「へーっ、すごいなんかロマンティック! 月がもたらした偶然の出逢いだよね。映画みたい」
続けて亜矢子は言った。
「家も近いみたいだし。今後の展開が気になって私眠れないかも! どうしてくれるぅー!」
と、亜矢子はキャッキャと興奮していた。
「でもさ、美月ったらラーメン食べ終わっても相手が芸能人だって気づかなかったんでしょ。そりゃ失礼だわ! 鈍感にもほど
がある!」
「だよね。グループ名も曲も知っていたけれど、顔とかメンバーとか名前とかそういう詳しい事は知らなかったから。だから今
朝ラジオで声を聞いて知った時はびっくりして心臓が止まりそうだったよ」
「まあ、でもさ。沢田さんクラスの男性だったら放っておいてもいい女が向こうから寄ってきそうじゃん。だから日頃からオン
ナオンナした濃い系女子にはうんざりしていると思うよ。その点、美月みたいな鈍感女だったら気負わずに楽に接することがで
きて居心地が良かったんじゃない? だからラーメンにも誘ってくれたんだよ」
「そうかなぁ」
「絶対そうだよ。美月はこれから癒し系のオンナ路線で行け!」
亜矢子はそう言ってニッコリする。
「別に私はそういうつもりじゃないし」
美月が答えると、亜矢子はフーッと息を吐いて言った。
「美月、いつまでも過去を引きずらなくていいんだよ。美月はまだ若いんだし、これから恋愛だっていっぱいしていいんだから
ね。花の独身なんだから!」
「花の独身って死語じゃない?」
そこで二人は声を出して笑う。
「とにかく…親友として心配なのよ。離婚してから人が集まる場所や飲み会には全く行かないし、積極的に人と関わろうとしな
いし。いつも月ばっかり眺めてたらあっという間におばあちゃんになっちゃうぞ!」
亜矢子はそう言って美月を脅す。
「はいはい、親友に迷惑をかけないおばあちゃんになれるように頑張ります」
そこでまた二人は笑う。
「もういいや、今日は飲もう飲もう。美月の素敵な出会いに乾杯だー」
亜矢子は手を挙げてスタッフを呼ぶと、新しいワインを注文した。
亜矢子との楽しい時間を過ごした後、美月は地下鉄に揺られていた。
亜矢子と会うといつも沢山の元気を貰えるから感謝だ。
父の病気が発覚して以降、亜矢子はいつも美月を支えてくれた。
元々友達はあまり多くなかった美月だが、
亜矢子とならおばあちゃんになるまでずっと友達でいられると思った。
いつも助けてもらってばかりの美月だが、亜矢子が困った時はいつでも力になれるような存在でいたい。
そんなことを考えていると、電車は自宅の最寄り駅に着いた。
美月は駅を出るとそのままアパートへ向かって歩き始めた。
途中あの公園に差し掛かり、もしや? と期待する自分がいた。
今までは公園はただの通過点でしかなかった。
しかしあの日を境になぜか特別な場所になってしまった。
美月はドキドキしながら公園を覗いたが、そこには誰もいなかった。
そして少しがっかりしている自分がいる。
恋愛している時も結婚している時も、美月には常に『がっかり』がいっぱいあった。
『期待するからがっかりするんだ。だったら期待しないようにすればいい』
そう考えながら結婚生活を送った。
しかし、がっかりしない為に期待すらしない関係というのは、とても空虚なものだった。
そこには常に諦めのようなものが存在している。
そして淡々とただ時間だけを費やしていくのだ。
一人でいる寂しさより、二人でいる寂しさの方が倍辛いと聞いた事があるが、
まさにその通りだなと思った。
そんな生活を長く続けていた美月には、心の高揚みたいなものが失われているような気がした。
しかしあの満月の夜から、少しずつ変化が起こっているような気がした。
それから美月は、誰もいない公園を振り切るようにしてアパートへと向かった。
その頃海斗は、朝からずっと曲作りに没頭していたので夕食を食べていないことに気づく。
キッチンへ行き高村が買って来てくれた食材を見ながら、何を食べようかと考えていた。
その時ふいに携帯が鳴った。
電話はいつもレコーディングの際に世話になっている渡辺からだった。
渡辺は歳が近く共通の友人もいたので、仕事以外でも親しくしていた。
「もしもし」
「おっ、海斗、今家にいる? 今おまえんちの近くで軽く飲んでいるんだけれど出て来ないか?」
「ああ、ちょうど今何か食おうかなと思っていたんだ」
「じゃあすぐ来いよ。店は『R』だ」
「すぐ行くよ」
海斗は黒のパーカーを羽織るとすぐに家を出た。
そしてすぐに店へ向かう。
てっきり一人だと思っていたのに、渡辺のテーブルには二人の女性が座っていた。
「海斗、ここだよ!」
渡辺はそう言って手招きする。
「久しぶり。おまえ一人かと思ってた」
「いやねー、こちらの美女さん達がどうしてもお前に会いたいって言うもんだからさー」
と、惚けた調子で言う。
海斗は女性二人の方をちらっと見ると、
「こんばんは」
と挨拶をした。
するとその二人の女性は
「キャーッ、本物の海斗さんだー!」
と興奮した様子で言った。
コメント
2件
ありゃりゃりゃ💧😵💫 こぉーいぅタイプやんな💧😫 海斗さんが苦手なんは💧 もぉ~すぐ美月チャンから素敵な🌕️写真が届くさかい、それで癒やされてね(*´艸`*)🍀
あー、海斗さんの嫌なタイプの女と同席❎さぁどうする?パパラッチとか気をつけてねー、海斗さん‼️美月ちゃんに心配かけないでね😥