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「ちょっとぉ……冷たいんじゃない? 私、あなたのことをここでずっと
待ってんだから、話ぐらい聞いてくれてもいいんじゃない?」
おいおい、待っててくれなんてこちらからお願いしたわけじゃなし、
ほんとに身勝手な人だ。
それに直の友達でもない俺に一体どんな話があるっていうんだよ。
時間もすでに22:00近くで、うんざりだ。
しかし、だからといって話を聞いてほしいと言われては無碍《むげ》にもできず、
俺は仕方なく返事をした。
「あっ、もうクタクタでお腹も空いてたものですから、つい早く家に帰りたく
て……足を止めずに失礼しました。で、お話というのは?」
「あら、ごめんなさい。
私ったらつい話を聞いてほしくて強い口調になってしまって。
あのね、また休日の午後にでもマッサージをしに来てくれたらうれしいなって……
それをお伝えしたかったのよ。早速明日か明後日にでもどうかしら?」
「あー、お誘いありがとうございます。
でも、うちも住宅ローン抱えてるのでサロンに通うというのは
正直きついんですよね。
どなたか懐に余裕のある人を誘われては如何ですか。
折角なのですが、申し訳ありません」
「何よ、この甲斐性なし! しょうがないわね、半額にしてあげるわ。
どう?」
「いえ、遠慮させてもらいますよ。
甲斐性なしを相手にしてもしようがないでしょ。それじゃ」
とんでもなくネジが10本くらい抜けてる女がくだらない提案をしてくるから、
頭が痛くなってきた。
早く家に帰って圭子と未紗の顔を見て癒されたい。
……と、しみじみ思いつつエレベーターのボタンに手を掛けたその時だった。
後ろから彼女が言い放つ。
「あの日、何があったのか、圭子に言ってやる。
何もなかったなんて言い訳は通用しないんだから」
彼女が脅しの台詞を吐き続けている間にエレベーターが1階に降りて来た。
扉が開くと俺は素早く乗り込んだ。
そしてそのあと、彼女が一緒に乗り込んできやしまいかと冷や冷やしながらも
すぐに開閉ボタンを押した。
ドアが閉まり始めたときに、彼女の最後の脅し文句を聞くこととなる。
「ペットカメラに部屋の様子がバッチリ映ってるのよ」
扉が閉まる直前に捨て台詞を吐く彼女の顔が視界に入ってきたのだが、
平素の見た目美しいと自他共に表現されているその顔は、俺にはとても醜く
おぞましいものとして映った。
それにしても余りに用意周到な女の計略に愕然とするばかり。
エレベーターを降りると数メートル先にはいつものように自宅の灯りが見えた。
ほっとしつつも、今日はやけに遠くに感じてしまう。
そして、様々な出来事それに伴う己の心情などが、一挙に俺の脳内に
洪水のように押し寄せてくるのだった。