──大納言、大伴御行《おおとものみゆき》が、北の方や側室を追い出して、一人の姫君の為に屋敷を建てたという噂話が、面白可笑しく宮中の女房達の間で語られていた。
それは、帝の耳にも届くことになる。
側仕えの女房、中臣房子《なかとみのふさこ》を呼ばれた帝は、事の真意をお尋ねになられた。
「はい、なんでも、五人の公達からの求婚を無下にして、挙げ句、無理難題を提しておりますとか」
中臣房子は、輝く竹の中から見つけられた姫君の、不思議な生立ちから、公達たちへ突き付けている条件とやらまでこと細かく語った。
「……蓬莱《ほうらい》の枝、火ねずみの皮衣、龍の首の玉……などを望むとは。唐渡りの宝物に詳しいか、ただの、からかいなのか、良くわからぬ姫君じゃ」
「ええ、そうでございましょう。お上が、気に止める話ではございませぬ」
女房の剣幕に、帝も、言葉をお控えになられたが、伝説の宝物を探しだし、捧げようとする。さらに、迎え入れる屋敷を早々に用意するほど、男達を動かすとは。
その姫は、どれ程の美貌の持ち主なのか?
帝は、狩に出かける事で、山の麓にあるという、姫君の屋敷へ赴こうと思いつかれる。噂の姫君を一見したいと思われたのだ。
さて、その狩に見せかけた御幸は、事前に姫君の育ての親である翁へ伝えられる。
翁と妻の老女は腰を抜かすほど驚くが、屋敷の者達へ、姫をなんとか縁側に導くように言いつけた。
近頃の姫は、多々ある求婚から逃れるかのように、部屋に閉じこもり暮らしている。
この様子では、帝をお迎えし、ご希望通り拝顔賜ることなど、到底無理な話だと、翁は悩んだ。
そこで、部屋の中から、縁側へ姫を誘いだし、遠目からではあるが、帝の一見したいというご希望を叶えようとしたのだった。
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