美月と海斗は、湾岸エリアにある運河沿いのファミレスに着いた。
駐車場は空いていたので、きっと店内もそれほど混んではいないだろう。
二人は車から降りると階段を上って入口へ向かった。
ドアの横には『フルーツパフェフェア』のポスターが貼ってある。
それを見た海斗は、なぜ美月がこのファミレスを選んだのかがわかったようだ。
「ははーん」
「だって期間限定なんだもん」
美月が拗ねたように言ったので思わず海斗が笑う。そして美月の頭をポンポンと撫でながら言った。
「はいはい、思う存分木苺をお召し上がり下さいませ」
海斗は美月の事を心から愛おしいと思っていた。
こうして何気ない時間を彼女と過ごしているととても癒される。
しかし一つ気がかりだったのは、先ほど出くわした光景だ。
美月の元夫が美月に会いに行こうとしていたのはほぼ確定だろう。
海斗は嫌な予感がしていた。しかし美月の事は何が何でも自分が守ると固く心に誓う。
二人が店に入ると、四十代くらいの男性のスタッフがが出迎えた。
「いらっしゃいませ」
男性スタッフは海斗の顔を見た瞬間海斗が誰だか気付いたようだったが、その後二人をあえて一番奥の目立たない席に案内してくれた。
「ファミレスに来る事ってあるの?」
「たまにあるよ。打ち合わせとか、仕事が深夜まで続いた時なんかはメンバーともよく行くよ」
そこで海斗が美月に言う。
「なんか俺の事を特別な人間だと思い込んでいないか? 俺は至って普通だよ」
「ほんとそうかも。だって誰かさんは子供みたいにハンバーグのメニューばかりを見ているし」
ハンバーグのページを開いている海斗の事を美月が茶化す。
「俺はお子ちゃまだからハンバーグが大好きなんだよ」
海斗が開き直って言ったので美月はクスクスと笑った。
結局美月はパスタ+パフェ、海斗はハンバーグセットを頼んだ。
料理を待つ間海斗が聞いた。
「最近変わった事とか特にない?」
海斗は先ほどの健太の件で、美月に何か変化がなかったかを確認しておこうと思った。
「変わった事?」
「気になる事とか心配な事とか、ない?」
その時美月は、健太のメールの事を言おうかどうしようか迷っていた。
そんな美月を見て海斗はすぐに察する。
「ははーん、あるな! はい、はっきり言いましょう。すっきりするよ」
(なんでこの人は私の考えている事がすぐにわかるんだろう?)
美月はそう思いながら、悩む。
健太の事はいずれ言おうと思っていたが、海斗のレコーディングが全て終わってからにするつもりだった。
しかしタイミングよく聞かれてしまったので、今言ってみる事にする。
「うん、あのね、元夫からメールが来たの。表参道でばったり会った日の後に」
美月は勇気を出して言った。海斗はかなり驚いている様子だった。
「そっか。連絡って今も取り合っているの?」
「ううん、離婚した後に携帯の番号は変えたしメッセージのアプリは削除したので連絡は取れない状態にしていたから。ただ、結婚する前から使っていたパソコンアドレスはまだそのままだったので、そこにメールが届いていたの」
「どんな内容だったか聞いてもいい?」
海斗はとても真剣な顔をしている。
「大した内容じゃなかったんだけれど、表参道で偶然会ってびっくりしたとか、元気そうで安心したとか」
美月がそこで口ごもると海斗が更に聞く。
「それで?」
「うん、なんか私と話がしたいって……」
美月は困ったような顔をしている。
海斗は表向きは平静さを保っていたが、心の中は健太に対する怒りでいっぱいだった。
自分の浮気のせいで美月を傷付け別れたくせに、今更何を考えているのだろうか?
海斗は同じ男として健太の行動が全く理解出来なかった。
過去を乗り越えて前向きに生きようとしている美月に対し、なぜまた連絡をしてくるのだろうか?
しかし海斗は怒りを隠しながら、優しく聞いた。
「で、返事は出したの?」
「ううん、出さなかった。メールは削除しちゃった」
美月はフフッと笑う。
「昨日亜矢子に話を聞いてもらったんだけれど、亜矢子はそれで正解って言ってくれた」
「俺もそう思うよ。安易に返信なんかすると相手の婚約者にも変に誤解を招くしね」
海斗もそれでいいと言ってくれたので美月はホッとする。
今日健太が美月の職場近くにいた事は、美月には言わないでおこうと思った。
言ったらきっと美月は怯えてしまうだろう。
美月を不安な気持ちにさせる事だけはしたくなかった。
そこで海斗はもう一つ質問をする。
「彼は君の今の住所って知ってるの?」
「離婚後郵便物の受け渡しで必要だった事があるので住所は教えています」
「そっか」
海斗は、健太が美月のアパートを訪ねてくるかもしれないというところまで想定していた。
ストーカー気質の人間は、普通の人が考える範囲内には収まらず、想定外の行動を突発的に起こす事が多い。
海斗は過去にファンの女性にストーカーをされた経験があるので、よくわかっていた。
一方美月は健太がアパートまで訪ねて来る事なんて絶対にないだろうと思っていたので、海斗がそこまで心配する理由がわからなかった。
「もし何かあったらすぐに俺に連絡するんだよ。俺が忙しいからとか迷惑をかけるからとか、そんな事は考えなくていいからね。もしちょっとでも変な事があったら必ず連絡すること! いいね」
「うん。ありがとう」
特にそんな必要性はないだろうと思ったが、それでもやっぱり心配されると嬉しい。
誰かに心配されるという状況は久しぶりだったので、美月はなんとなくくすぐったい気持ちになる。
その時料理が運ばれてきたので、その話はそこまでになった。
海斗は熱々のハンバーグを美味しそうに食べ始めた。
それから二人は他愛もない話をしながら楽しく食事をした。
パスタを食べ終わった美月に、今度は木苺パフェが運ばれてくる。
美月は葉山でのレストランの時のように、幸せそうに木苺を頬張っている。
そんな美月を、海斗は愛おしそうに見つめていた。
コメント
3件
海斗さぁん😭美月チャンを守ってねー😭💦💦💦
海斗さんの予感…ハズレて欲しい🥺 せっかく過去から吹っ切れて、海斗さんに包まれて幸せなんだから、邪魔しないで‼️
スーパースターで有名人でも、ハンバーグのメニューばかり見ているお子ちゃまだったり...😁w美月ちゃんの前ではいつも素直に自然体になっちゃう海斗さん💕 そして 海斗さんの前では 悩みや心配事を隠すことができず、いつも彼にバレてしまう美月ちゃん....二人は本当にお似合いですね~🥰💖 元夫 健太の動向が気になりますね....😱 どうか 美月ちゃんの家にやって来ませんように🙏