翌日、花純はいつものように壮馬の車で出勤した。
昨夜はあんな状態だったので身体中が筋肉痛でボロボロだ。そんな花純を気遣い今朝の朝食も壮馬が作ってくれた。
壮馬は朝からご機嫌だった。そして一層花純に優しい。
朝食の支度を花純が手伝おうとすると、
「いいから君は座っていなさい」
と言ってどこまでも花純を甘やかす。
そして食事中に壮馬は言った。婚約指輪は仕事中もはめていて欲しいと。
どう見ても大粒ダイヤの立て爪リングは仕事には不向きだ。しかし壮馬がどうしてもと懇願するので花純は一度外そうとした指輪を再び薬指に戻した。すると壮馬はニコニコと満足そうに頷いた。
会社に到着しエレベーター内で壮馬と別れた花純はフローリストへ向かった。
店に入ってしばらくすると優香が指輪に気付く。
「キャーッ! 花純ちゃんとうとう婚約ーーー?」
「はい」
花純は恥ずかしそうに答える。
「うわぁーおめでとうー! いつかこうなる事はわかっていたけれど予想よりも早かったわね」
優香はまるで自分の事のように嬉しそうだ。
「はい…なんか勢いでこんな事になっちゃいました」
花純が少し困ったように答えると、
「勢いって何よそれー! 花純ちゃんはとうとう壮馬さんに捕獲されちゃったのよー。さすが壮馬さん! 狙った獲物は逃がさない。まるでピューマのように素早いんだから」
優香はケラケラと笑った。
「ねぇ指輪見せて! うわっ、何これ? 1.5カラット以上はあるんじゃない? 輝きが素晴らしいからきっとかなり質の良いダイヤねー」
その時配達の山本が店に入って来た。
「おはようさん」
山本は二人に挨拶をしながらガラガラとカートを押して来た。
「あ、山本さーんおはよう。ねぇ、ちょっとこれ見てよ」
優香は花純の左手を取り山本に見せる。
「おやまぁなんだいソレは? 凄いじゃないか! もしかして花純ちゃん婚約したのかぁ?」
「そうなのよ! 相手は誰だと思う?」
「わかんねぇなぁ…大体花純ちゃんは彼氏なんていなかったろう?」
「それがねぇ、とある人物に見初められちゃったのよ」
「見初められたぁ? そりゃすげーなぁ。で、一体相手は誰なんだ?」
すると優香は山本の耳に口を近づけてごにょごにょと伝える。
「おーっ、まじか? そりゃあ玉の輿じゃねーか?」
「でしょでしょ? このビルを持ってる会社の次期社長ですもん!」
そこで花純が言った。
「はぁ…まだ私にはあまり実感が……」
「そう言えば花純ちゃん、壮馬さんのパパには会った?」
「いえ、まだです」
「パパって高城不動産の社長かい?」
「そうよ」
「優香さんはお会いした事があるのですか?」
「うん、私は既に顔見知りよ。私が優斗さんの飲み仲間だってバレてるからー」
優香はそう言ってペロッと舌を出した。
その時花純は急に不安になる。
壮馬の父親は、高城不動産ホールディングスというとてつもなく巨大な会社を経営している。
だから花純の壮馬の父に対するイメージは、常に鋭い目つきでいつも険しい表情をしている怖い人…というものだ。
だから跡継ぎでもある息子の嫁を選ぶ基準もかなり厳しいのではないだろうか?
それに壮馬のように有能でイケメンの御曹司には見合い話も多いだろう。
絶世の美女や社長令嬢など、壮馬の妻になりたがるハイスペックな女性は山ほどいるはずだ。
そう思うと、本当に自分なんかで良いのだろうかと不安になる。
壮馬の父は家柄や育ちを気にする人かもしれない。もしそうだとしたら花純は花嫁候補からは外されてしまうだろう。
その時山本の声が響いたので花純はハッとする。
「まあ花純ちゃんなら大丈夫だ。きっと婚約者のおやっさんからも気に入られるさ。何も心配することはねぇ」
山本は花純を安心させるように微笑んだ。
「じゃあよろしくなーまた明日!」
「山本さんありがとうございました」
「ご苦労様でした」
それから二人は開店準備を始めた。
午後から寺田洋子が出勤するとまた花純の婚約の話で盛り上がった。
今日は月曜日で客も少なかったのでつい三人でのお喋りに花が咲く。
そんな中60前後の上品なマダムが来店し生花を注文した。会計を終えて花純が商品を包んでいる時マダムが洋子に話しかけた。
「今店に入る時にね、隣のカフェに中村吉左衛門がいてびっくりしちゃったわ」
「えっ? 吉左衛門ってあの歌舞伎役者のですか?」
歌舞伎好きの洋子はすぐに反応する。
「そうなの。スーツだったから最初は違うかなーって思ったんだけれど、アレ多分本人よ」
マダムは興奮しながら洋子に告げると、
「じゃあね、ありがとう」
と言って店を後にした。
「「「ありがとうございました」」」
客を見送った後、洋子が興奮気味に言った。
「吉左衛門様がいるなんてびっくり! ちょっと見て来てもいい?」
洋子はいつになくソワソワしている。すると優香が呆れたように言った。
「行っても無駄よ。きっと本人じゃないわ」
「え? だって今お客さんが…」
そこで優香はため息をつきながら言った。
「その人はきっと壮馬さんのパパよ。高城不動産の社長は中村吉左衛門に瓜二つなのよ」
「「えっ?」」
花純と洋子は顔を見合わせて驚きの声を上げた。
コメント
3件
壮ちゃんパパ、待ちきれずにご来店ですかね😊🎶‼️ 花純ンは壮ちゃんにも甘やかしてもらって虫除け💍もはめてみんなの祝福を受けて嬉し恥ずかしー🥰❤️❤️❤️ 花純ンは幸せいっぱいの中のパパに対する不安も… でもきっと百合子ママと同じくきっと優しいパパだと思うなぁ👨💕🌷
たっぷり愛し合った翌日、超ご機嫌でスパダリぶりを発揮する壮ちゃん♥️♥️♥️🤭 もうすっかり新婚気分⁉️💕👩❤️👨💕 職場の皆さんに 婚約を祝福される花純ちゃん🍀 幸せいっぱいですね....💍✨🎉💕 壮ちゃんパパとも いよいよ初のご対面....⁉️ワクワクそわそわ🎶
壮馬パパ待ちきれなくてかすみちゃんに会いに来たのねー🤭🤭🤭