テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
黒猫と小さな人影
古い建物に、黒猫とおじいさんの二人だけで暮らしていた。おじいさんは長い間心臓の病気を抱えていたが、毎日穏やかに笑って猫と話すのを楽しみにしていた。
ある日、静かな朝におじいさんは息を引き取った。黒猫はその異変に気づき、必死に街に向かって知らせようとした。しかし、人々は黒猫の声に耳を貸さず、ただ無視するばかりだった。
黒猫は次第に、人間に対して恐怖と怒りを覚えるようになった。人が近づくたびに威嚇し、目を光らせて遠ざけた。人間は皆、冷たく、聞く耳を持たない──そう思い込むようになった。
だが、ある雨の日、黒猫の前に小さな人影が現れた。黄色いカッパを着た5歳ほどの男の子だ。水たまりを踏みながら歩くその姿は、他の人間と違って見えた。無邪気で、どこかあたたかい匂いがした。
黒猫は一度立ち止まり、心の中でためらった。人間に近づけば、また拒絶されるかもしれない。それでも、この小さな存在だけは違う──そう思えた。黒猫は男の子の前に出て、ゆっくりと歩き始めた。まるで「ついてきて」と言うかのように。
男の子は不思議そうに黒猫を見つめたが、その足取りを追いかけてくれた。黒猫は雨に濡れながらも先導し、古い建物の前まで案内した。
その時、行方不明になった男の子を探していた警察と両親が駆けつけた。男の子が無事に見つかったことに安堵した大人たちは、同時に建物の中で倒れているおじいさんを発見する。黒猫の願いは、ようやく届いたのだった。
しかし黒猫はそのまま動物保護施設へ連れて行かれることになった。人間に裏切られた記憶がよみがえり、不安に身を縮める黒猫。だが、あの黄色いカッパの男の子と両親が施設を訪れ、黒猫を引き取った。
新しい家に戻った黒猫は、ソファの上で毛づくろいをしながら、窓の外の雨音と遠くの雷鳴を静かに聞いていた。テレビのニュースでは、倒れたおじいさんのことが淡々と報じられている。黒猫は深く目を閉じ、これからの新しい生活にほんの少しだけ安心を感じていた。