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「すげえなぁ。反物ってそんなに、光るものなのか?!」
「龍、最高級品の証拠だよ。高級な絹は、艶が違うんだ。流石だねぇ、あたしゃ、本当に驚いた!!」
お浜も龍も、圭助が持って来た反物に驚きを隠せない。
「……社長、いががでしょうか?」
圭助の伺いに、金原は、考え込んでいる。
「お気に召さない……のでしょうか?」
「い、いえ、そう、ではなく……」
口ごもる金原に、圭助は、焦った。
「な、ならば、もう一度、もう一度だけ、柳原商店にお任せ願いませんか!!」
金原の様子に、反物が気に入らないのだと思った圭助は、必死に粘った。
そんな、商う父の姿と、余りにも上等な反物の数々に、櫻子は、仰天どころか、何が起こっているのか、ついて行けないでいる。
おそらく、これは、自分の婚礼衣装の為に用意されたものなのだろうが、余りにも、分相応な、高級すぎるもの。金原の態度も、そういうことなのだろうかと気になった。
それに、婚礼衣装なら、花嫁道具のひとつとして、櫻子側で用意しなければならない。何から何まで金原が用意するのは、筋が違っているはずで……。櫻子も、そこまで、金原に頼って良いのだろうかと、一抹の不安の様なものに襲われる。
圭助、櫻子の、引きつった面持ちに、金原は、はっとして、慌て、重い口を開いた。
「い、いや、品物に、文句はない。流石だと思っています。ただ、俺としては……」
「どこが行けなかったのでしょうか?」
圭助が、金原へ食い下がる。
「……いや、その、俺は……桜づくしで行きたいんです」
「桜づくし……ですか……」
金原の言った意味がわからない圭助は、言葉なく立ちすくんでいる。
「なるほど、櫻子さんだけに、桜ですか……」
ニンマリしながら、八代が言った。
「あー!なるほどねー!キヨシあんた、意外と乙女だねぇ」
お浜が、からから笑っている。
そんな中、金原は、むず痒そうな顔をして、俯いた。
「あー、社長!もしかして!金原の屋敷に桜を植えたのも、そーーゆーーことですかぃ?!」
龍が、弾ける。
金原は、皆の視線に耐えられず、気はずかしそうに、言い訳しようとするが、お浜が、ピシャリとそれを止めた。
「キヨシ!あんたの夢も分かるけどね、それは、駄目だ!辞めな!桜ってのは、これからだと、季節はずれだ!着物の柄は、時候に合わせるってのが常だよ?突飛な事をしてしまったら、櫻子ちゃんが、恥をかくだろっ!」
あんた、祝言あげようって準備に走っておきながら、と、お浜は、金原をなじる。
「いや、いや、わかっている!だからこそ、急いだんだが、なにがなんだか、ずるずると遅くなってしまって、桜は、とうに見頃を終えてしまうし、俺は、怪我をするし……」
ばつが悪そうに、返答をする金原は、世間から、鬼と呼ばれる男とは程遠い、純朴な青年になっていた。
「鬼キヨが、すっかり、借りてきた猫になって。どうです?社長?何か、良い案が、お浜にあるはずですよ?後は、お浜と柳原さんに任せてみたら?」
八代が助け船を出すが、満面の笑みを浮かべていた。
「え?!八代の兄貴が、笑った?!」
龍が、腰を抜かす勢いで驚いている。
「いやいやいや、八代の兄貴!!お浜にって、大丈夫なんですかい?ってことより!兄貴!!俺は、どうすりゃいいんです?!金原の屋敷は、山根の親分の手に渡っちまったんですよ!!この一大事、忘れるところだったじゃねぇかっ!!」
ハリソンが、神宮建造の現場に現れ、いきなり、屋敷を売ったからと、龍に了解を得ようとしたのだとか。
「んなもん、そーゆーことで!で、収まる話じゃないでしょうがっ!!慌てて、此方へ来たんですけどね、ハリソンに珠子まで、くっついて来て、結局、俺は、どうすりゃいいんですよぉ!兄貴!!」
龍は、ここへやって来た理由を切々と語り、どうなってんだと、八代へ詰め寄った。
「騒がしいぞ、龍」
事情を知る八代は、落ちつきはらっているが……。
「兄貴ーー!!もうーー!!勘弁してくれっすぅーー!!俺っち、疲れたっすよぉ!!」
虎が、よたよたしながら、空の人力車を引いて現れた。
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