テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

 気がつけば、俺はポツンと森の中に立っていた。
















 澄み渡るような青空の元。俺の身長の何倍もの背丈の木々が、青々と生い茂っている。陰湿な雰囲気は全くなく、開けた場所にいるためか、視界は実に良好である。






 これが夢ならば、なんと嫌な悪夢だろうか。夢ならもう少しまともなものにしてくれ。そして夢なら、さっさと覚めて欲しいものだ。というか、さっさと覚めてくれ、俺の意識。




 だが、素足の裏に感じる地面……土と草の固く柔らかな感触が。そして幼い頃、年に数回だけ遊びに行っていた祖母の家の裏山で、日が暮れるまで泥だらけになってはしゃぎ回った思い出が蘇ってくるような。そんな大自然特有の懐かしさをまとった臭いが、『』なのだと、嫌でも俺の脳裏へと叩きつけてくる。




 俺の膝丈程まで生えた草が、少し離れた先に生い茂った木々が。どこからともなく吹いてきた風によって擦れ、柔らかな音を立てて揺れる。








 俺は雲一つない空に向けて、腕を伸ばす。指の隙間から漏れる日の光の眩しさに、俺は思わず顔をしかめて片目を閉じる。
















「いい天気だ……」
















 半ば現実逃避気味に、そう俺は呟いた。










 ――――――青く澄み渡る空……――――――

 ――――――見慣れない森……――――――

 ――――――さわさわと通り過ぎる、心地よい風……――――――

 ――――――遠くでは、何の動物か分からない生き物の鳴き声がする……――――――
















 簡潔に今の状況を説明しよう。俺……いや、は突然、見知らぬ森の中へ








 ここに居るのは、俺を含めて三人。








 目を輝かしながら、俺の周りを楽しそうにグルグルと回り続ける少女が一人。




 閉じることを忘れたように、大きく目と口を開いて呆然と立ち尽くしている少年がさらに一人。




 そしてその少年の、少し離れた隣で今まさに。現在進行形で現実逃避しかけているのを、何とか踏みとどまっている俺が一人。








 俺は今一度状況を整理しようと、額に手を当てて考える。「落ち着け、まだ慌てる時じゃない……。冷静になるんだ」と、そう自分に言い聞かせる。大丈夫、まだ慌てるな俺の理性。
















 ため息混じりに深呼吸をして、先程までの事を思い出す。








 何の変哲もない休日だった。休日と言っても社会人の俺は固定休じゃなく、シフト制の不定休故に、土日祝日などの世間一般的な休日ではない。








 そんないつも通りの仕事のない休みの日に、俺は自宅でいつも通ーりに、この俺の周りを走り回る少女と共に、朝からゲームをしていた。




 まぁ朝と言っても、毎回休みの日の前日には徹夜でゲームをするため、俺が起きた時間が朝だ。昼だろうと関係ない。俺が起きたその時間が、休みの日の俺にとっての朝だ。これだけは誰にも文句は言わせねぇ。








 そして夕方になり、この隣で立ち尽くす少年が学校と部活の帰りに、これまたいつも通り俺たちの家へとやって来た。このいつまでも俺の周りをグルグルと回り続ける、少女の家庭教師として勉強を教えるために。








 ここまでは普段通りの日常。俺が仕事だろうが、休みの日だろうが。それが俺たち三人にとっての日常、つまり現実リアルだ。
















 それが突然の訪問者と、によって、いとも簡単に崩れ去った。
















(何故だ? 何がどうなって、俺たちは森の中こんな所に居る?)
















 先程から、頭の中で何度も考える。だが結局出てくるのは、この非現実的な目の前の光景への、盛大なため息だけだった。








(落ち着け、俺。大丈夫、まだいけるな。大丈夫、大丈夫……まだ慌てるな……ステイ、ステイ……)






 この短時間で、目の前の現状に対して様々な思考と憶測が、俺の頭の中で何周……いや、何十周したことだろうか?




 は? 『さっきと言ってることが矛盾してる』って? 当たり前だろ、ふざけんなよ。


 この意味がわからない状況で慌てず、冷静でいろって言う方が頭どうかしてるだろ。


 むしろ災害時の『おさない』、『走らない』、『しゃべらない』、『戻らない』を守ってるだけでも偉いわ。




 ……いや、正直に言おう。戻れるのなら戻りたい。まだクリアしていない途中のゲームもあるし……よりによって今日のデイリーミッションを達成どころか、ログインボーナスすら受け取ってないものもる。


 そしてもっとも最悪なのは、連日ログイン系の報酬を受け取れていないことだ。学生時代からずっと、毎日欠かさずにログインしていたのに……くそっ、これだったら日付変更線が変わった瞬間にログインするんだった!




 このように、俺は不安と後悔……そして未だに理解できないこの状況。正直に言おう、慌ててるどころか混乱してる!


 だが俺は、この中で年長者ゆえに……今にも叫びたい気持ちを、奥歯をかみ締め拳を握ってグッと堪える。












(だから何故だ!? どうしてこうなった……!?)
















 声に出せばエコーがつきそうなほど、俺は心の中でそう大きく叫んだ。

お兄ちゃんは『妹が!』心配です

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

175

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚