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信愛たちが新開村跡地へ向かっている頃。
犬吠埼病院では、多摩雄の額の傷の縫合が行われていた。
待合室の椅子に腰を下ろした美月は、両手を祈るように組み、不安げな眼差しを床へ落とす。
「白縫さんたち・・大丈夫でしょうか?」
その声に、隣へ腰掛けていた忍が穏やかに微笑んだ。
「安心してください」
一呼吸置いて、ゆっくりと言葉を続ける。
「馬場は頼りになるヤツです。一度口にした事は
何としてもやり遂げる。そんなヤツです」
美月は静かに頷く。
「随分と信頼されてるんですね」
忍は少し照れくさそうに笑った。
「まぁ、飄々としてるヤツですが
長年仕事を共にしてる戦友みたいなもんですから」
そして少し表情を引き締める。
「まぁ、とは言え、関係が浅い先生に、アイツを
信用してくれと言っても無理な話でしょうが」
美月は首を横に振った。
「いえ、そんな事ありません」
一度言葉を区切り、真っ直ぐ忍を見つめる。
「カルネアデスバスの一件で馬場さんが
どんな方かは大体わかりましたから」
その言葉に、忍は苦笑した。
「ああ、そう言えばそうでしたね」
「馬場さんを信頼します。ただ、生徒たちが馬場さんに
迷惑をかけないか・・・それだけが心配ですね」
美月は少し困ったように笑う。
「あの子達はこうと決めたら、周りが
見えなくなってしまう部分がありますから」
「なるほど、先生という立場も色々大変みたいですね」
「あはは、ええ、まあ」
そんな穏やかな空気の中、病室の扉が開いた。
縫合を終えた多摩雄が、額に新しいガーゼを貼ったまま姿を現す。
「多摩雄さん!大丈夫でしたか!?」
忍が立ち上がる。
多摩雄は苦笑しながら頷いた。
「ええ・・・4針ほど縫いました」
「結構深い傷でしたもんね」
美月が安堵の息を漏らす。
多摩雄は額を軽く押さえながら忍へ視線を向けた。
「それから江波山さん。あれから
馬場さんからは連絡は来てますか?」
「馬場からは──」
そう呟いた瞬間、忍にスマホが震えた。
画面には、LIMEの新着通知。
「あ、たった今、馬場からLIMEが来ました」
「何と書いてあります?」
多摩雄が身を乗り出す。
忍は画面へ目を落とし、メッセージを読み上げた。
「『奴らはやっぱり新開村に向かったみたいです』」
さらにスクロールする。
「『俺らもそこに向かってます』」
さらに行は続く。
「『何か進展があったら追って連絡します』
だそうです」
「新開村って、さっき忍さんが言ってた教団の村ですね?」
美月が確認するように尋ねる。
忍は苦笑を浮かべた。
「ええ・・・教団の村っていうのは私の
憶測でしかありませんでしたが」
静かに忍を見つめる。
「どうやら・・・間違いなかったみたいですね」
その言葉に、多摩雄は小さく肩をすくめる。
「嫌な予感ほどよく当たるものですね・・・」
◇ ◇ ◇
送信を終えた信愛が小さく頷く。
「はい、今送りました」
そう言うと信愛は龍河にスマホを手渡す。
「サンキューな。代わりに打ってもらって」
龍河はスマホを受け取ると、スマホをセンターコンソールに収納する。
しばらく沈黙が流れた後、茜が前方を見つめながら口を開いた。
「でも、その新開村って車で行ける場所なのかな?」
龍河はハンドルを握ったまま苦笑する。
「さあ、そこまでは現地に行って確かめた
訳じゃ無いからな。なんとも言えねーか・・」
少し考え込むように視線を細める。
「最悪の場合・・途中から徒歩になるかもな」
「うげぇ〜・・徒歩かぁ〜・・・」
茜は露骨に肩を落とす。
その様子を見た焔垂が呆れたように笑った。
「露骨に嫌な顔すんな」
信愛も苦笑を浮かべる。
「ごめんね、茜・・・」
するとさくらがすかさず口を挟んだ。
「ほら!余計なこと言うから!」
「あ、ごめん・・・」
茜がしゅんと肩をすぼめた、その時だった。
「あ、待て」
龍河の鋭い声に、車内の空気が一変する。
龍河は静かに車を路肩へ寄せるとエンジンを切り、ドアを開けて外へ出た。
目の前には、草木が生い茂り、道を完全に覆い隠している。
「道が塞がってるな・・・」
近づいて確認すると、背丈ほどの草木が行く手を阻み、車での進入は到底不可能だった。
「あ!馬場さん!あの車!」
茜が声を上げ、林の奥を指差す。
その先には、黒塗りのワンボックスカーが静かに停まっていた。
信愛の表情が一瞬で強張る。
「あの車は──」
唇を震わせながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「私を連れ去った教団の人が乗ってた車です!」
龍河はすぐに信愛へ向き直る。
「なに!?間違い無いか!?」
「はい、間違いありません!
確かにこの車でした!」
その返答を聞いた龍河は周囲を素早く見回す。
「って事は、この辺に──」
木々の隙間を注意深く観察していると、不自然に草が踏み分けられた場所が目に入った。
「あ、あった!」
龍河は低く呟く。
「ここに道がある」
そこには、人一人がやっと通れるほどの細い獣道が、深い森の奥へと長く続いていた。
朝陽がその先を見据える。
「なら・・この先に・・・」
龍河は静かに頷いた。
「新開村跡地がある」
信愛は胸元で手を握り締め、小さく呟く。
「お母さんも居る・・・」
その言葉に、龍河は全員を見回した。
「よし・・みんな・・・行くぞ」
茜は目の前の細い道を見つめ、不安そうに息を呑む。
「こ、ここを通るんですか?」
「仕方ねーだろ」
龍河は苦笑しながら肩をすくめた。
「ここくらいしか道はねーんだから」
「そ、そうですよね・・・」
覚悟を決めたように茜が頷く。
その隣で、焔垂は何も言わず茜の手をそっと握った。
突然のぬくもりに茜は驚き、焔垂を見上げる。
「焔垂・・・」
焔垂は照れ隠しのように前だけを見据えたまま、ぶっきらぼうに言った。
「一人じゃねーんだから・・・心配すんな」
その短い一言だけで十分だった。
茜は安心したように小さく笑みを浮かべ、握り返した手に力を込める。
「う、うん・・わかった・・・」
森の奥から吹き抜ける冷たい風が木々を揺らし、細い道はまるで彼らを誘うように静かに続いていた。
「なるべく、でかい音出さねー様にな?」
龍河を歩く龍河は皆に優しく語りかける。
「はい・・・」
信愛は真剣な名指しで頷く。
コメント
1件
読み終えました…。 新開村跡地に向かう二つのグループの緊張感が、ひしひしと伝わってくる回でしたね。 特に、焔垂が茜の手を握って「一人じゃねーんだから」って言うシーン、すごく好きです。ああいう何気ない優しさが、重い空気の中だからこそ心に沁みます。 それに、信愛が「あの車です」って言った時の声の震え…彼女の過去が、この場所に確かに繋がってるんだなって思うと、胸が締め付けられました。 獣道の先に何があるのか、怖いけど、目が離せないです。龍河さんの落ち着いたリーダーシップも、頼もしくて。
#普通
野々さくら
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ありあ
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