テラーノベル
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そして、約束の火曜日がやってきた。
一時限目の講義を終えた栞は、待ち合わせをしている三駅先まで電車で移動した。
大学教授と学生が、二人きりでテーマパークへ行ったことが公になれば、直也が処罰される可能性がある。
それだけは避けたかったので、待ち合わせ場所にも細心の注意を払った。
約束の駅で降りた栞は、駅前のロータリーへ向かう。
正直なところ、今日栞はどんな顔で直也に会えばいいのか分からなかった。
なぜなら、彼に会うのはおでこにキスをされた日以来だったからだ。
待ち合わせ場所に着いて五分後、見慣れた車がロータリーへ入ってきた。直也の車だ。
「お待たせ!」
直也は、車の窓を開けて栞に声をかけた。
(なんだ……先生、いつもと変わらない……)
栞は少し拍子抜けしつつ、いつも通りの直也を見てホッとした。
「今日はよろしくお願いします」
「おう! じゃあ行こうか。でっかいスナフキンあるといいな!」
栞がシートベルトを締めると、直也はアクセルを踏み込んだ。
「でも先生、スナフキンの特大ぬいぐるみは、たぶん売ってないと思います」
「え? なんで? せっかくでっかいの買おうと思ったのに」
「あれは期間限定商品だから、今の時期はたぶんないです」
「そっかぁ。だったら、代わりに欲しい物があれば、なんでも遠慮なく言えよ」
「ありがとうございます」
二人が乗った車は、やがて高速道路へ入った。
窓の外にビュンビュンと流れていく景色を眺めながら、栞は思った。
大抵いつもこの時間は、講義を受けてるか家にいることが多い。
だから、平日の午前中に、高速道路をドライブしている自分の状況が不思議でならなかった。
車中にはサーフミュージックが流れていた。その緩やかな曲調は、栞の心と身体をリラックスさせてくれる。
運転席から微かに漂う柑橘系の爽やかな香りが、さらにいっそう栞の心を落ち着ける。気分は最高だ。
途中、パーキングエリアで休憩を挟んでから、再び車は目的地へ向かって走り始めた。
高速道路は混雑もなく順調に流れていたので、予定より早く到着しそうだ。
やがて車は高速を降り、一般道に入った。
しばらく道なりに進むと、テーマパークの標識が見えてきた。
その標識を目にした瞬間、栞は興奮した様子で叫んだ。
「先生! もうすぐです!」
「意外と早く着いてよかったね」
「はい!」
栞は嬉しそうに笑みを浮かべた。
前回綾香と訪れた時は、駐車場が車でいっぱいだったが、今日はがらんとしている。
「わ、空いてる!」
栞はご機嫌だ。
直也は駐車場に車を停め、エンジンを切ってから栞に言った。
「よーし! じゃあ、ムーミン谷へ行くぞー!」
「わーい!」
栞は笑顔で車を降りると、直也の後ろについて歩き始めた。
二人はテーマパークの入口へ向かい、直也がチケットを購入した後、ウェルカムゲートを通り抜けた。
すると、目の前にレストラン棟が現れる。
「腹減ったー! 先に昼飯食おう!」
「えーっ? 今着いたばかりなのに?」
「時刻もちょうどお昼だし、腹ごしらえしたらいくらでも付き合ってやるから!」
「しょうがないなぁ。じゃあ、レストランはここじゃなくて『ムーミン谷の食堂』がいいです!」
「レストランはいくつもあるの? んじゃ、そこへ行こう!」
二人は、奥にあるレストラン棟を目指した。
しばらく歩くと、四角い建物が見えてきた。栞のお目当てのレストランは、その建物の中にあるようだ。
二人はそのまま建物の中へ入って行った。
レストランの中は、まるで北欧を訪れたかのような、自然をテーマにしたナチュラルで素敵な雰囲気だ。
天井はブルー一色に染まり、店の中央には大木のモチーフが立っている。
あちこちに葉の形をしたオブジェが飾られ、店内の柔らかな照明が葉のシルエットを壁にくっきりと映し出している。その光景は、とても幻想的だった。
まるで物語の世界に迷い込んだようなレストランは、とても温かな雰囲気に包まれていた。
食事は先にカウンターで購入する形式だったので、二人は列に並んだ。
メニューを見ながら栞が何を頼もうか考えていると、直也が言った。
「なんか、ずいぶんかわいいメニューだな」
栞はその言葉に思わず吹き出してしまった。
可愛らしいメニューを見て悩む直也の様子が、どうにも可笑しくてたまらなかったのだ。
しかし、直也はそんな栞をまったく気にすることもなく、こう言った。
「『ヤーコブさんの空飛ぶシチュー』にするかな!」
直也の口から『ヤーコブさんの空飛ぶシチュー』という言葉が飛び出した瞬間、栞はさらにお腹を抱えて笑い出した。
「笑い過ぎだろう!」
「だって、先生が言うと可笑しくって……」
「だって、そういうメニューなんだから仕方ないじゃん」
「それはそうだけど……」
「で、栞ちゃんはどれにするの?」
栞は目尻の涙を拭きながら、直也の問いに答えた。
「私は『おさびし山のハヤシライス』にします」
「了解」
直也は二人分の食事を注文し、会計を済ませた。
そして、食事を受け取った二人は、外のテラス席へ向かった。
コメント
41件
(´∀`*)ウフフ♡二人共可愛いなぁ… ラブラブ&素敵な時間をすごしてね👩❤️👨💞💞
そうか,教授と学生がデート?付き合うって難しいんだね.対外的に。とりあえず今日はそんな事は其方に置いとて楽しんでねー。デッカいスナフキン有ると良いね😊👍
直也さんの自然体な感じにきゅん💕一緒にムーミンの可愛いメニューを堪能してね😂💕 ご飯食べ終わったら手なんか繋いだりしちゃうのかなぁ👉👈 先生と学生と立場を忘れて楽しい時間を満喫してね(◦ˉ ˘ ˉ◦)ニヤニヤ💕