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「まさか彼があなたに会うために、わざと襲撃事件を起こしたとは考えられないけど?」
佳子が怪訝そうに言ったユリアは大きく首を振った
「いくらなんでもそれはあり得ないわ!
彼はそんなの出来る人じゃないわ、あれは正真正銘の偶然よ」
「彼はユリアの名前を知ってすぐにあなたが誰だかわかったみたい?」
みゆきも眉を寄せて聞いた、ユリアは唇を噛んで初対面の場面を思い出した
「私を知ってる気がするって言った・・・その後、良ちゃんの名前も出したわ、だから私鳩山良平を知ってるの?って彼に聞いたの・・・」
「彼は?知ってるって?」
みゆきと佳子が詰め寄った、ユリアは突然目を見開いてハッとした
「私・・・きっと電話で良ちゃんの名前を呼んだのよ!それでジュンは良ちゃんの名前で私が電話の主かどうか知りたくて・・・」
「いちかばちか探りを入れたって訳ね!」
「そうね理にかなっているわ!しかし大胆ね!」
「それに私と佳子のやり取りも良ちゃんが中国に行ってるから、今は連絡する必要ないって」
「ジュンの耳にも当然そのやりとりが入った!」
みゆきがユリアに言ったユリアは小さくうなずいた
「彼はしばらく良ちゃんが不在になることを知ったわけね」
佳子が言った
「だけど良ちゃんが出張中に電話してくる可能性は充分あるし、まさか私が留守電のメッセージを聞き出せない事を、ジュンが予測できるはずないわ!」
ユリアが肩をすくめて言ったみゆきが興奮してユリアの肩をゆさぶる
「きっと彼は思い切っていちかばちかに賭けたのよ、ねぇ、ジュンはユリアとの電話でのデートがよっぽど気に入ったのよ!知らない誰かに成りすましたままなんて、彼自信もストレスがあったんじゃない?」
ユリアは目の前のワインと同じぐらい赤くなった、たしかに自分も彼との電話を心待ちにしていた、彼との夜のラブコールはとてもセクシーで・・・そしてお互いかなり盛り上がったことは事実だ
「まさに運命のいたずらね!」
佳子がうっとりとワイングラスをくるくるさせて言った
「あなたはジュンに惹かれていることで婚約者の良ちゃんとの関係にヒビが入ることを恐れた、ところがてっきり良ちゃんだと思って盛り上がっていた相手こそ、あなたが惹かれていたジュンだった」
みゆきがうなずきながら冷蔵庫からコロナビールを持ってきた、プシュッと音を立てて蓋を開け一口飲んで言った
「さらにストーカーかもしれないと警戒していたジュンが、なんと正義の味方で、良ちゃんこそユリアの身を脅かす変態で、ジュンはその魔の手から救ってくれたスーパーヒーローだったのよね!」
ハァ~
「ややこしい・・・」
「ややこしい・・・」
「ややこしい・・・」
三人は大きくため息をついた
:*゚..:。:.
「要点はだいたいつかめたわよ!」
佳子が5本目のワインをスポンッとあけた、頬がうっすらと赤くなっている
「ところでさっきメッセージでジュンが電話で伝えたのは、ありのままの本心だって言ってたわよね?それって具体的にどんなこと?」
ユリアが体をこわばらせ、さらに赤くなった
「なんなのよ!今さら隠すのは反則よ!」
みゆきが面白そうに言う
「実は何度目かの電話で良ちゃんに心から愛されていると思った時があったの・・・彼はすごく優しくて、誠実で、だんだん後ろめたくなって、あの時はすごく悩んだわ」
「本当はジュンの言葉だったのね」
「でもその時は良ちゃんだと思ったのよ」
「じゃぁ、どうして悩んだの?」
「私が本当は良ちゃんを愛していないことに気づいたからかしら?」
「どうして?」
「それは・・・」
ユリアは二人をチラリと見た昔からこの二人には隠し事はできない降参だ
「その頃にはジュンに夢中になってしまっていたから・・・」
消え入るような小さい声でユリアが言った、それを聞いた佳子とみゆきがカチンッとグラスを鳴らした
「それなら、めでたしめでたしじゃない!あなた達は両想いよ!」
みゆきが嬉しそうに言った
「そうね!数年後にはあなた彼の子供ゴロゴロ産んでそう!彼ってスタミナすごそうだしっっ!」
佳子がケラケラ笑って言った、酔いがずいぶん回っているようだ
「でもジュンは私をだましていたのよ!」
「それがどうしたのよ!良ちゃんと10か月も付き合ってて、あなた前科があることも知らなかったじゃない!それにジュンはあなたが危ない所を二度も救ってくれたのよ!嘘ぐらい可愛いものよ!」
「佳子ってずいぶんジュンを気に入ってるのね?」
みゆきがトロンとした目で言った、こちらもかなりきてるようだ
「どっちかというと私はタツの方ね!」
佳子がまつげをパチパチさせた
「ねぇユリア!あなたが十分傷ついていることはわかるわ!でもこれだけは言わせて、ジュンはきっといい男よ、タツとジュンがあなたの居所を突き止めて助けてくれたのよ、さっきのメッセージだって全面的にあなたの味方になってこれからも命を懸けてあなたを守ってくれるはずよ、警官ということを抜きにしてもね、でも、もうあなたもそれを分かってると思うけど?」
佳子が力説したそれを横でみゆきがウンウンとうなずく、ユリアが片眉を上げて佳子をじーっと睨んだ
「ずいぶんジュンの肩を持つのねちょっと!佳子!タツと何かあったでしょ!!」
「うそでしょ?」
みゆきが叫んだユリアが詰め寄った途端に佳子の目が泳いだ
「何もないわよ、ただ、あのクレープ屋で会った時にLINE交換しておいたの、それで彼から連絡が来て、あなたのことをずいぶん心配していたわ」
「ちょっと!!いつの間に?」
「抜け目ないわね!」
佳子が少し赤くなって小さく咳をして言った
コホン・・・「私の事はさておいて、タツからあなたに伝言よ、落ち着いたら事情聴取に来てほしいって、一応事件扱いになってるから、それに今後の良ちゃんの処分もまだ決まっていないし」
「そうね・・・いつまでもひきこもっていられないわね」
ユリアの顔が青くなった勇気づけるようにみゆきが言った
「佳子の言う通りよ、さっきのメッセージ聞けて良かったわ、あんなにまっすぐに気持ちをうちあけてくれる男性ってめずらしいわよ!今度はあなたが気持ちをぶつける番よ!」
みゆきが寂しく微笑んで言った
「私はタクミ君とはそうなれなかったけど・・・」
:*゚..:。:.
「これで事情聴取は終わったよ、お嬢さん!」
大阪府警の小奇麗な一室で、向い合わせになったタツが書類を集めてトントンとテーブルを叩いた、するとタツの手の中で書類は綺麗に整頓され、机の右端に置かれた
ニッコリと親しみのわく笑顔をタツから向けられた時に、はじめてユリアは大きく安堵のため息をついた、事情聴取は経験があれど、何回受けても嫌な思いは拭えなかった、そして今回はタツの後ろに2人のスーツを着た刑事が二人無言で立っていた
東京の本署からきた捜査官の一人にタツがが茶封筒を渡してユリアに言った
「鳩山良平は過去に婦女暴行事件を起こしてる、ヤツは残忍さを好む、痛みに苦しむ人を見て性的に興奮するんだよ」
「知ってるわ・・・」
ユリアは毅然とした声で言った、あの時の事を思い出しても全身寒気が立つ、ユリアの言葉に辺りは緊張の空気が走ったが、タツがため息をついて場を和ませようと言った
「とにかく、今回は未遂ですんでよかったよ」
警官の後ろにいる刑事も厳しい顔つきで言った
「彼は留置所でずっと弁護士を呼べと叫んでいますよ、公平な裁判は長く続くとは思いますけど、確実に一歩ずつ進みたいと思っています、それに彼はもう一つの容疑もかかっている」
ユリアはいぶかしげに聞いた
「え?・・・もう一つの容疑って?」
タツと警官は目を見合わせた
「横領ですよ」
後ろの刑事が初めて口を開いた
「案の定、鳩山は何かやっていたようですね、この8か月間彼は架空の口座に3ヶ月置きに足のつかない金を数百万ずつ動かしている」
ユリアは息を飲んだ、喉がきつく締め付けられて言葉が出てこない、彼に対する怒りと恐怖がユリアの体の芯から立ち上ってきた、そしてまんまと彼の表の顔に騙されていた
自分自身にも怒りが沸いてきた、なんてまぬけなの私って・・・握りしめる手に力が入るm良ちゃんとすごした10か月本当に今は幻のように思えてきた
今では彼に好意を抱いていたのでさえ幻に思える、しっかりするのよ!ユリア!もう泣くのはダメよ!二人の刑事が部屋から出て行き、ユリアは目の前のタツと二人っきりになった
君がジュンと顏を合わさない事を事情聴取を受ける条件にしているのはキチンと聞いています、、うちの相方がお譲さんに多大な迷惑をお掛けしてしまって、大変申し訳ない」
この人はジュンを本当に大切に思っているんだ・・・ミユキと佳子に・ああは言われたものの・・・まだユリアはジュンと直接顏を合わせるのを躊躇した、そして署に出向いて事情聴取を受ける前に朝倉淳と絶対に顏を合わせないことを条件にしたのだった
ユリアはタツの顔を見た、すると彼は優しい父親のような笑みを浮かべていた
「ヤツは・・・あ~今はちょっと・・・野暮用でね、ここにはいないから安心してくれ、コーヒーでもどうだい?最近署にもやっと最新型のマシンが導入されたんだ、これがバリスタのエスプレッソマシーンでね、おかげでスタバに行く機会が減ったよ」
ウインクしてタツが言った、ユリアはクスリと笑ってしまったこの人は私を和ませようとしているんだわ
「ええ・・・じゃ頂くわ」
タツがコーヒーを取りに部屋から出て行った、ユリアは大きくため息をついた、タツにはジュンに会いたくないと言ったもののなんとなくジュンが働いているこの署からも離れがたくて、グズグズしている自分も気に食わなかった
良ちゃんにも驚いた、いったい自分はどうしたいのだろう・・・ジュンに何を話せばいいのだろう・・・自分のしている事を思うと涙が出てきた、誰も見ていないからユリアはタツが来るまで小さくぐすんと泣いた
・:.。.・:.。.
ジュンはユリアの取調べ室の隣の部屋で、マジックミラー越しでユリアの姿を見つめていた
ミラー越しに彼女のすぐ近くに立ち、腕を組んでじっと様子をうかがっている、当然ユリアからはマジックミラーでこちらの部屋の存在は一切分からない、小さく泣いている彼女は儚げで・・・そして痩せている
自分のせいで彼女がまた泣いているのか、鳩山を思って泣いているのか、どっちにせよ、今すぐドアをけ破って泣いているユリアを抱きしめて慰めてやりたくてしかたがなかった、思わず組んでいる腕に力が入り、奥歯をギュッと噛みしめた
そこにコーヒーを両手に持ったタツが、背中でドアを開けて入ってきた
「わかってるな!彼女が事情聴取を受けて帰るまで、お前はここでおとなしくしてろっ!」
タツがむっつりとして腕を組んで顎の筋肉をひくつかせた、ユリアが来る前にどうしても自分が迎えると言って聞かなかったジュンを、みんなで取り押さえ、この部屋に閉じ込めた、タツはその時ジュンに蹴られた顎を抑えながら言った
「とにかく彼女はお前と会いたくないんだ!俺が穏やかにお前の事を話してみるから、お前はここでおとなしく彼女の話を聞いていろ!」
「わかっている!!」
ジュンはむっつりとしてこちらを一切見ないで、ただマジックミラー越しにユリアを見つめていた、タツが再びユリアの待つ取り調べ室にコーヒーを持って向かった
「コーヒーに砂糖とミルクは?」
「ブラックで」
ユリアの返事を聞いても、タツはしばらくユリアを見つめていた、何もかも見通すような知性が溢れる灰色かかった瞳がじっとユリアを見据える・・・なるほど佳子がタツを気に入る気持ちもわかる・・・タツはハーフかもしれないそ、れほど綺麗な顔をしている
「少しミルクと砂糖を入れた方がいいんじゃないか?君はあきらかにずいぶん痩せた無理もないが」
ユリアは肩をすくめた
「じゃぁお願い」
涼しい顏をしたタツが言った
「君の気持ちもわかるよ、アイツに腹を立てているんだろう?実は俺もそうだ、俺達の上司もカンカンだし、本部全体がアイツに腹を立てている、勝手にパトカーを出動させ、お嬢さん救出作戦を遂行したんだからね」
「彼は私に嘘をついていたのよ、最初に会った時からずっと」
ユリアが落ち着いた声で応えた
「これから彼の何を信じればいいの?」
「そうだよね・・・たしかに許せないよね、嘘はいかん、嘘は」
タツは腕を組んでウンウンと頷いた
もう・・・どっちの味方なのよ?タツは・・・
「ヤツは嘘をついた・・・だがヤツがいなかったら、今頃君はもっとひどい立場に追い込まれていただろう、時に優秀な警官はウソをつくことを余儀なくされる、ただ、それはあくまで仕事であって、実生活で嘘ばかりついているわけじゃない、むしろアイツは正直すぎるほどさ、生真面目なヤツでね、先輩や婦人警官にいつもからかわれているよ、たまには羽目を外せってね」
タツはあきれたようにため息をついた
「だが、君がそれを吹き飛ばしてしまったらしい、アイツがあんな風になったのをはじめて見たよ、パトカーと連帯を無断出動させたことはとんでもない遺脱行為だ、君のためにアイツはこれまで積み上げてきたキャリアをドブに捨てた、今後、仮に今の職場に留まるとしても、落し物係りの受付に回されるのがオチだろう・・・アイツはそれが分かっていても、ああいう行動をとった、それでもいいと思ったのさ、君の身を守るためならね」
ユリアは頬を殴られたようなショックを受けた
ジュンがそんな苦しい立場に立たされているなんて、ちっとも知らなかった、タツは首を振った
「生真面目からは、想像もつかないやり方だな、君に惚れてるんだな、嘘をつかれて裏ぎられたと思う気持ちはわかる、だが、あいつは自分に出来る唯一のやり方で君を守ろうとした」
ユリアの喉が震えた・・・言葉がひとつも出てこない、ジュンが自分を助けたおかげで今の職場でとても苦しい立場に追い込まれている?・・・しかしそれを知った所で自分にはどうすることもできない無力さに襲われた、さらに二度三度と息を吸い込むが何も言えなかった・・・タツが少し微笑んで言った
「こんなことは言いたかないけれど・・・アイツのことを許してやってくれないかな?今すぐじゃなくてもいいから」
・:.。.・:.。.
大阪府警を後にして、ユリアは大和川沿いを少し散歩した
タツはユリアの正当な怒りを受け止めた上で、それをうまく手なずけた、タツはつくづく女性の扱い方が上手い、タツの言葉のおかげで被害者意識が少し無くなって、冷静に物事が考えられるようになった、嘘をついたとしてもジュンは自分が正しいと思ったやり方でユリアを守ってくれた
川からの冷たい風に乗って、突然脳裏におびただしいイメージが浮かんできた
ゆっくりと出し入れする時のジュンのハンサムな顏・・・彼はときどき両腕を立てて、上体を起こし盛り上がった上腕の筋肉に太い血管を浮かび上がらせながら、二人の体のあいだに視線を落とした
ユリアもそこへ目をやり・・・ゆっくりと引き出された彼の大きなモノが愛液でキラキラ濡れているのを見た・・・彼のモノが少しずつ引き抜かれていくのを感じ・・・すっかり離れてしまうと・・・心が空っぽになった
彼は愛の行為で大きく赤く膨らんだ先端が見えるまで腰を引き、ユリアが彼の目を見つめてぐずるのを待った・・・そしてあまりにもじらすので・・・彼の目を見つめて腰を浮かし
いじわるしないで中に入って・・・
・:.。.・:.。.
と泣きそうな目で訴えた・・・するとジュンが微笑む
今すぐに・・・
・:.。.・:.。.
と目で応え・・・息が止まるほど激しく突き入れてくる
余りの激しさに摩擦で二人の体が燃え上がる・・・体の芯から強烈な喜びで快感が湧き上がる、ユリアは心の奥底で、嘘の立ち入る隙のない、真実しかない部分で、彼との愛の行為が本物だったことを知っていた
あの行為には真心があった・・・そして電話の彼は良ちゃんだと思っていた会話を一つひとつ思い出して、頭の中でジュンに変換していく・・・彼と話していると妙な気疲れもなく、自然と言葉が出てきて、ただ・・・しゃべっているだけで楽しかった
率直に何でも話してくれて・・・何でもって訳ではなかったけど・・・ううん、成りすまし以外のことなら気さくで彼を知れば知るほど興味が湧いた・・・そして彼は警官の才能に恵まれている、しかも見ていると心が痛くなるほどハンサムだ
彼の冗談におなかがよじれるほど笑えたし、彼と一緒にいると、その瞬間すべてが楽しかった、そうそうマンションの前で夜中に歌われたこともあったっけ・・・それに指を切ってキッチンを血の海にされたこともあった
ユリアはクスリと笑った
彼はとっくに私の人生の中に入り込んで来ていた、ささいな事をいつまでも許せずに、これから一生彼を忘れて生きて行けと?いやそれは無い!彼を忘れることは無い!
どうでもよくなる日が来るとも思えないが、私の人生には彼が必要だ、その時スマホが軽快な着信音と共に震えた、ユリアはびくりとした、ジュンかもしれない!今こそ自分の気持ちを彼にぶつける時だ!彼を愛していると言おう!
「ハイ・・・もしもし?」
深呼吸して最初の一言は何と言おうか考えた
『もしもし?ユリア?ママよ!』
ユリアは交通事故並みのタイミングの悪さに、泣き笑いになってしまった、少なくともこの人は奈良の長女婿の大豪邸で娘が残忍な変態に拉致されたことや、それによる娘の精神的消耗など、てんで気にかけていない
「ああ・・・ママ・・・元気?」
『あなた、週末に良ちゃんを連れてくるって話どうなったの?鈴の婿さんも、もし時間が合えば診療時間をずらすって言ってくれてるんだけど、もし今週末にしてくれるならみんなで「かごのや」に行こうと思うの、あそこなら子供メニューもあるし』
「あの・・・ママ・・・・聞いて」
さらにたたみかけるように母のマシンガントークは続く
『個室はとても人気があるのよ!だから今のうちに予約しておかなきゃいけないんだけど、それが嫌ならうちでお寿司でも頼んだらいいけど、鈴がほら、身重だから動きたがらないの、だとしたら私が全部おもてなしはやらなきゃいけないでしょう?もちろんそれでもかまわないけど・・・ママもこの頃膝が痛くて・・・』
「ママッッ!私の話を聞いて!」
『なによ?』
ユリアは大きく深呼吸した・・・母に自分の気持ちを分かってもらうには勇気がいった、それは小さな頃からいつもそうだった
「良ちゃんとはダメになったの・・・私、彼とは結婚しないわ」
しばらく嫌な沈黙が続いた・・・その後の母の大きなため息は雄弁だった、せっかくの機会を棒に振った娘を、どう攻めようか考えているに違いない
『そう・・・それじゃ、しばらくはあなたは独身を貫くのね、もういい歳のくせに』
また沈黙が続いた
「それが・・・私好きな人がいるの」
母は興味津々に聞いた
『まぁ!誰なの?』
グスッ・・・「でも・・・色々あって・・・ママ・・・私どう言ったらいいかわからないわ」
ジュンとの事を母に話すのはあまりにも複雑で、何から言ったらいいかわからなかった
『じゃぁ、その人の事を話せば?』
ユリアの頭の中を一気にジュンが駆け巡った・・・たった10日あまりの彼との過ごした時間が、怒涛のようにユリアの記憶に溢れてきた、ユリアは胸に手を当て、目を閉じた、なんてこと・・・ジュンを思っただけで涙が溢れてくる
「ママ・・・どうしよう・・・私、彼を愛しているの」
ユリアは自分が発した涙声に驚いたが、今言葉にしたことでハッキリと確信した、泣いて、いいつける子供のように母に言うなんて初めてだ、母がため息をついた
『そう・・・ではあなたが良いタイミングの時に、その人をうちに連れていらっしゃい』
てっきり母から、ジュンの職業から、収入から、質問攻めにされると思っていたのに
「え?ママ?いいの?」
『初めてあなたが真剣に愛した人ですもの、どんな人でも私と鈴が歓迎しないわけないでしょ、さぁ・・・もう泣かないで』
「うん・・・ありがとママ、名前は朝倉淳って人で・・・どことなくパパに似てるの」
ユリアは母の反応を黙って待った・・・父が癌で亡くなる前までは、父と母は頻繁に夫婦喧嘩をしていた、その度にユリアは母が父を本当に愛しているのか、もうずいぶん前から疑っていた、しばらくして、母はうっとりと甘いため息をついて言った「
『だったら素敵にちがいないわね、お寿司を用意して待ってるわ』
・:.。.・:.。.
ユリアにだって、これまで1度ならず、男性から花束を贈られたことは経験があったが、朝の7時に2日連続で、巨大な花束を贈られたことは初めてだった
そして、今朝も7時きっかりに玄関の呼び鈴が鳴り、ユリアはすぐにシルクの部屋着を羽織り、裾を素足にまとわりつかせながら玄関ドアへと急いだ、春先とはいえ、まだこの時間は外の空気はひんやりと冷たい
花屋の営業時間は何時なんだろうとユリアは思った、きっと営業時間外に違いない、玄関を開けると帽子を目深にかぶったにこやかな顔つきの花屋の店員が、ユリアに深々と挨拶をし、巨大な花束を渡す、バラ、ユリ、チューリップなど、今まで届いた花のなかでも、今朝はひときわ華やかな派手な色のカーネーションの花束を笑顔で受け取った
巨大すぎてずっしりと重い、ユリアは深くカーネーションの匂いを吸ってから、部屋に花瓶がわりになるものは無いか探した、もうすでに家の花瓶は五つ使っていて、それでも届けられる花を飾るには足りずに、家中のグラスポットをあるだけ使った
リビング、トイレ、バスルームや寝室など、あらゆる場所に飾りユリアのマンションの部屋全体が花でいっぱいになった、むせかえるような花の香りに囲まれながら、今日届いたカーネーションの中に一束小さな雛菊が入ってるを見て、ユリアは微笑んだ
この花束の送り主とのことをどうしようかと考えた・・・そしてハッと名案を思い付いた
完璧な案だ・・・ユリアは大急ぎで着替えを済ませ、外出した
駅前の商店街の生地屋で赤いオーガンジーの生地を数メートル切り売りで買った、さらに食品売り場に向かい、食材をどっさり買うと、ウキウキ気分で家に帰った、ユリアは時間をかけてとびきり濃厚なガトーショコラを作った、ベッドメキングをし、アロマキャンドルを灯し、そして送られてきた花を寝室のベッドの周り、そこらじゅうに飾った
数時間すると寝室はディズニー映画に出てくる様な、花の妖精の棲家みたいになった
ユリアは満足のため息をつき、次に買ってきた赤のオーガンジーの生地を取りだした、彼を迎え入れるには、それなりの準備がいる・・・体の奥から温かい感情がひたひたと沸いた
ジュンと出会ってここ数日の出来事は、ただの偶然では説明がつかないほど現実離れしている、ユリアは微笑んだ・・・もう疑う余地はない、ジュンは私の運命の人
彼を心から愛している、説明がつかないけど事実だ・・・二人は自分が脅えるほど、早急に惹かれあった
なので愛だと確信するまでは彼から少し逃げて本物かどうかたしかめる必要があった・・・ユリアはスマホを見つめた、今までためらっていたジュンの電話番号を良ちゃんから新しく朝倉淳と登録し直した、短縮ボタンを押すと、すぐにジュンのスマホにつながった、呼び出し音をひとつふたつと聞きながら・・・ユリアの心臓は飛び跳ねそうなほど激しく打った
彼は家にいるかしら・・・それとも勤務中?私の電話を喜んでくれるかしら?それとも冷たくあしらわれる?
プツッ『もしもし?・・・』
ジュンの声がユリアのスマホのスピーカーに響いた・ジュンの声をスマホ越しに聞いた途端・ユリアの胸はじわりと暖かくなった
「私の部屋がお花で埋もれる前に、これ以上お花を贈るのを止めてくれる?」
片眉を上げて言った、口はにんまりと上がっている、シュンとした彼の声が聞こえた
『その・・・気を悪くしたなら謝る・・・っていうか・・・もう謝らなければならない事ばかりで・・・どこから謝ればいいのか・・・とにかく本当に』
「ねぇ、私達、あのバレンタインの夜からやり直さない?あなたはブリーフ派?トランクス派?」
謝りかけたジュンの声の驚きの吐息がスマホの中に響いた・・・
しばらく沈黙が続いた後・・・彼が静かに言った
『トランクス派だ・・・知ってるクセに・・・』
途端に低く色っぽくなった・・・声にユリアはゾクゾクした、色々話そうと思っていたことが・・・彼の声を聴くと、真っ白になり、何も言えなくなった、自然と涙が溢れてくる
ヒック・・・「ジュン会いたい」
思わず本音が口からこぼれてしまった・・・本当はずっと彼に会いたかった、するとスマホから彼の真剣な声が響いた
『3分で行く!』
・:.。.・:.。.
ゴトンッと大きな音が響いた、それから規則的なゴトンッゴトンッという彼のスマホがどこかにぶつかっている様な音が聞こえたと思ったら、その直後に、車のドアが勢いよく閉まる音が聞こえ
あろうことかパトカーのサイレンの音が鳴り響いた、と同時に1分もしないうちに、ユリアの部屋の外から同じようにサイレンの音が鳴り響いた
ユリアはスマホを持ったままベランダに出た、すると一台のパトカーがけたたましくサイレンを鳴らして風のようにこちらに疾走してくる
それを見て思わず笑ってしまった、なんてこと!彼はパトロール中だったの?しかも私のマンションの近くを??本当にストーカー気質なんだから
『ユリア!!』
スマホからジュンの声が響いた
「サイレンを切って!犯罪があったと思われるじゃない!」
ユリアは厳しめの声でジュンをたしなめた、途端に外とスマホにリンクしているサイレンの音が鳴りやんだ、しっとりとした声で言った
「オートロックの暗証番号は2385よ・・・鍵は開いているから・・・入って来て」
・:.。.・:.。.
はやる気持ちを抑え、ジュンは震える指でユリアのマンションのオートロックの番号を押した、おっと忘れる所だった、肩に着けている無線と緊急呼び出し携帯の電源を切った
そうしないとこれからの事が署に筒抜けになってしまう、思いがけないラッキーな出来事に、ジュンの思考が着いて行かなかった
スマホのナンバーディスプレイに彼女の番号が映し出された時は、我が目を疑った
幾千通りもの言い訳を考えていた、愛の言葉は幾万通り・・・しかし・・・あんなに可愛く泣かれたら、今すぐきつく抱きしめる以外に選択肢はない
数分もしないうちにユリアの部屋にたどり着いた、鍵は開いている、ふわりと良いニオイがする、彼女は何処だ?花の匂いにさそわれてフラフラとジュンは彼女の寝室に入って行った、するとなんと一面の花畑にユリアが横たわっていた
ジュンは魂を抜かれたようにその場にたたずんで目を見張った、目をこすって良く見ると、なんだ、ベッドの周りに花が飾られている、彼女はシーツを体にまきつけてこちらを見ていた
ここは天国か?
ジュンはかぶっていた警官帽を手に取り、胸にぴったりひっつけたまま、その場に立ちつくした
何故か彼女に敬意を表すような態度になってしまった
「今までごめんなさい・・・私は傷つきたくないばっかりに、自分の気持ちをごまかしてあなたから逃げていたの」
ユリアは目に涙をためジュンをまっすぐ見つめた
バカだな・・・悪いのは僕の方なのに
ジュンはそんな彼女を抱きしめたくてたまらなくなったものの、懸命にこらえてその場に留まった、きわめて重要な場面だ、いい加減にはできない、その言葉の続きをどうか聞かせてくれ!!
「あなたを愛しているわ」
シーツをそっとはなしたユリアは赤いオーガンジーのリボンを体にまきつけていた、そしてそれ以外は彼女は文字通り首にある赤いリボン以外には・・・何もつけていなかった・・・彼女の瞳が熱っぽくジュンを見据えてくる
「だから・・・もし、やりなおせる機会をくれるなら、あなたとこれからも付き合っていきたい・・・」
膝に置いたユリアの手が小刻みに震えている、ユリアは殻を破り、心のすべてをジュンにさらしてくれた、傷つくこともいとわず自分を求めている・・・ジュンはユリアを熱く見つめながら、ゆっくり拳銃のホルスターを外した
そして身に着けていた制服の前身頃を勢いよく左右に引きちぎった、ボタンが左右に飛び散る、中に着ていた白いタンクトップも両手でつかんで頭から脱ぐと、サッと床に捨てた
彼女と同じようにすっかり自分をむき出しにし、ズボンとトランクスを一気に脱いだ、その様子をユリアは熱っぽく見つめた、ほれぼれするような体だった
服に隠れている時はただ幅の広い肩と分厚い胸板贅肉の無い体だなと思うだけなのに・・・体がむきだしになると、いたる所で筋肉が盛り上がり、割れた所にきれいな線が見える・・・彼の全身がそうなのだ
幅の広い筋肉の盛り上がった肩から胴体が滑らかな線を描いて、腰のあたりで細く引き締まっている、ジュンはたっぷり自分の体をユリアに見せてくれた・・・そしてゆっくり視線を下に落としていく・・・これほど大きく勃起したモノを見たことが無いピンと上を向いて、今にもお腹につきそうだ、裸になった彼はあまりに力がみなぎって、素敵だった
「僕も君を愛しているよ、ユリア・・・君を愛するようになってからずいぶん経つ・・・」
一糸まとわぬジュンの裸体が輝く、そしてユリアのいるベッドに肘をつく
息を殺していたユリアの全身がどっと喜びに包まれた、ジュンが自分のすぐ横にひざまづくと、さっきまでひどく恥ずかしくて不安でいっぱいだったことも忘れた・・・ジュンの顔に浮かぶ優しい表情に胸がいっぱいになった・・・この人は本当に私を愛してくれている・・・そう実感して顏を喜びが広がる・・・ユリアは彼のこげ茶の瞳を見つめた
「このラッピングは素敵だ・・・そして中身はみんな僕のものだ・・・」
そういうとジュンはオーガンジーのリボンをスルリとほどいた、他の奴には絶対に渡さないぞという彼の気持ちがユリアの欲望をそそった
「君が恋しくてたまらなかった・・・君のことを考えない日は一日もなかったよ」
「ジュン・・・」
二人の顔はすぐ近くにあって顔がぶつかりそうだ、そして唇が重なり、キスが濃密になっていった
ユリアを押し倒してジュンがその上に覆いかぶさる、ユリアは足を思いっきり広げ、心と体を彼のために開いた
彼の重みを全身で感じる、彼は何も言わずユリアを見下ろし、そして一突きで彼女の奥の方まで入ってきた
ああっ!!これよっ!
一つになった瞬間、二人は稲妻に打たれたかのように全身に電流が走った、二人がしていることはSEXだったが、それ以上の何かがあった
ユリアの目には涙が溢れ・・・そしてジュンも涙ぐんでいた、ユリアは必至でジュンにしがみついた、この瞬間をできるだけ引き延ばしていたかった、ジュンが激しく腰をユリアの股間に打ち付ける
自分の体はすっかり濡れていて、彼をすんなり受け入れている、体の電流はどんどん蓄積されていき、とうとうユリアは悲鳴をあげて絶頂に達した、背中をそらし、ジュンのモノをきつく締め上げる
するとジュンが浅く小刻みに突き上げるので、その絶頂が信じられないぐらい引き延ばされた
自分の体はすべて知り尽くされてる・・・彼の硬い胸や脚の毛が彼女の肌をこする、その感覚がさらに快感をあおる
夢のような時間がすぎると、彼が絶頂を迎えるのをユリアは口で感じた、キスをしながらうめいてユリアの中で彼の一物が膨れ上がり、一気に欲望が大量に自分の中で放たれた
熱く強烈な勢いで、噴出されている、彼は腰をこれ以上ないほどユリアに押し付け、どさっとユリアの上に倒れ込んだ、彼の荒い息遣いが耳元で聞こえる・・・ユリアは体を貫かれたとでもいうか奪われたという余韻に浸った
ハァ・・・「すごかったね・・・」
ハァ・・・「うん・・・」
嵐のようなクライマックスのあとでも、彼のモノはまだユリアの中で硬いままだ、ぐったりとユリアに覆いかぶさっている彼は非常に重く、意識していないとうまく呼吸できない、汗で二人の体がくっつく、ユリアは全身汗でびっしょりだった
「つきあうのは嫌だ!」
不意にジュンがユリアの耳元で囁いた、ジュンがユリアの瞳を覗き込む、彼に今だに組み敷かれているので身動きできない、彼から逃げられない
どういうこと?ユリアがジュンに問いかけようとすると彼がまた腰を打ち付けてきた
「ああっ!!」
ユリアは甘い声を漏らした
「精一杯努力して最高の夫になるっ!子供を作ろうっ!いい父親になるっ!絶対にウソはつかないっ!どんなことからも君を守るっ!この先なにがあろうと君のそばを離れないっ!それから罪悪感に訴えるつもりじゃないが君がいないと生きていけないっっ!!」
一言ごとにユリアを力強く突き上げる、すべて言い終わると彼はピタリと静止した
「ああっ!やめないで!イかせて!お願いっ!」
そこまで来ている絶頂を前に、ユリアは気も狂わんばかりに彼に懇願した
「結婚してくれ!うんと言うまで1ミリも動かないっっ!」
ジュンの腕に力がこもる
「ええっ!ええっ!するわ!あなたと結婚するっっ!だから早くイかせてっ!」
ユリアは純粋な信頼と震える喜びをもって彼にすべてをさらけ出した、それにジュンが激しい突きで答える
「僕のものだ」
「あなたのものよ」
どちらが導き、どちらが従うのでもなく、二人は一緒に喜びの絶頂の渦に漂った
・:.。.・:.。.
フワフワと余韻の波が退いて来た時にユリアは彼にキスしてつぶやいた
「ひどい人ね・・・」
重なりあった胸からジュンの心音がドラムの連打のように聞こえる、彼は息を整えながら言った
「だってこうしないと君はOKをくれないだろ?」
おでこをコツンとつけて二人は見つめ合った
「君を幸せにしたい・・・」
両腕でしっかりと抱きしめられた
「君のためにもっといい男になりたい」
「今のままで充分よ・・・あなたには何度も守ってもらった」
ユリアは涙声で言った
「僕も君に救ってもらった」
ジュンは熱を込めて言った
「君がいなかったら、あのままずっと眠れない夜を過ごしている所だった」
二人の目には新しい何かがあった、そこには疑念も技巧も支配もない
あるのは互いを思いやり、光も影もさらした心を求めあい・・・受け入れ合う気持ち
そして無上の喜びと情熱・・・ユリアが思い出したように笑顔で言った
「お祝いに一緒にチョコレートを食べましょう、とびきり甘いヤツを・・・私たちが十分愛し合った後にね」
クスッ・・・「充分愛し合った後?」
ジュンも笑顔でキスを返して言った
「それは2~3日かかるな」
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