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── 私…………恋を……しては…………ダメなんっ……っ……だよっ……。
圭の胸中に、美花が小さく投げ放った言葉が、棘のように刺さっている。
なぜ彼女は、恋をしてはいけない?
「…………どういう事だ?」
彼は理由を聞いてみたものの、美花は肩を震わせながら手で口元を覆わせ、まつ毛を伏せている。
薄茶の大きな瞳を丸くさせつつ、ハラハラと涙を零している彼女。
これまで、美花の笑顔しか見た事がなかった圭。
それが、声を殺して泣き濡れている彼女に、彼は、動揺を隠しきれずにいた。
時折、小さく響く、鼻を啜る音。
(彼女…………何を抱えている……?)
年齢よりも幼く見える彼女の表情を、ただ伺う事しかできない圭。
(君の胸の奥底に沈んでいるものは…………何なんだ……? 半分…………いや……全部…………君の代わりに俺が持ってやる事は……できないのか……?)
ひとしきり美花の様子を見守っていたが、言葉を掛けるよりも無意識に腕が伸び、彼女を抱きしめていた。
「っ!」
美花の頭を胸元に引き寄せた圭だが、美花は腕からすり抜けようと、身体を捩らせる。
「おっ……おにーさんのワイシャツ…………汚れちゃ──」
「いいから!」
圭の腕の中で、何度も身じろぎしている美花だが、離さない、と言う代わりに、彼は彼女をさらに抱き寄せる。
美花の笑顔の裏に潜む、重くて暗い影を、この日、圭は初めて見た。
その影が、美花の『恋愛をしてはダメ』と思い込む引き金になっているのかもしれない。
「ワイ……シャツ…………よごれ……ちゃ…………よご…………れ……ちゃ……っ……」
「そんな事、気にしなくていい。今は…………泣きたい時に、思い切り涙を流した方がいい」
彼女に気付かれないように、圭は美花の艶髪に、そっと唇を押し当てた。
(こんな事をする俺は…………彼女が……)
筋張った指先で、美花の艶髪を撫で梳かしていると、彼女の涙がワイシャツ越しに濡れ、ひんやりとした感触が圭の肌を滑っていった。
#シングルファザー