾の胸板が露わになると最前列の女性達は更に興奮気味に熱い視線を送る。

理紗子も一瞬ドキッとした。昨夜自分はあの逞しい腕に一晩中抱かれたのだ。そう思うと途端に頬が火照る。

そこで慌てて意識を手元のプリントに向けた。

その後理紗子は為替が自分達の生活にもたらす様々な影響について知った。

円安、円高、物価高騰、輸出、輸入等、それらには全てこの為替が影響しているのだと改めて認識する。

自分の生活に直接関わる例を挙げて話をしてくれるととてもわかりやすい。理紗子はなるほどと思いながら健吾の話に聞き入った。

健吾の講義が終わると短い休憩を挟んでから質問コーナーへ移る。

有名な『億トレーダー』に直接質問が出来るので皆が一斉に手を挙げた。

何度か質疑応答が繰り返されたがそれでも挙手は全く減らない。

皆はこぞって我先にと手を挙げる。その時司会の男性が言った。

「そろそろ終了時刻が近付いて参りましたので次が最後の質問になります」

その途端更に勢いよく手が挙がった。

一人大きな声を出しながら手を挙げる男性がいた。

理紗子はその声をどこかで聞いた事がある声だなと思い声の主の方を見る。その瞬間理紗子の顔色が青ざめた。

なんとその声の主は2年前に理紗子を振った元彼の坂本弘人だった。