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#怖い話
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「八神さん、例のプロジェクト、君をメイン担当に推薦しておいたから」
上司の言葉に、俺は耳を疑った。
派遣の俺が、最大手のクライアントを任される?
本来ならあり得ない話だ。
だが、驚きはそれだけじゃなかった。
帰り際、駅前の宝くじ売り場でなんとなく買ったスクラッチが、全弾的中
さらには、数年間も既読無視されていた元カノから「急に声が聞きたくなって」と電話までかかってきた。
「……全部、『徳ポリス』のおかげか」
スマホの画面をタップする。
【現在のランク:徳高き善人】
【現在の徳:5,200】
この一週間、俺は文字通り「聖人」として生きた。
毎朝一時間早く起きて街の清掃をし
お年寄りを見つければ背負ってでも階段を上り、コンビニのレジ横にある募金箱には小銭をすべてぶち込んだ。
情けは人のためならず。
そんな言葉、これまでは綺麗事だと思っていた。
だが、このアプリは違う。
善意を数値化し、即座に「報酬」として現世利益を叩き出してくれる。
「効率がいい。人生、こんなに簡単だったのか」
俺は駅のホームで、独り言を漏らしてニヤついた。
ふと横を見ると、サラリーマンが歩きスマホをして、向かいから来た女性にぶつかっていた。
「あ、すんませ……」
サラリーマンが気だるそうに謝る。
その瞬間、俺のスマホが激しく振動した。
画面には、今まで見たこともない毒々しい赤色の通知が表示されている。
『警告:周囲に不徳を撒き散らす者がいます。あなたの徳が汚染される恐れがあります』
「汚染……?」
画面のARカメラが自動で起動し、そのサラリーマンを赤枠でロックオンした。
彼の頭上には、マイナスの数字が浮かんでいる。
【不徳:−50 歩きスマホ、不誠実な謝罪】
俺の胸の中に、これまでにないドス黒い不快感がこみ上げた。
せっかく俺が徳を積んで、この街の「幸運の純度」を上げているっていうのに。
こいつみたいなクズが、全体の平均を下げている。
「……邪魔なんだよ、マイナスの人間は」
俺は無意識に、彼を睨みつけていた。
これまでは「関わらない」のが正解だった。
だが、今の俺にはこの不快感を解消する「権利」があるような気がした。
その時、アプリの画面が更新された。
『新機能解放:徳の再分配』
『不徳な者を指摘し、ポイントを浄化してください。成功報酬として、相手のマイナス分をプラスとして吸収できます』
「奪える……のか」
俺は、逃げるように電車に乗り込んだサラリーマンの背中を追って、迷わず同じ車両に飛び込んだ。
俺の幸運を維持するために。
この街を、もっと「正しく」するために。
俺の手は、次の「善行」を求めて震えていた。