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「無病息災・・・」
朝の光を浴びた田んぼの畦道で、松吉が静かに手を合わせた、その脇に佇む小さな地蔵は、苔むした石に刻まれた温かな表情で、緑の稲穂を見守っている
松吉の前には、紅白の餅と、五円玉を数珠つなぎにした紙こよりの輪が供えられていた、隣でジンも同じように手を合わせる。麦わら帽子の下から覗く彼の顔には、昨日の激闘の痕が残っていた
肩には青あざ、額には擦り傷、それでもその表情は穏やかだった、夏の風が緑の稲を撫でてどこかでカエルが鳴いている・・・蝉の声が、夏の空気を震わせていた
「かつてワシの先祖の先祖の・・・そのまた先祖からの風習じゃ、荒波祭りで勝った地域の長は、この一年、こうして氏神様方を巡るんじゃ」
松吉が小声でジンに説明した
「ご縁がありますように・・・という意味でな、五円玉を繋いだものを各地に祭る」
「なるほど・・・」
ジンは感心しながら頷いた
次に二人が訪れたのは小さな杜の中にある社だった、古びた鳥居をくぐり、木漏れ日が降り注ぐ石段を上る、緑の木々が涼しげな影を落とし、空気がひんやりと肌を撫でた
「ここは家内安全・・・」
松吉は同じように紅白の餅と五円玉の輪を供え、深々と二礼二拍手で頭を下げた、ジンもその隣で手を合わせる、二人の間に、静かな時間が流れた
そして最後は、波穂神社に二人はやってきた、昨日、あれほど激しい喧嘩が繰り広げられた境内は、今朝は静寂に包まれていた、掃き清められた石畳、凛とした空気、圧倒的な存在感を放つ本殿・・・松吉は本殿の前で、最後の紅白餅と五円玉の輪を供えた
ブツブツ・・・「氏神様におかれましてはご壮健で何よりでございまする・・・ますますのご多幸を切にお祈り申し上げます・・・」
松吉の祈祷にジンも隣で手を合わせ、静かに目を閉じた・・・蝉の声だけが、神聖な空間に響いている
しばらくして松吉が社を去ろうとしても、ジンはまだ手を合わせたまま、目を閉じていた、松吉は何も言わず、ただ隣で待っていた。麦わら帽子の下、松吉の表情は穏やかだった
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二人は神社を後にし、帰り道の田んぼ道を歩き始めた、緑の稲穂が風に揺れ、木漏れ日が二人の麦わら帽子に優しく降り注ぐ
「すまんのぉ、付き合うてもろてな」
松吉がふと立ち止まり、ジンに言った
「いえ・・・僕は何もしてません、お義父さんの後を着いてきているだけです」
「とはいえ、お前さんは異国の人じゃ、慣れない田舎に来て、地元衆に見世物のようにされて、気を悪くされてるかと思うとったが・・・嫌な顔ひとつせんと合わせてくれてありがとうな」
「いえ・・・お義父さんのご配慮のおかげです」
松吉は豪快に笑った
「なんの、なんの、そうは言うても、うちの地元民の相手は骨が折れる、アンタはようやってるよ」
松吉が広がる田んぼを眺めながら語り始めた
コメント
3件
ジンさんは、松吉さんの事をきっと凄い人だって思っているよね。 ジンさんは、ここが好きになってくれてるよね
ジンさんは何を祈願したのかな?? 松吉さんとジンさんの男同士の語り合い楽しみ☺️
松吉さんとジンさん、優しさと思いやりが溢れてて素敵💕 桜ちゃんとのLOVE祈願成就しますように😌 女将と浜や〜ん🥸 明日は修羅場かな😭