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皆のやり取りを見ていた櫻子は、ひどく動揺していた。
温和な父、圭助が珠子をぶった。そして、珠子は、母である勝代へ助けを求めた。
いないと分かっている母親を求める珠子の姿は、哀れとしか言いようがなかったが、ふと、自身を重ねて見ていることに、櫻子は気が付く。
何故、お浜の冷たい言い分に対して珠子を、必死に庇ってしまったのか。それは、哀れみや、同情を越えたものだった。
自分も、受けた仕打ちに助けを求めようと、亡き母にすがっていた。
珠子も……。一緒なのだ。
それが分かったから、櫻子は……。
結局、どうあれ、珠子は、櫻子の妹……、であるということなのだろう。
憎いと思っていた珠子の事を、どうして、認められるのか、櫻子も不思議だった。
が──。
その答えを櫻子は、直ぐに知ることになる。
「大丈夫か?」
碧い瞳が、櫻子を包み込むように向けられていた。
「……おはじき……」
ポツリと、櫻子の口から自然に出てきた言葉に、金原は首を傾げている。
めちゃくちゃで、強引で、理不尽な理由を押し付けられ、拐われるように、金原の元へ連れて来られた。
父、圭助は、情けない程の醜態を晒し、勝代は、これで借金はなんとかなったと楽観し、珠子は、櫻子のことなど、なんとも思っていなかった。
それが、立場が逆転し、珠子は、守られていたはずの圭助に突き放され、頼みの綱の母は、裏切りに等しい形で消えてしまった。
そして──。珠子は……。
櫻子同様、金原商店の皆に、助けられている。
珠子は気づいていないが、金原の家の者達は、櫻子にかこつけ、珠子の事も、なんとかしたいのだろう。
「旦那様……」
とても粗っぽく、不器用なやり方だけれど、思えば、櫻子は、花嫁として迎えられ、ずっと、金原に守られていた。それも……。子供の頃から、ずっと。
「私……」
覚えがないと、言い切ってしまった自分が情けなくなり、はたまた、柳原の家の行く末や、珠子のことまで考えている金原の真の想いに気が付かなかった自分が情けなくなり、櫻子は泣いていた。
「だ、大丈夫だ!ハリソンは、ああ見えて、やるときはやる!珠子さんの事は、心配するな!というよりも、櫻子!な、泣くな!義父《おとう》さんの前だろ?!」
金原が焦る。
「……社長。本当にありがとうございます」
おろおろする金原へ圭助は、頭を下げた。
「櫻子を可愛がってくださって……そして、櫻子の妹だからというだけで、珠子まで面倒をみてくださって……。社長のお考えは、八代さんから、伺っていました。それなのに……珠子は……立場をわきまえず、やりたい放題。私が、後添えとの子だから、肩身が狭くならないように、甘やかしたのが間違いでした……」
そして、櫻子……。と、圭助は呟き、気恥ずかしそうに、背負っている風呂敷包みをほどいて、縁側へ置いた。
「……ご依頼のものです」
圭助は、金原と櫻子へ、中身を見せた。
「……櫻子、私からの心ばかりの贈り物だ。と、言いたいが、今の私には、お前に何も用意できない。こちらはすべて、社長の采配だ。心して、お仕えするんだよ……」
自虐ぎみに、圭助は言うが、櫻子には、父の言っていることが分からなかった。
「おやまあ!これは!さすが、柳原商店だこと!!」
中身を見たお浜が驚いている。
驚くのも無理はない。広げられた風呂敷包みの中には、白無垢、黒留袖、色打掛と、婚礼に必要な衣装の反物が積み重なっていた。
勿論、一目で上質と分かる品揃えだった。