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80歳を過ぎているとは思えない力で、米吉は浜崎の首根っこを捕まえてズルズル崖に引きずっていこうとしている
その様子を観光客がワイワイと神楽の衣装の米吉に引きずられている浜崎を祭りの催し物と勘違いして、楽しそうに見物している
スマートフォンを構えて写真を撮る者までいる
「んまぁ!お嬢様とお婿様をよりによって偽装婚だなんてっっ!」
中居の一人が憤慨した声を上げた
「失礼にもほどがあるわ!」
「そうじゃそうじゃ!婿殿は今日は立派に荒神様へ宮入りしたぞ!」
老従業員が力強く頷く
「ワシらの身内を悪く言うのは許さん!」
「けしからん!警察へ突き出せ!」
「だっ!だから違うんですって!」
浜崎の声は悲鳴に近かった、眼鏡が完全にずり落ち、スーツには砂がついている
「不届きものめがぁ~~~」
「だっだから!!私はただ・・・職務で・・・」
白目を剥いてつかみかかって来る米吉の攻撃を除けながら、浜崎は必死に周りの人に言い訳する、もはや調査官としての威厳などどこにもない
「大変興味深いお話ですこと、離しておあげなさい」
低く、静かな声が響いた、ハッと浜崎を取り囲んでいる全員が声がした方へ向く
そこにはフネがじっと佇んでいた、旅館の玄関から中庭へと続く石畳の上に女将は微動だにせず立っている、その姿は、まるで能舞台に現れた幽霊のようだった、氷の様な微笑みに着物の裾が夕暮れの風にわずかに揺れている
「お・・・女将・・・」
従業員たちの声が震えた、フネの纏う空気が、明らかに普段と違う
「お義父さんを寝室へ運んでおあげなさい、そしてこの人は私に任せて」
「御用だ!御用だ!」と呟きながら今はぐったりと寝入った米吉を従業員二人が担ぎ上げた、酔いと興奮で体力を使い果たした老人は、今はガーガーいびきをかいて梯子のように二人に運ばれて行く
ゴホゴホと締められた首をさすって、地面に転がっている浜崎をフネはじっと見つめていた
その目には一切の感情は見て取れず、まるで、深い海の底のように静かで、そして恐ろしく冷たい眼差しだった
女将の纏う空気が、明らかに危険な領域に踏み込んでいる、フネは一歩、また一歩と浜崎に近づいていく、履物の踵が石畳を撫でる音だけが、静寂の中庭に響いた
「今・・・偽装結婚の調査とおっしゃいましたね」
「い・・・いかにも・・・」
浜崎はずれた眼鏡を直し、ゴクリと喉を鳴らした、周囲の従業員たちも、息を呑んで二人を見守っている
夕暮れの光が中庭を赤く染めていく、祭りの余韻に包まれていた旅館に突如として緊張の糸が張り詰めた、フネの唇がわずかに弧を描いた、それは笑みとは呼べない、何か別の表情だった
「では、お茶でもお入れいたしましょう、ゆっくりとお話を伺いますわ」
女将の言葉で、浜崎の背筋を冷たいものが這い上がっていった
コメント
2件
女将の登場にブリザードが吹き荒れてる…😨 偽装結婚バレの危機😖 ジンさん、桜ちゃんピンチ💦
うわぁ😨 めちゃめちゃ面倒なことになったぞ⤵️ 女将😭何卒🙏🙏