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龍河は車を路肩に停車させ、指を折りながら時系列を並べ始めた。
「『1月』に『地図帳発売』
『2月』にその『修正版を発売』
『3月』に『大阪万博を開催』」
そして全員を見渡す。
「時系列順に並べたらこうなるよな?」
信愛は小さく頷いた。
「はい・・・そうですね」
龍河は静かに続ける。
「新開村で疫病が蔓延したのが
『1月』だったと考えたら?」
龍河は全員を見渡し、静かに問いかけた。
「そしてその同じ月に村を焼いていたとしたら?」
焔垂は息を呑み目を見開く。
「あっ、そっか!」
点と点が繋がったように、言葉が一気に溢れ出した。
「だから急いで2月に修正版を発売したのか!
初めから新開村なんて場所は初めから
存在して なかったって事にする為に急いでたんだ」
龍河は満足そうに頷く。
「そう考えたら、コストをかけてまで
自主回収した事にも納得できるだろ?」
そして少しだけ皮肉混じりに苦笑した。
「この国は隠蔽に関しちゃ鬼のように早いからな」
茜は納得しきれない表情で首を傾げる。
「でも、なんで村を焼いたんですか?」
龍河は迷いなく答えた。
「それが大阪万博さ」
言葉を切ると、ゆっくり続ける。
「開催2か月前に疫病が蔓延したなんて事実が
世界に知られたら、開催中止は免れないだろ?」
さくらは手を打った。
「あっ!だから『天秤』か!」
龍河は微笑み返す。
「そういう事!」
少し間を置き、さらに説明を重ねた。
「大阪万博は日本初の国際的な
イベントだった筈だからな」
記憶を辿るように視線を上げる。
「確か1940年にも万博を開催する予定だったけど
戦争で中止になったって経緯があった筈だから
『次こそは!』って躍起になってたんだろうな」
焔垂はスマホの画面を確認しながら頷く。
「ああ、確かに書いてあります」
画面には、当時の記事が映し出されていた。
なお、1940年に東京で「紀元2600年記念日本万国博覧会」が計画されていたが、戦争の影響で中止された為、1970年の大阪万博が実質的な日本初開催となった。
それを読んださくらが顔を上げる。
「戦争って?」
龍河は朝陽へ視線を向けた。
「1940年の戦争って言ったら確か──」
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
朝陽はすぐに答える。
「その年代の戦争なら
『第二次世界大戦』だと思います」
龍河は感心したように笑った。
「おぉ!朝陽くん詳しいな」
朝陽は少し照れながら頭を掻く。
「昔から興味あって、ポツダム宣言とか
玉音放送とか、深掘りして調べてたんです」
「ああ、確か前にそんな話してたね」
龍河は静かに頷いた。
「朝陽くんの言う通り、中止理由は
第二次世界大戦で間違い無いだろうな」
彼は窓の外へ目を向ける。
「また、大阪万博は戦後復興の
完成形というか、 経済大国としての再起
『今度こそ世界に日本という国を見せてやる!』 っていう、そんなリベンジの意味合いもあったんだと思う」
力を込めて言い切る。
「だから中止にする訳にはいかない
って気持ちは強かったはずだ」
信愛は腕を組みながら考え込む。
「でも、大阪万博の為だったとして何で東亰の
村を焼いたんですか?大阪じゃないのに」
さくらも頷いた。
「確かにそうだよね。東亰万博だったって
いうなら理解できなくもないけど・・まぁ
村を焼くってのは理解できないけどね」
龍河は静かに説明を続ける。
「確かに開催場所とは離れてるかもしれねーが
当時は東亰にだって各国の要人が宿泊していた筈だろ?」
朝陽はすぐに納得したように頷いた。
「あっ、そっか!」
さらに思い出したように付け加える。
「それに奥多摩は『水源地』
としても有名ですからね」
信愛も腑に落ちたように顔を上げた。
「そっか!要人が水飲んで死んじゃったら
国際問題になっちゃうもんね!」
龍河は静かに頷く。
「地図帳発売から修正までの異様な迅速さ」
少し間を置き、指を折りながら続けた。
「1970年開催の大阪万博、そして
新開村があった奥多摩という土地の重要性」
そして最後の一つを口にする。
「そして最後に教団の目的と思われる修理固成
これら全てを統合して考えると──」
信愛は息を呑みながらその先を受け継ぐ。
「国家の陰謀で村を焼かれてしまった少年が
国と人を恨んで修理固成を企んだ・・・」
ゆっくりと言葉を噛みしめる。
「そう考えることが出来るって事ですね?」
龍河は腕を組み、小さく頷いた。
「まあ、物的証拠が乏しい情報だけで
導き出した仮説でしかないんだが」
それでも自信はあるのだろう。
「そう考えれば色々と辻褄が合うと思う」
さくらは震えるように息を漏らした。
「確かに・・・合いすぎて怖いくらい」
その時だった。
信愛が突然、声を上げる。
「あ!馬場さん!」
龍河が振り向く。
「どうした?」
信愛はスマホを見つめたまま答えた。
「GPSが止まりました」
龍河の表情が一変する。
「本当か!?」
すぐさま車を停車させて身を乗り出した。
「どこだ!?どこで止まった!?」
信愛は慌てることなく、GPSアプリと地図を何度も見比べる。
沈黙が車内を包む。
やがて、確信に満ちた声が響いた。
「あ!この場所は新開村があった場所です!
間違い無いです!見せてもらった
地図とも場所がバッチリ合ってます!」
龍河は深く息を吐いた。
「やっぱりそうだったか・・・」
焔垂も納得したように頷く。
「霊貴冥孤から聞いた教団が
保有する村は新開村だった
そう考えて間違い無いって事っスね!」
龍河は静かに前を見据える。
「ああ・・・そういう事になるな」
フロントガラスの向こうへ視線を向ける。
「あと1時間半あれば着く」
その一言に、車内の空気が張り詰める。
「このまま新開村まで一直線に進むぞ」
信愛は小さく息を整え、力強く頷いた。
「はい・・お願いします」
それから龍河は再び車を走らせる。
コメント
1件
読み終わりました。時系列を整理する場面、すごく好きです。地図帳の修正→万博の開催→村の焼却という流れに、国家の隠蔽体質が見え隠れしてて、ゾクッとしました。「この国は隠蔽に関しちゃ鬼のように早い」って台詞、皮肉が効いててリアルだなあ。それにしても、修理固成を企んだ少年が誰なのか、ますます気になりますね。GPSが止まったラストも、次の展開を予感させてゾワゾワしました。