その時洋子が優香に聞き返した。
「高城建設の社長って吉左衛門に似てるの?」
「ああ洋子さんはまだ社長に会った事がなかったわね。うん、そう、そっくり」
「へーっそうなんだ。でもなんで社長がカフェに?」
そこで優香がニヤリと笑った。
「きっと将来の嫁を見に来たのよ」
その言葉にびっくりして花純が飛び上がる。
「本当ですか?」
「そうでしょう? じゃないと普通カフェになんて来ないわよ」
優香はそう言って肩をすくめると店から顔を出してカフェを覗いた。
それから声を張り上げて言う。
「壮馬パパ、そんな所にいないでこっちに来ればいいじゃない」
優香が手招きしている。そこで花純と洋子がびっくりして顔を見合わせた。
するとコーヒーを手にした中村吉左衛門そっくりの壮馬パパが姿を現した。すぐ後ろには秘書の男性がついている。
「いやー優香ちゃんに見つかっちゃったなぁ」
参ったな―という顔で壮馬パパが言う。
「ふふっ、カフェから覗いていないでさっさと来ればいいのに」
「さっきお客さんがいただろう? だからちょっと遠慮したんだよ」
壮馬パパはそう言うと花純の方へ向き直り笑顔で言った。
「壮馬の父の高城雄馬です。壮馬がいつもお世話になっております」
雄馬はそう言うと名刺を出して花純に渡した。花純も慌てて名刺を取り出すと雄馬に渡す。
「はじめまして藤野花純です。こちらこそ壮馬さんにはいつもお世話になりっぱなしで」
花純はぺこりとお辞儀をした。
「いやぁこちらこそこの前は妻の百合子がお世話になりまして。百合子は花純さんから美味しい手料理のおもてなしを受けたと言ってそりゃあもう大喜びでしたよ。今度は是非私もご馳走になりたいもんですなぁ」
雄馬はニコニコしながら言う。
実は雄馬は少しいじけていた。将来の嫁に自分だけが会わせてもらっていなかったからだ。
おまけに自分がいない間に妻と息子と将来の嫁、そして嫁の母親がすっかり仲良しになっている。
雄馬はそれが羨ましくて一刻も早く花純に会おうとこっそり来たのだ。
将来の嫁に会ってみると想像以上に美人で驚いた。経歴通りに聡明で性格も良さそうだ。それになんといっても愛嬌がある。
雄馬は一目で花純の事が気に入った。
その時花純が言った。
「今度是非お父様もお食事にいらして下さい」
可愛い将来の嫁に「お父様」と呼ばれた上に自宅へも招かれた雄馬は天にも昇るような気持ちだった。
そしてもうすっかり将来の嫁にデレデレだ。
あの独身貴族だった息子が結婚したいと言ったのも頷ける。
雄馬は満面の笑みで花純に言った。
「それは嬉しいなぁでは今度是非!」
「はい」
花純が再びニッコリと微笑んだので雄馬は完全にノックアウト状態だった。嬉しさで顔面が崩壊している。
それから雄馬は真面目な顔をしてしみじみと花純に言った。
「いや、君が壮馬の嫁になってくれると聞いて本当に嬉しかったんですよ。壮馬は今まで結婚に全く興味を持たなくてね。もしかしたらうちの息子はこのまま一生独身かもしれないと覚悟を決めていた矢先、君と出会って結婚したいと言い出した。いやー君は高城家の窮地を救ってくれた救世主…いや女神かもしれない。だからどうか末永く高城家と仲良くしてくれませんか?」
雄馬はそう言って花純に手を差し出した。
花純は一瞬びっくりしていたが、
「はい。よろしくお願いいたします」
と笑顔で答えると、ペコリと頭を下げてから将来の父である雄馬の手を握った。
せっかく真面目な顔に戻っていた雄馬の顔は、花純が手を握った瞬間再びデレデレとした笑顔に戻っていた。
その後満足した雄馬は秘書と共に店を後にした。
雄馬達がいなくなると、店内はいつもの空気へと戻る。
「ね? めちゃいい人だったでしょう?」
「はい。心配した私が馬鹿でした。すごく優しそうな方ですね」
「壮馬パパは懐が大きいのよねー。あのパパの人柄のお陰で、高城不動産はどんどん成長していってるのかもしれないわ」
「それにしても、本当に吉左衛門様そっくりだったわ。あれなら本人に間違えられても不思議じゃないわ」
歌舞伎ファンの洋子は、まだうっとりとしている。
「歌舞伎の化粧をしたら、似合うんじゃない?」
「ほんとよねー。会社の余興か何かでやらせればいいのに」
「プハッ、洋子さん、あの人社長よ!」
「あ、そうだった。忘れてた。だって将来の嫁に対してもすっごく腰が低いんですもの」
「フフッ、きっと娘が出来たみたいで嬉しかったんじゃない? 壮馬さんは一人っ子だからね。それにしても花純ちゃんにデレデレし過ぎだったわよねー」
「ほんとほんと、あの人がこのビルを作った高城不動産のボスなんて…信じられないわ!」
二人の会話を聞いていた花純がクスクスと笑い出す。それと同時にホッとしていた。
花純は父親が小さい時に病死したので、父親というものにどう接していいのかわからなかった。
しかし雄馬は偉い地位にありながら威張る事など全くなく、逆に自ら花純の位置まで下りて来てくれた。
そして花純が気を使わないでいいように優しく接してくれた。
(凄く優しいお父様だったわ。社員を家族のように思う社長、まさにその通りね)
雄馬は壮馬ともとてもよく似ていた。そしてそんな二人の事を花純は心から尊敬出来るような気がした。
そんな素敵な人達とこれから自分は家族になるのだ。
そう思うと結婚というものは実はいいものなのかもしれない…花純はそんな風に思った。
コメント
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壮ちゃんと 百合子ママだけでなく、 雄馬パパも優しくて素敵な人ですね✨ やっぱり親子ですね.... 壮ちゃん&パパも女性の好みが似てる⁉️🤭 派手な人を好まず、真面目で清楚な子が好きなのかな....💖✨ 高城家ご両親に気に入られ、結婚に向けてまた一歩前進の花純ちゃん💒💍💞✨ このまま 変な邪魔が入らず、順調にすすみますように....🍀
花純ンの心境の変化の振り幅にコチラも驚かされちゃった🤭¡ 雄馬パパも高城不動産の社長なのに腰が低くて壮ちゃんと同じくらいに花純ンを嫁として溺愛してくれそうな素晴らしいお義父さん👨✨🎶 こんなに壮ちゃんのご家族に望まれて結婚できる花純ンはとっても幸せで羨ましい〜🥰💕👩❤️💋👩 でも…ヘンテコな妨害が入らないかとっても心配🥺😟💦