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人の霊が人に憑依する、もしくは動物霊が人に憑依するといった事は常々あるが、兎の霊が兎に憑依する事例は聞いた事があるだろうか?

私も自分で飼っている兎が憑依されたのを目の当たりにするまで有り得ないと思っていた。兎の気質から取り憑くことも取り憑かれる事もなさそうなイメージがあるからである。

今回はうちの『黒兎』が憑依された時の事を、あったままに書いていく。


節分の日。恵方巻きや豆撒きの準備をしていると、娘が急に「黒兎の様子がおかしい」と言ってきた。

常に甲高い声で騒いでいる小学生が近くにいればそれは兎にとってかなりのストレスになるだろうと、私はまず娘に離れなさいと言って黒兎の様子を確認した。

……確かに、いつもと様子が違う。

ケージの中のトイレの上で丸まって寝る事はあっても手足をピンと伸ばして寝る事はまずないのに、今日に限って無理矢理ピンと両手足を伸ばしては苦しそうにゴロゴロと転がっていて、かなり落ち着きがなかった。

黒兎はメスだったからおしっこを飛ばす行動はしないはずなのに、私の顔を見た途端、顔に向かって盛大におしっこを飛ばす。普通この行動はオスがやるものだ。

草を入れるケースの中に顔を突っ込んでは、そのまま食べる訳でもなくぐったりと動かなくなる。

急に動いたと思えば、今度は大きく口を開いて吐きそうな仕草をするも、何も出てこない。

そして再びバタンと倒れては昏睡したように寝落ち、三分もしないうちにガバッと起き上がってはケージの中で猛ダッシュして、また倒れてしまう。

手足を最大限にピンと伸ばしているのだが、それも変な方向に伸ばそうとする。

具合が悪いというよりも、まるで海外のエクソシストの映画に出てくる悪魔付きのような動きだった。

何か悪いものでも食べたか、急なストレスで体に負荷がかかったのか……とあらゆる可能性を考えながら、急いで動物病院に行く支度をする。

そんな中で、以前夫が言っていた「兎の死は唐突だよ」という言葉を思い出す。

正直今から病院に行っても着く頃にはもう間に合わないのでは無いかと思うほどの様子に、何も出来ない娘は顔面蒼白で半泣きしていた。

しかしケージからそっと抱き抱えて持ち運び用のケージに移動させようとした時、ふと違和感があった。

黒兎の目の色は黒と焦げ茶のはずなのだが、何だかやけに全体が薄い茶色なのだ。白濁してきたのかと思ったが、目の色自体がいつもと違う。

そこで不意に私も冷静になり、動かす前によくよく観察してみると、絶妙に顔付きも違った。

普段は穏やかだが悪戯っぽい顔付きのはずなのに、険しい雰囲気のオスを連想させる顔付きだった。具合が悪いとしてもここまで変わるだろうか、という程に原形がない。

そして態度もなんだかふてぶてしいというか、ひとつひとつの動作がどっしりしている。

病院に行く前に一度夫にも確認してもらおうと、彼を呼んだ私は見てしまった。

夫が部屋に入って来た瞬間、ふっと黒兎の体から薄ら透けた真っ白い毛並みの兎が飛び出してきたのを。

飛び出した白い兎は夫の足元に駆け寄り、黒兎はそのままぶるっと大きく身震いするといつもの体勢に戻り、私の顔をきょとんとした目で見上げた。

「あれ?戻った……?見て!いつもの黒兎に戻った!」と娘が声を上げれば、黒兎は鬱陶しそうに耳を掻く。

本当に呆気ないほどあっさりと黒兎は何事も無かったように毛繕いをして、黙々と草を食べ始めた。

さっきまで凄まじい速さだった心拍も、急にいつも通りの速さに落ち着き、たらふく草を食べ終えると水をがぶ飲みする。

呆気に取られていると、白い兎が私の手に鼻をツンツンツンツンと何度も押し当ててきた。冷たい。強い冷気だった。

そこでやっと「ああ、これ憑依だったんだ」と合点がいく。

まさか兎も憑依する事があるなんて思っていなかった私は、自分は憑依体質の癖に『憑依』の可能性をすっぽ抜かしていた。

黒兎はそのまま大きく欠伸をして、いつもの丸まった姿勢で寝てしまった。

夫はそんな黒兎を撫でながら「もう大丈夫そうだね」と言って立ち上がる。部屋を出る時ぽつりと「……また節分の日に嫌な思いをする所だった」と呟く。

どういう事かと尋ねれば「昔、俺が小学生くらいの頃に飼っていたオスの白い兎が死んだの、節分の豆撒きする直前だったんだ」と言う。

ーーー今日は、その兎の命日だったそうだ。

足元に座って黙って見上げている白い兎から、突然インスピレーションを受けて、私は夫に恐る恐る訊く。

「もしかして、ニンジン大好きだった?……あと、御骨ってホコリっぽい所に置きっぱなし?」

ニンジン!ホコリ!ニンジン!!ホコリ!!と、頭に直接そんなワードが浮かんだのだ。

夫は少し驚いた顔で、頷いた。

兎も人と同じで、言いたい事はインスピレーションで伝えるのだな、と初めて体感した。

きっと白兎は命日に夫の実家に還ってきたものの、実家に目当ての夫は居なく、お供え物もない。更には自分の御骨のケースにホコリが積もっていたのがとっても不満だったのだろう。

今度実家に帰った時にでも御骨を持ってくるよう夫に伝え、白兎には「うちにおいで、綺麗に保管するよ」と約束しておいた。伝わったかどうかは定かでは無いが。

今日はニンジンが無かったので、とりあえず家にあったバナナを即席で仏壇に添えた。

兎というのは、犬や猫と同じでかなり表情で喜怒哀楽が分かる。

白兎は見るからに怪訝そうな顔で私を見上げ、夫が「バナナは……あげたことなかったと思う……」と口を挟む。

……初見なのでニンジンが好き、という事しか伝わってこない上によく知らないもの、仕方ないじゃないか。知っていたらニンジンだって用意しておいたのに。

結局白兎はしばらく家の中で走り回り、しっかりとくつろいでいたようだった。生きていても死んでいても、やはり兎の行動は変わらないらしい。透けているか否かの違いしかない。

時々ケージの前で立ち止まり、黒兎をじっと見つめている。黒兎は見えているのかどうか不明だが、兎同士で何か通じるものがあるのだろうか。

よく耳を澄ませば、互いに「ブッブッブッブッ」と鼻を鳴らしていた。何か会話をしていたのかもしれない。

傍から見れば何とも奇妙な光景だったが、うちに来る霊体は人だけではない。流石に兎の訪問は初めてだったが、こんな日もある。

夜更けには白兎の姿はなく、黒兎もすっかりいつもの調子に戻って部屋んぽを楽しんでいた。


大して怖い話ではないが、私は黒兎が死ぬんじゃないかとかなり冷や汗を流し、かなり精神的には疲弊した出来事だった。

寿命の関係できっと無理だろうが、出来れば黒兎には私以上に長生きして欲しい。毎日「化け兎(百年くらいの長寿)を目指して生きてくれよ~」と言い聞かせては、「ブッブッブッブッ」と返事を貰っている。きっと互いに意味は通じてなさそうだ。

ーーー以上で兎の憑依の話は終わりだが、白兎の御骨を持ってきてもらった際には、美味しいニンジンを供えようと思っている。

私が死に呼ばれるまで。

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