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『なんでそんなこともできないの!!』
昔から期待される俺は、家族から酷い扱いを受けた。正直、継ぐとかどうでもよかった。ただもう少し好きなことをしていたくて、もう少し友達が欲しくて、もう少し自由が欲しくて…。わがままの自分が嫌いなのに、いつのまにか欲しいものは増えていくばかり。
そんな自分に嫌気がさしていたころ。当時の俺は公園で1人俯いていた時だった。
『んっ!』
ふと聞こえた、可愛らしい声。透き通る声で、最初は女の子かと思った。でも、顔を上げればそれは全く逆で、かわいらしい男子が目の前に立ち尽くして俺に手のひらを差し出していた。
『えっ…と。な、何…?』
『………んっ。』
彼の手のひらには何もない。けど、おれは何かあげれるものを持っていない。……なんだ?彼は何を欲しがっているんだ?それに同い年っぽいくせ、俺よりも人見知りなのかちゃんとした言葉を発さなかった。
『んっ!!』
『わっ、ちょっ…!!』
ふと相手の男の子は、おれの手を握った。そうして、そのままオレを引っ張っていく。いや、ちょ?!何してんのって!!
抵抗する間もなく、連れてこられたのは花畑。そこまで大きな規模のものではないが、子供のオレからすれば十分な広さであった。
青と、黄色の花が咲き誇るどこか不思議と落ち着く緑に包まれた空間だった。
───青色の花はカーネーション。多分一度は聞いたことあるんじゃないんだろうか。真っ青の色がまた綺麗で、そばにいるだけで見惚れてしまう。黄色の花はフリージア。明るい色であるが可愛らしい見た目をしており、周りにいるだけでこちらも明るくなりそうだ。
『…きれい。』
ふと言葉に出たそれは、本音じゃないことはないだろう。
『………は、花。…花、は……好き?』
ふと聞こえた、可愛らしい声。弱々しいけれど、愛着が湧く声。それはオレの手を引っ張った男の子から発さられたものだった。
ぎこちない言い方。相手が上か下かもわからないからか相当間を空けて喋っているっぽい。
『……うん。好きだよ。』
『な、なんの………花、好き?』
答えれば、続けられた言葉はまた質問だった。会話の質問がよく生まれる子で、あまり気まずくならなかった。
『…これだよ。カーネーション。この、青色の花。』
青色の花の元へ行き、指を指して教えると、男の子はまだ緊張しているのか自身の服を掴んだままこくこくと頷いた。
オレは緊張を和らげてあげようと思い、質問する。
『君は?君は、なんの花が好き?』
そういうと、相手は一瞬目を輝かせるがすぐにそっぽを向いた。
…やっぱり、緊張を解くのは難しいか、なんて考えて立ち上がると、相手は声を発した。
『ぼ、僕は……マリーゴールド、かな……。色が綺麗だから、さ。』
『…!』
照れながらも答える男の子の姿が、酷く可愛くてイタズラしたくなるような子だった。でも相手はすごく親切そうで、一瞬だけ、友達になりたいと思ってしまった。
母からは”友達なんてそこまで作る必要なんてない”って言われたけど…欲しいものは、手に入れたい物欲と一緒で、今、オレはこの子と友達になりたい気持ちが大きくなった。
『…ね、名前は?』
そう聞くと、相手は少し戸惑いながらもすぐに答えてくれた。
『……かいと。”あまのかいと”。』
今までで1番、ハキハキとした喋り方でそう教えられた。
そうか、この子の名前は”かいと”って言うんだ。
『そっか。オレは”さる山らだ男”。よろしく!』
そうして手を差し出すと、相手は目を輝かせ、ニコニコの満面笑顔でこちらを見つめながら手を差し出した。
『よ、よろしく…!!』
オレの手よりも、小さい手。酷く胸が暖かった。