翌日、栞は大学のカフェで、サンドイッチとコーヒーを前にぼんやりと物思いにふけっていた。
そこへ愛花が来て、栞の肩を軽く叩いた。
その瞬間、栞は驚いて飛び上がりそうになった。
「あー、なんだ、愛花か、びっくりしたー」
「栞、ボーッとしてどうしたの?」
「え? あ、ううん……なんでもないよ」
「恋の悩みなら、いつでも相談に乗るわよ! これでも愛花様は恋愛の大先輩ですからねー!」
愛花がふざけて言うと、栞は突然真剣な表情になり、こう尋ねた。
「じゃあ、ちょっと聞いてもいい?」
「うん、何?」
「あのさ、愛花、おでこにキスされたことってある?」
その質問に、愛花はキョトンとした表情を浮かべた後、こう答えた。
「あー、あるある! 中学3年の時の彼にされたわ! 懐かしいあの青春の日々……私にもそんな時代があったのねぇ♡」」
愛花はうっとりとしていた。
「ちゅ、中学生で!?」
「そうだけど、何驚いてんの? え? あ、もしや栞ちゃん、おでこにキスされたの?」
愛花の問いにドキッとした栞は、慌てて否定した。
「ち、違うよ。ほ、ほら、映画の話! この前観た映画の中でね、20代のヒロインが30代のヒーローにおでこにキスをされて悩むシーンがあったの。で、その時の男性側の心理って、どんな感じなのかなーと思ってさ」
「なんだ、映画か! うーん、まあ、大人の男性があえておでこにキスっていうのは、大事にされてるっていうイメージかなぁ? ほら、だって、遊び相手にはあまりしないイメージじゃない? 大切に思っているからこそ、まずはおでこからって感じ? 相手が恋愛初心者だったらなおさらだよね」
「そ、そっか…へぇ…….」
「それに、あえて大人同士でのおでこにキスって、なんかキュンとしない?」
「そ、そう?」
「うん。純愛って感じがして、なんかキュンキュンしちゃう♡ 私もおでこにキスされたいな~♡」
「そっか……ありがとう。参考になったよ」
「それよりさ、テレビ取材の日、決まったね! どうしよう! 私、緊張しちゃう!」
「え? なんで愛花が緊張するの?」
「やあねぇ、テレビマンがいっぱい来るのよ! 業界人よ! 私、このチャンスに就職のコネを作ろうと思ってるんだから!」
「あっ、そっか! 愛花はマスコミ志望だったもんね」
「そう! だから、下心満載でお手伝いを申し出たんだし」
愛花はそう言ってニヤッと笑った。
愛花の将来の夢は、マスコミ業界で働くことだった。だから、今回の手伝の時に、なんとかテレビ局関係者とコネを作りたいと思っていた。
頭が良くてしっかり者で、どんな時もきびきび動ける愛花は、マスコミ業界にぴったりの人材だ。だから栞も密かに応援している。
それから二人は、取材当日の打ち合わせを始めた。
お茶を出す際、お茶菓子は何にするか相談していると、突然誰かが栞を呼んだ。
「鈴木さん、ちょっといい?」
声の方を見ると、重森が立っていたので栞はギョッとする。もちろん、愛花も驚いていた。
栞は愛花に、先日起きた元義理の姉・華子とのやりとりをすべて話していたので、心配そうな表情を浮かべていた。
「何でしょうか?」
「華子と姉妹だったっていうのは、本当?」
「本当です」
「マジか! そんなことってあるんだな」
「でも今はもう他人ですけど」
「そうみたいだな。でもびっくりしたよ、あの時の君の毅然とした態度! 俺、マジでそのギャップにやられちゃったなー。で、ますます君のことをもっと知りたくなった。だから、一度食事に付き合ってくれない?」
「結構です」
「どうして?」
「あなたとは行きません」
「そんなつれないことを言わないでさー、一度くらいいいじゃん」
「いいえ、結構です」
「へぇ……そんなにあいつがいいんだ?」
「?」
「あの貝塚ってやつのことが好きなんだろう?」
重森はニヤリと笑った。その表情は「図星だろう」と言っている。
その時、愛花が割って入ってきた。
「重森さん! 私たちは、今大事な打ち合わせをしているので邪魔しないでもらえます? それに、栞ははっきりと断っているんですから、潔く引き下がったらどうですか?」
愛花はわざと迷惑そうに大きな声で言った。
すると、周囲の学生たちが一斉に重森を見たので、彼はバツの悪そうな表情を浮かべた。
「悪かったな。じゃあまた改めて誘うよ」
そう言い残して、重森はその場から立ち去っていった。
その後ろ姿を見ながら、栞はホッと息を吐いた。
「愛花、ありがとうっ!」
「どういたしまして! 大事な親友が困っていたら助けるのは当然でしょう?」
「愛花~!」
栞は泣きそうな顔で、思わず愛花の手を握った。
「それにしても、重森もしつこいよね。栞が何度断っても諦めないんだからさ。今度、注意してもらうように隼人に言っておくわ」
「愛花! 本当にありがとうー! 愛花が男だったら、私、絶対惚れちゃう!」
「アハハ、それだけは勘弁して! それよりも、ちゃんと白状しなさいよ、栞! 初恋の人と何かあったでしょ?」
愛花は「すべてお見通しよ」といった表情で、栞を見つめた。
その顔を見た栞は、もう隠しごとは無理だと判断し、すべてを愛花に白状することにした。
昨日、直也の研究室の片付けをした後、食事に連れて行ってもらったこと。帰りは家まで送ってもらったこと。来週の火曜日に二人でテーマパークへ行く約束をしたことなど、すべてを愛花に話した。
それを聞いた愛花は、にっこり微笑んでから言った。
「で、最後におでこにチュッってわけね! なるほど~!」
栞は思わず顔を真っ赤にする。
「違うの! それは映画の話で…….」
「栞! 隠さなくてもいいんだよ、私は栞の味方なんだから! それに、そういう場合のおでこに「チュッ!」はね、たぶん、教授が栞のことをすごく大切に思っているってことだと思うよ。本当は唇にしたかったけど、栞は恋愛初心者だから、驚かせないようにあえておでこにしたんだと思うよ。フフッ、優しいね~!」
(え? そうなの……?)
ぼんやりしている栞に向かって、愛花は続けた。
「栞、貝塚先生ならきっと大丈夫だよ! あの人は、重森なんかとは違うから! まあ、愛花様の男を見る目を信じなさい!」
「もちろん、愛花の人を見る目は信用してるよ。だって、隼人さんみたいな誠実で優しい彼氏をゲットしたんだもん」
「違う違う、ゲットしたんじゃなくて、ゲットされたのっ!!!」
愛花がムキになって言ったので、栞は思わず声を出して笑った。
「ありがとう、愛花!」
「うん。また何か心配なことがあったら、いつでも愛花姉さんに相談しなさい!」
「うん、頼りにしてるー」
その時チャイムが鳴ったので、二人は慌てて次の講義がある教室へ向かった。
コメント
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栞ちゃん良い友達が居て良かったねー。重森余程自信が無いの?直也先生まで出して。直也先生の名前出したら何とかなると思ってんの?
愛花ちゃん凄い頼もしい&かっけー🤩🤩 重森撃沈😂だけど今度は本気のアプローチ仕掛けてきそう😅 直也さんの事アドバイス聞けて良かったね(* ˘ ³˘)cнϋ ♥️ おでこにチューから唇にチューに💕💕1つずつ直也さんに安心して身を委ねてみよう(*´艸`*)フフ ピュアな栞ちゃんにめっちゃ癒やされます♡(,,˃ ᵕ ˂ ,,)꜄꜆
し…しょぼい げ…げっそり もり…もりあがらない し…しつこい げ…げんなり も…もう無 り…理 重森退場!!