「キャッ!」
目の前を走っていた音星が急にバタンと倒れた。何かに躓いたんだ。
「音星! 大丈夫か?!」
俺が駆け寄ると、音星の右足を人型の魂が掴んでいた。
「ほんとごめん!! 急いでるんだ!」
俺は人型の魂の手を音星の右足から力任せに外すと、目を瞑っている音星を立たせた。
「さ、早く行こう!」
「はい!」
俺たちは後ろで巻かれる煮え湯から逃げるために、走った。
火のついてない釜土が目に入った。
そこまで、走るとあることに気がついた。
「や、弥生??」
今まで音星の前方を走っていた。弥生の半透明な姿が見えなくなっていた。
「どこへ行ったんだろう? おい、弥生!!」
「弥生さーん!!」
俺と音星は弥生を呼んだが、返事すらもない。弥生を呼ぶ声は辺りの人型の魂の悲鳴によって、掻き消えてしまうのだろうか?
そうこうしているうちに、降り注ぐ煮え湯がすぐそこまで来ていた。滝のように降り注ぐ煮え湯が、俺たちの真後ろへ迫っていた。
「仕方ありません!! 火端さん!!」
「え?!」
音星は俺に手鏡を向ける。
「えい!」
「わっ! ちょっ! 待っ?!」
手鏡からの激しい光が俺の目を襲う。
俺は眩しさで目を瞑った。
辺りの人型の魂の悲鳴が聞こえてこなくなった。
変わりに、車のクラクションの音がする。
目の前には、真夜中の涼しい風が吹きすさぶ。人はがらんどうの大通りだった。
ここは八天街だ!
「おおっ?!」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「火端さん……。あの、弥生さんは明日探しましょうよ」
「え? なんで?」
「気付いてないようですね。火端さんはもう体力の限界だと思うのです」
「う……」
「それにここで一日くらい経っても、地獄の時は進まないようですから」
「……時差?」
「時差?」
「そうだよ時差だよ。ぷっ……あはははは」
笑が治まってくると、俺は音星と大通りから横断歩道を通って、裏通りへと向かう。
今日はもう休もう。
音星の言う通りかもな……。
もう、体力が尽きたわあ。
ああ、疲れたー。
休まないといけない。
「音星……ありがとな」
民宿の玄関先までくると、俺は音星にお礼を言うと、音星はクスッと微笑んでいる。
俺はあのままでは、妹を探せなかったんだ。
大量の汗の掻き過ぎと走り過ぎで、疲れが限界になっていた。
そう思うと……俺は玄関先で、急にクラクラしたかと思うと崩れ落ちてしまった。
「ああ、大丈夫ですか? 火端さん!」
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