女性二人は三十歳前後、華やかなタイプの美人でおそらくモデルだろう。
身体中からエキゾチックな香水の香りが漂い、爪には派手なネイルをつけている。
そして、女性らしさを強調するようなセクシーな服を身に纏っている。
渡辺は芸能界に知り合いが多いので、飲み会などにはこういった女性達を連れて来る事が多い。
以前は海斗もそういう飲み会に参加していたが、ここ最近はあまり参加していなかった。
若い時とは違って、最近そういう付き合いが面倒になっていた。
今日も女性がいると知っていたら、来なかっただろう。
(聞けばよかったな)
海斗はそう思う。
四人はしばらくの間料理とワインを楽しんだ。
会話はもっぱら女性達からの海斗に関する質問ばかりだった。
質問と言っても、いわゆる芸能人としてよく聞かれるような内容の質問ばかりだった。
その会話に面白味はない。
そこで海斗は言った。
「そろそろ失礼します」
すると女性二人が、
「「ええっ? もう?」」
と言って残念そうな表情になる。
「すみません、今仕事が立て込んでいて」
海斗は女性達に軽く会釈をしながら言った。
そして渡辺に向かって、
「じゃあまたな」
と言うと、伝票を手にして出口へ向かった。
海斗が会計を済ませて店を出ると、カツカツというヒールの音が後を追いかけて来た。
「海斗さん、待って!」
海斗が振り向くと、先ほどの二人の女性のうちおとなしい方の女性が近づいて来た。
「何か?」
「あの、これ…」
女性は海斗に名刺を渡そうとする。
海斗がその名刺に視線を向けると、薄ピンク色のいかにも女性らしいデザインの名刺だった。
女性は名刺を差し出しながら言った。
「今度お食事に誘って下さい」
その言葉に海斗は申し訳なさそうに言う。
「またいつか機会があったらね」
海斗はあいまいな言葉を残すと、名刺を受け取らずにその場を後にした。
残された女性はがっかりした様子で店へと戻って行った。
「ふぅーっ」
海斗は息を大きく吐いてマンションへ向かう。
正直、今日は行くんじゃなかったなと後悔した。
昔、今と同じような事があった。
女性が積極的にアプローチして来たので、何度か食事に行った。
しかし海斗が煮え切らない態度をとり続けた結果、
女性は某大手企業の社長の愛人として連日ワイドショーや週刊誌を賑わせる。
その後女性は女優としてデビューし、しばらくはテレビで時折見かけたが、
今はすっかり表舞台から消えてしまった。
今思えばあれは売名行為というものだったのだ。
正直バンドが売れ始めた頃は、海斗もかなり派手に遊んでいた。
週刊誌にスクープされた有名女優と付き合っていたのは本当の事だ。
その他にも、モデルや一般女性と交際していた時期もある。
飛行機に乗れば、預けた上着の内ポケットにフライトアテンダントの名刺が入っていることも
しょっちゅうだった。
しかしこれまでに結婚したいと思うほどの出会いはなかった。
だから四十三歳の今でも独身だ。
幸い仕事は充実していた。
ありがたい事に予定は数年先まで埋まっている。
だから私生活は後回しにして、いつも仕事を第一に優先していた。
そのくらい、海斗は音楽に命をかけていた。
自分の作った曲が誰かを感動させる事が出来たらそれで満足だ。
そこにはなんとも言えない充足感がある。
だから今も特に結婚したいとは思っていない。
(そう言えば、彼女は俺が音楽をやっている事に気付いていなかったな。いや、もしかしたらバンド自体を知らないのかも
しれない)
自分の事を色眼鏡で見ない女性に出会ったのは久しぶりだった。
彼女にとっては芸能人や有名人なんかどうでもいいのだろう。
それよりも月や星に興味があるのかもしれない。
彼女は一体どんな仕事をしてどんな暮らしをしているのだろうか?
彼女について知りたい事が沢山溢れてくるが今は確かめようがない。
そのもどかしさに戸惑いながら歩いていると、あの公園の横に差し掛かった。
足を止めた海斗は少し期待していた。
もしかしたら彼女がいるかもしれない。
しかし期待は見事に裏切られた。
そこにはただ暗闇と静寂が広がっているだけだった。
ふと夜空を見上げると、グレーの雲が空一面を埋め尽くしていた。
今夜は月が見えない夜だった。
コメント
3件
2人共お互いを意識し出したのね!
人気バンドのイケメンボーカルならモテモテやし派手に遊ぶやんなぁ💨でもそぉいぅギラギラした時に出会う人(恋)より何にも考えてへん時に出会う人(恋)の方がええんやんなぁ(*´艸`*)💕💕💕うふっ🤭
オンナオンナしたのにはもう飽きちゃったんですね笑それよりも自分を知らない、興味がない詩帆ちゃんに惹かれる海斗さん😁月🌙の写真が待ち遠しい〜