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井の頭公園から南方向に抜け、侑の運転する車は、東八道路を走行して立川へ向かっている。
「そういえば、ランチしている時に聞きそびれちゃったけど、みかリンって何の仕事してるの?」
「立川の工場で、フォークリフトのオペレーターをしてるんだ」
「フォークリフトの運転手の事? うわぁ……カッコいいっ! 車は運転するの?」
「車の免許は持ってるけど、もうペーパードライバー状態だねぇ……」
女子二人の何気ない会話を耳にしながら、ステアリングを握っている侑が、ほぉ……と呟いた。
響野夫妻から見れば、美花が肉体労働、それもフォークリフトのオペレーターをしているのが珍しいのだろう。
「…………工場でフォークリフトのオペレーターって事は、外仕事なんだろう? 夏と冬は大変そうだな」
「暑さ対策と、寒さ対策に気を遣いますね……」
「…………物流業も大変だよな」
眉尻を下げながら答える美花に、侑が落ち着いた声音で美花を労う。
黒のSUV車は、その後も渋滞する事なくスムーズに進み、中央高速道路の国立府中インター付近を経由し、立川通りに入った。
「…………浦野さん」
美花は、ステアリングを握っている侑から、ルームミラー越しに視線を向けられた。
「はっ……はいっ」
威厳と深みのある侑の声色に、なぜか背筋がシャンと伸びてしまう彼女。
「…………人との出会いや繋がり、縁って…………ひと言で言うなら、『奇跡』だ。君の目の前で起こっている奇跡、見逃さないようにな」
寡黙そうな瑠衣の夫の言葉が、美花の身体の深部へ落ちていき、小さく波を打ちながら広がっていく。
「奇跡……」
「…………ああ。『奇跡』だ」
なぜ、侑がこんな事を言ってくるのか、美花は一瞬理解ができなかったけど、深くて重厚な声の響きを感じ取る。
立川通りから駅前に向かう道へ左折し、中高層のオフィスビルの前で、侑が車を止めた。
「ルイルイ、旦那さん、送ってくれて、ありがとうございました。 帰り、気を付けて下さいね」
車から降りた美花は、響野夫妻に一礼して小さく手を振る。
「みかリン、またねっ」
「…………浦野さん、今度は、うちにも遊びに来るといい。じゃあ、また」
挨拶を交わした後、侑がスムーズに車を発進させ、立川駅方面へと走らせる。
美花は歩道で小さく手を振りながら、車が見えなくなるまで見送り続けた。