コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「な、なっ、なんで、二代目が?!」
岩崎が裏返った声を出す。
「うるせぇよ!とにかく、そこに座んなっ!」
二代目が、岩崎へ噛みついた。
「座れといってもなぁ!足の小指を打ち付けて、痛いのだっ!」
「ああ!それ、それねっ!なんで、ぶつけるのは、小指なんだろうねぇ、まあ、痛いのなんのって!!違うわっ!!月子ちゃんを、月子ちゃんを、傷つけてっ!!いいのかよっ!」
二代目の、叫びに、岩崎は、転がったまま、月子の姿を目で追った。
うずくまった月子は、泣いていた。
お咲が寄り添い、月子のぶつけたであろう頭を撫でている。
「す、すまん!私が、つい、投げ飛ばした!頭をぶつけたか!」
岩崎は、慌てて起き上がるが、痛てっと呻いている。
「あのなぁ、京さんよ!あんた、月子ちゃんに、何したか、わかってんのか?!」
我慢ならんと、二代目は、部屋へ入り込み、ストンと腰をおろすと、畳をダンと叩いた。
「京さん!あんた!月子ちゃんを、めちゃくちゃ傷つけたんだぜっ!!足の小指が痛いどころか、その小指、詰めてもらいたいぐらいだわっ!!!」
怒り狂う二代目の姿に、岩崎は、はたと、我に戻る。
「二代目、なぜ、そこまで怒る?!私が、何をしたというのだ?!確かに、月子は、頭をぶつけているようではあるが……」
あぁ、と、二代目は、じれったそうに、呟いた。
「……それより、二代目、なぜだ、お前こそ、なぜいるんだ?!」
その方が問題だろうと、岩崎は、足の小指を庇いながら、胡座を組むと、二代目を見据える。
「合鍵つかったんだよっ!ってーか!!うそだろっ!わかんねぇのかっ!てぇめぇーのしたことっ!!」
いきなり、二代目は、真顔になって、岩崎にせめ寄ると、少しはたけている寝巻きの胸の袷を掴んだ。
「まだ、あんたは、まだ、追いかけてるのかよっ!!!」
二代目に、ぐっと、引き寄せられた、岩崎は、訳がわからぬという顔をしつつも、尋常でない態度を見て黙りこむ。
「……まさか、さっきのこと、覚えてねぇのか?!嘘だろ!」
「……ああ、寝ぼけていたから」
正直に答える岩崎に、あきれ果てつつ、そこが、許せねぇと、二代目は吐き捨てるように言うと、いきなり、岩崎の頬を殴り付ける。
勢い、岩崎は、姿勢を崩し、畳に転がりこんだ。
「マリーって、マリーって、なんだっ!!あんたが、一番わかってんだろっ!!」
二代目が叫ぶ。
いきなり殴るとは、何事かと、二代目へ飛びかかろうとしていた、岩崎の勢いが止まった。
「……それは。それは……」
「思いだしたか?月子ちゃんに、したこと……」
ぐっと、岩崎の喉が鳴る。
「だから……それは」
岩崎は、転がったまま、俯いていた。
二代目は、我慢ならんと、岩崎に近寄り、再び胸ぐらを掴むと体を荒々しく引き起こす。
「……月子ちゃんは、どうなるんだよ!いい加減、昔のことなんか、忘れろよっ!」
岩崎はガクガクと、二代目に揺すぶられ、それでも、黙ったまま、されるがままになっていた。
この光景に、月子は、驚きを隠せない。
何が起こっているのか、理解しようと思うが、じっと、男二人の争いを見つめることしかできないでいた。
わーーん、と、お咲が、鳴き声をあげた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!お咲が!お咲が!」
お咲は、今まで、何か揉め事があると、邪険に扱われて来たのだろう。ひょっとしたら、八つ当たりされていたのかもしれない。
月子は、とっさにお咲を抱きしめ、ゆっくりと、その小さな背中を撫でてやる。
「大丈夫だよ、お咲ちゃんのせいじゃない。お咲ちゃんは、悪くないよ」
ぐずぐず、べそをかく、お咲を抱きしめる月子の頬にも、涙が伝っていた。
岩崎に抱き締められた時の事を、思い出したのだ。
確かに、マリーと、言った。岩崎は、懐かしそうに、いっそう月子を強く抱き締め……そして、口づけてきた。
寝ぼけていた、のだろう。でも……。
月子の涙は止まらなかった。
そして、芳子から聞かされた話を思い出す。
きっと、きっと、マリーというのは……。
「月子ちゃん!俺と一緒に来い!!お咲も、ついでに、着いて来い!!」
二代目は言うと、掴んでいた岩崎の袷を放し突き飛ばした。
そして、そのまま、二代目は月子の所へ来ると、手を差しのべる。
「……あんな男なんか、放っておけ!」
言って、二代目は、月子の手をとる。
「……月子ちゃん、火事は、西条の家だった。全焼だ。それを知らせに来たら、あの野郎わっ!!どうあれ、ここには、いない方がいい。あいつの相手をする必要もないし、へたすりゃ、西条家から、助けを求めて、人が来るかもしれない……」
「えっ?!」
昨夜の火事が、西条家だったと聞かされ、月子は、ますます、混乱した。
二代目に、聞きたい事があるはずなのに、どうしても、口が上手く動かない。
気がつけば、二代目に立たされ、引っ張られながら、岩崎の部屋を出ていた。
お咲も、そんな、月子の袖をしっかり握って、ぐずぐず泣きながら、着いて来ている。
「二代目!!」
岩崎が、叫んだ。
しかし、二代目は、振り向くこともなく、月子とお咲を引き連れ、玄関へ向かう為に、廊下を腹立たしそうに歩んで行く。
「つ、月子!!」
岩崎が月子の名前を呼んだ。
が、月子は、どうしてか、振り向き、岩崎を見ようと思えなかった。