テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#シングルファザー
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
微かに濡れる美花の頬を、節くれだった手で包み込む圭。
焦らしながら彼の方を向かせると、親指で目尻に溜まっていた雫を、そっと拭う。
圭の瞳に映るのは、彼が知り得ない悲しみに暮れている、美花の姿。
彼女に、涙は似合わない。
夏の太陽に向かって咲き誇らせる、ひまわりのような笑顔が一番似合う、と圭は思う。
「美花さん」
掠れた声音で、彼は美花に囁くと、おずおずと探るような眼差しを辿らせていく彼女。
「…………笑ってくれないか……?」
熱を纏った二つの眼差しが静かに絡み合い、二人の間を纏っている雰囲気が、淡く色付き始める。
「…………君は……太陽のように輝く笑顔が…………一番似合う。だから…………笑ってくれないか?」
美花が、辿々しく眉尻を下げ、大きな瞳を細めていくと、小さな唇を僅かに綻ばせる。
(俺は……彼女を…………)
不器用に笑みを作る彼女に、圭の心臓がキュッと切なく締め付けられる。
多くの女たちを欺いてきた圭が、一番嫌いなタイプの女に心を乱され、吸い寄せられ、甘やかな奈落に堕ちた瞬間だった。
──美花を、俺の女にしたい。
圭の中に、男としての欲が掠めていき、美花に、顔をにじり寄せていく。
──美花の艶やかな唇を……奪いたい。
だが、互いの鼻先が触れるほどの距離になった所で、彼は顔を近付けさせるのを止めた。
(雰囲気に流されている状態で……彼女とキスをするのは違う……)
そんな事を考えていた圭は、自分自身にハッとする。
今までも、甘いムードに流されて、女とキスを交わした事は多々あった。
しかし、彼女とは、その場の情調に呑まれたまま、いい加減な気持ちで唇を重ねたくはない。
こんな思いを抱くのは、美花が初めてだった。
思い返せば、彼女と二人きりで会ったのは、六月に病院で偶然会った以来。
美花をもっと深く知るには、二人で一緒に過ごす時間が必要だ、と圭は考える。
「なぁ…………美花さん……」
「はっ……はい……」
弱った小動物のようなつぶらな瞳に、圭は目を細めつつ、明るい茶色の艶髪を撫でる。
「もし、君が嫌じゃなかったら……」
彼は顔を一度俯き加減にして逡巡した後、深く息を吐き切り、勢い良く顔を上げる。
「来月…………デート……しようか」