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「先程申し上げた商工会ギルドは、良き転生者の相互扶助組織でもあるのです。お人好しはこの世界では、悪用されがちでございますから」

「利用……ではなくて?」


「はい。世界にとって、悪い方向に作用する用いられ方をしますので、悪用です」

「なんか、大変そう。ですね」

私も、魔王さまの元に落ちなかったら……悪用されたのだろうか。

治癒魔法に、悪用とかは無さそうだけど。


「ええ、ええ。仰る通り大変でした。が、今はほとんど、危惧しなくても良い程に体制を整える事が出来たので、どうぞご安心ください」

私の一言一言に、どうしてか感嘆するのは、恥ずかしいからやめてほしい。



「それじゃあ……今は、皆さん幸せに暮らされていますか?」

「あぁ……聖女様。そのお言葉で、我々の魂がどれだけ救われた事でしょう」

「――えぇっ? そんな、大げさな……」

その私の声は、聞き入れてはもらえないらしい。


「みな、楽しく暮らしております、聖女様。さすがは、そのお力を得られたお人です」

「あんまり褒め殺しされてるせいで、背中がもぞもぞします……」


「はっはっは。これでも、もっと褒めちぎりたいのを抑えているのですよ」

「ほ、ほんとに大袈裟なんですから……」

置かれたカップに手を伸ばして、まだ湯気の昇るお茶を少し口に含んだ。

照れを通り越して、恥ずかしい。



「ちなみに、病に伏していた仲間を、聖女様にはもう何人となく癒して頂いております。此度のご宿泊は、そのほんのお礼に過ぎません」

「あ、そ、そうだったんですか」

そう言われると、宿泊させてもらうのが、少し気楽になった。


「でも、良かった……もう皆さんは、お元気にされていますか?」

いつ癒した誰なのかは分からないけど、予後はどんな様子だろうか気になった。また必要そうなら、治癒はいつでもしてあげたい。


「ええ。本当にお陰様で。皆、聖女様へのお礼を、誰が最初に出来るだろうかと話しているのですよ」

「そ、それはもう、気になさらずにとお伝えください」


「いえいえ。幸いにも、私が一番に名乗り出られた所です。ですからどうか、何も気兼ねなさらずにお受けくださいませ」

「そ、そのお気持ちはありがたいですけど……」

そう言われても、私はそんなつもりじゃないから過度なお礼は、困ってしまう。



「サ~ラ。こういうお礼はね、受け取ってあげないと……どんどんエスカレートするわよぉ?」

「え、えぇ~?」

そんなの聞いたことがない。


「はっはっは。失礼。ですが、イザリス様の仰る通りです。こちらの気が済むまでお礼させてくださらないと……死んでも死に切れません」

「も、もぅ……分かりました。それでは今夜一晩、泊まらせてください。でも、それで全部チャラですからね。私、別に大したことしてないですから」


「まったく……少し心配になってしまいそうです。イザリス様、聖女様をどうかお護りください。ご宿泊に関して、イザリス様もご希望のままにさせて頂きますので」

彼は少し、私に対して困った様子のままで、リズにそう言った。


「え~っ? うそぉ嬉しいんですけど!」

そのリズは、単純に喜んでいるけれど。



「ハハ……。でもイザリス、ほどほどにしないとダメよ?」

「んもぅ。サラは分かっていないわねぇ」

イザリスは私の耳に顔を近付けて、そっとささやいた。


「貢ぎ物もお礼も、無邪気に喜んであげた方が、送る方も嬉しいのよ」

それは、私にしか聞こえないような声だったと思ったけれど。


「ほっほっほ。イザリス様の講義は、きっと為になることでしょう。それではわたくしは、業務に戻ります。何かあればすぐにお呼びくださいませ」

――聞こえたのかしら。



それよりも、リズはここぞとばかりに更に注文を加えたものだから、私は口が開いてしまった。

「支配人。後で食事を運んでもらえる? フルーツが多いと嬉しいんだけどぉ」

期待でいっぱいの、満面の笑みだった。


「り、リズッ」

「かしこまりました。すぐにご用意致します」

一礼して去った彼を、リズは支配人と呼んだ。

言われてみれば、そういう地位の人でなければ、勝手にこんな申し出は出来ないか。と思ったけれど。



――まさかの人物から、濃ゆい情報を聞いてしまった。

かなり時間が経ったかと思ったけれど、まだ半時間も経っていない。

魔王さまの元に帰る時間まで、少し余裕がある。


となると、やっぱり今、聞いておきたい。

「ねぇリズ。私、夢魔の魔法を教えてほしいんだけど……」


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