駿の車に乗り込む梓、聖奈、沙月。
梓は助手席に座り、聖奈と沙月は後部座席に座る。
「お前らシートベルトちゃんとしろよ?」駿が言うと、皆は「はぁーい」と言いながらシートベルトをする。
「じゃあ行くぞ?」駿はそう言いながら、スマホアプリのゴーグルマップを開く。
「えーっと・・ここから一番近いのは・・椎名の家だったな?」駿はそう言うと、ゴーグルマップに沙月の家の住所を入力する。
「あれ?一番近いのは梓の家じゃなかったっけ?」聖奈が首を傾げながら言う。
「え?あ、ああ、そうだったっけ?ああ、そう言えばそっか、な、なら金森が先だな」駿は口ごもりながらも、金森の家の住所をゴーグルマップに入力する。
そんな駿といの一番に助手席に座った梓を交互に見ながら聖奈が駿に「ねぇ?駿くん?」と問いかける。
「誰が駿くんだ!誰が!敬意を込めて先生と呼びなさい!先生と!」と注意しながらも「てかどうかしたか?」と聖奈に尋ねる。
「梓ってさ・・寝相悪いでしょ?」と尋ねる。
「寝相?いや、そんな事無いと思うけど?なぁ?」と駿は梓の方を見る。
「バ、バカ!」梓は目を見開く。
「あっ!!!」駿は焦った様に声を張り上げる。
「今、あっ!って言った!」聖奈は後部座席から身を乗り出し、駿の顔を凝視する。
「あ、いや、その・・あはは」
「笑って誤魔化すな!白状しなさい駿くん!」
聖奈は駿の頬をつねる。
「分かった!分かった!話すから!」
駿は車を近くのコインパーキングに駐車し、立ち寄った喫茶店で、聖奈と沙月に、今梓が自分の家に寝泊まりしている事と、土曜日に探偵に金森こずえの捜索の依頼をしに行った事を正直に話した。
もちろん、言わずもがな風俗の話はしていない。
「やっぱり梓!駿くんの家に転がり込んでたんじゃん!この!」沙月は茶化す様に、梓の鼻を人差し指でツンと触る。
「ごめん・・・」梓は頭を下げる。
「まぁ、別に梓が謝る事じゃないんだけどね」聖奈がコーラを飲みながら言う。
「だからさ・・その・・この事は黙っといてくれると助かるんだけど・・」駿は不安そうな眼差しを聖奈と沙月に向ける。
聖奈と沙月は互いに腕を組考え込む。
「どうか!頼む!」「お願い!2人とも!」駿と梓は手を合わせて懇願する。
「まぁ、駿くんは、さすがに梓に手は出してないんだよね?」聖奈は真剣な眼差しで駿を問いただす。
「それはもちろん!神に誓ってそんな事はしてない!断言する!」駿は何度もうなずく。
「本当だよ?聖奈!沙月!駿からは何もされてない!」
「うー・・ん」聖奈はさらに考え込む。
「まぁ、しょうがないか・・黙っといてあげるよ!」聖奈は駿と梓の願いを聞き入れて黙認する事を約束する。
「本当か!?ありがとう!助かる!」
駿はテーブルに額を擦り付ける様に頭を下げる。
「まぁ、そもそも教え子に手を出すなんて、そんな度胸が駿くんにある訳ないか!きゃはは!」
「確かに!ないない!」
聖奈と沙月は駿を嘲笑うかの様に手を叩きながら爆笑する。
「喜んでいいだよな・・こういう場合は」
「まぁ、ある意味信用されてるって事でいいんじゃない?」
「ただ馬鹿にされてるだけの様な気もするけどな」
駿は貶された事を悲しんでいいのか、梓との事を黙認してもらえたのを喜んでいいのか、複雑な気持ちになる。
「てか、他に知ってる人っているの?バレたのはウチらだけ?」
聖奈の疑問に「まぁ、その・・雛形先生にバレちゃってな・・」と苦笑いをする。
「うっそ!?ソレやばいじゃん!」沙月は焦った様子で声を張り上げる。
「でも許してもらえてるから」梓が必死に釈明する。
「え?ガチ?あの雛形先生が許してくれたの?」聖奈は驚いた様に目を見開き、駿と梓がうなずく。
「意外・・あの人そーゆーの絶対に許さないタイプだと思ってた」
堅物だと思っていたつかさが、駿と梓の事を認めたという事実が受け入れ難い様で、沙月は終始空いた口が塞がらないと言った様子。
それから駿と梓はしばらくの間、聖奈と沙月からの質問責めにあっていた。
話の大半は2人の関係を問いただすもので、みんなが期待してる様なエピソードは無いと説明しても中々信じてはもらえなかった。
すると駿が「ちょっと電話してくる」とおもむろに席から立つあがる。
「電話?誰に?」梓の問いかけに駿は
「探偵さんだよ!さっきの裏路地の件を話すんだよ!少しでも手がかりになりそうな話は言っとかなきゃな!
だからちょっと行ってくる!それまではゆっくりしてろ!頼みたいメニューがあるなら遠慮なく頼んでていいから!」
そう言って店の外へ消えていった。
3人だけとなった店内で聖奈が梓に「てかさ、さっき雛形先生にバレたって言ってたけど、あれって本当?」と聞く。
「まぁ、うん」「でもさ信じらんないんだよね!あの雛形先生が黙認するなんてさ」
「確かにそうだよね!雛形先生じゃなかったとしても普通認めないでしょ!」
2人の言葉に梓は観念した様に口を開く。
「本当はね・・雛形先生から、教師が生徒を家にあげるのはダメだって言われたの」
聖奈と沙月は梓の言葉を黙って聞く。
「もしその事が警察に知られたりしたら・・駿は捕まっちゃうからって・・先生の事を思うんなら一緒にいるべきじゃないって・・だから私・・雛形先生の家に連れて行かれたの」
「まぁ同性ならまだ情状酌量の余地はあるしね」
「でも私・・やっぱ皆川先生と一緒にいたくて・・その・・皆川先生の家に連れてってなきれないなこの場で死ぬって言ったの」
「はぁ?そんな事言ったの?」梓の言葉に聖奈は声を張り上げる。
「皆川先生が警察に捕まるんなら私も一緒に捕まるって・・好きな人と一緒に入れないなら死ぬって・・そう・・言ったの・・・」
「じゃあ雛形先生は梓が駿くんの事好きなの知ってるって事?」沙月の問いかけに梓は黙ってうなずく。
「まぁ、死ぬなんて言われちゃったら、認めるしかないよね」聖奈は全てを悟った様にため息をつく。
「でも大胆なことしたね梓!」
「だって・・好きだから・・・」梓は顔を赤くしてうつむく。
「きゃー❤︎純愛ー❤︎」沙月は両手で顔を覆ってはしゃぐ。
「これはますます応援しなきゃね!梓の事!」
「私たちに協力出来る事なら何だってやるから!って言ったけど前言撤回!出来ない事でもやる!だから梓!遠慮せず何でも言ってね?」
「ありがとう・・聖奈!沙月!」
頭を下げる梓の目にはうっすらと涙が浮かぶ 。
「お待たせ!」探偵への連絡を終えた駿が席に戻ってくる。
「探偵さんなんだって?」梓が問いかける。
「ああ!伝えたら、裏路地周辺を重点的に捜索してくれるってさ!」
「よかったぁ」梓の安心した様に微笑む。
「だから安心しろ!」駿はそんな梓の頭を優しく撫でる。
「もう隠す気ないじゃん」聖奈は2人をジト目で見つめる。
「あ、いや、これは・・あはは」
駿はすかさず梓の頭から手を離して笑って誤魔化す。
「というか何も頼んで無いのか?遠慮せずにケーキとか頼んでよかったんだぞ?ジュースだけで良かったのか?」
駿は皆が何も注文していなかった事に言及する。
「いや、それなんだけどさ!なんかお腹空いてきちゃってさ!」聖奈がこれみよがしにお腹をさすりながら言う。
「いや、だったらホラ!オムライスとかハンバーグとかあったろ?注文するか?いいぞ?」
駿が聖奈と沙月にメニューを手渡す。
「いや、そうじゃなくて・・ねぇ?」
「うん!うん!そういう話じゃないんだよね」
聖奈と沙月はアイコンタクトをとる。
「は?どう言う意味だ!」駿が首を傾げていると、梓が「焼肉とか食べたいって言いたいんじゃないかな?」と耳打ちする。
「はぁ!?焼肉?」駿は声を張り上げる。
「そりゃそうでしょ?」「そう!そう!やっぱ奢ってもらうってなったら焼肉でしょ!」
聖奈と沙月は2人して大袈裟にうなずく。
「お前らなぁ・・・」駿は下唇を噛み締める。
「いいんだよ?ご馳走してくれなくても!その代わり叫んじゃうから」
「さ、叫ぶって?」
「教師が生徒を家に連れ込んでるってね」
聖奈の言葉に駿の額から大量の汗が噴き出る。
「いや!待ってくれよ!黙っといてくれるって言ったろ!」
「なら奢ってよ!ね?ね?いいじゃん!」
「はぁ〜・・わかったよ・・焼肉な?」
駿はイヤイヤながらも皆に焼肉を奢る事を約束する。
「わぁーい!やったー!」「焼肉だー!」
聖奈と沙月は両手を突き上げて、バンザイで喜ぶ。
「なら、ホラ!親御さんに連絡しろ!今日は先生と焼肉に行くって!」
「はぁーい!」そう言うと聖奈と沙月はスマホを取り出して親に連絡する。
「なんかごめんね?2人が無理言っちゃって」
梓が申し訳なさそうに頭を下げる。
「梓が謝ること無いだろ?まぁ、たまにはこういう日があってもいいだろ」
聖奈と沙月が両親への電話連絡を終え、皆焼肉に向けて席を立とうとする。
「ならい行くぞ?」「はぁーい!」
駿の問いかけに3人が元気よく返事する。
すると駿のスマホから着信音が鳴り響く。
「ん?誰だ?」駿はスマホを取り出してディスプレイを確認する。
「げっ!!!」駿の顔が強張る。
「どうしたの?」梓は心配そうに声をかける。
「雛形先生からだ・・・」
そこには雛形つかさと表示されていた。
「雛形先生?何の用なんだろ?」聖奈が首を傾げる。
「さぁ・・まぁ、とりあえず出てみるわ」
「みんなに聞こえる様にスピーカーにしてよ?」
聖奈の問いかけに駿は「わかった!分かった!」と言いながら 恐る恐る電話に出る。
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