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別の体験談で『○○○○』という宗教絡みのお話をした時に出てきた、蜘蛛屍人によく似た『何か』という集合体の中心核に隠れていた『4歳児くらいの男の子』にまつわるお話です。
最初にその存在に気付いたのは、私が4歳の頃でした。季節は春~夏の間だったのを覚えています。
保育園のお昼寝の時間、唐突にトイレに行きたくなった私は保育園のトイレに向かいました。他の園児達はお昼寝しているか、教室で静かに遊んでいたのでトイレには私しかいません。無人のトイレは幼心に少し怖くて早く教室に戻ろうとして、急ぎめに手洗い場で手を消毒していました。保育園での手洗い場はちょっと変わっていて、シンクに大きなボウルが何個か置かれていて 中に薄めた消毒液が入っており、園児達はトイレを済ませた後5秒間必ず液体に手を浸す、というのが私の通っていた保育園でのやり方でした。1…2…3…と数えていると、ふと視線を感じて目の前の鏡を見れば、背後の個室前に置いてある大きな観葉植物の影に、茶色いTシャツに青い短パンの男の子が立っていました。あまり視力が良くなかった私は鏡越しだと顔までハッキリ見えません。「誰かいるの?」と訊(たず)ねても、何も返答はありません。振り向けば観葉植物があるのみ。人の姿もなかったので、私は不思議に思って観葉植物の裏や近くの個室を見て回りました。恐怖より好奇心が勝ったんですね。一番後ろの個室を覗いて誰もいないのを確認した直後、「…気ぃ付いたァ…」と嬉しそうな男の子の声が上の方から聞こえて、はっとして見上げれば、保育園のトイレの個室のドアは背丈が低くて天井との間に空間があるのですが、そのドアと天井の間の空間に男の子の顔が乗っていました。髪型からして男の子なのはわかるのですが、その顔は先程鏡で見たのと変わらずパーツが見えないのっぺらぼう状態で、流石に4歳だった私でもこれだけ至近距離で見えないのは何かおかしい、まずい、と思い始めて一目散に自分の教室へと戻りました。
※今回の話とは関係ない余談なのですが、私が通っていた保育園は一家心中のあった家の跡地に建っていて、亡くなったであろう父母娘息子の四人一家が見える子供達は当時とても多かったです。教室へと戻る途中、その一家の母と思わしき女性の霊体が、いつものようにホールの隅っこに立っていたのですが、慌てて走る私と目が合った途端に私を指さし、大きく口を開けて甲高い声で笑い始めました。何の意味があったのかさっぱりわかりませんが、幽霊同士で何らかのやり取りがあって、男の子に気付いて驚いて逃げ出した私に対してゲラゲラ笑っていたのかもしれません。
さて、教室に戻ればいつも通り、お昼寝タイムで寝ている子が多く、何人か寝れない子達がただ事じゃない雰囲気の私を見て「どうしたの?」と訊(たず)ねてきました。しかし、なんだか言ってはいけない気がして詳細を言うのはやめました。保育園でその男の子を見かけたのはそれが最初で最後でした。これだけなら単発の心霊体験談なのですが、さらに後日談があります。
小学生の、もう高学年になった頃だったと思います。ある時 断捨離をしていると家族の昔のアルバムが出てきました。そこに幼稚園児くらいの男の子の写真があり、祖母が「これはね、家の前でボールを取りに行った時にタクシーに跳ねられて4歳で亡くなった次男だよ」と教えてくれました。母は現在三人兄妹でしたが、元は4人兄妹だったといいます。亡くなった叔父にあたる人物の写真で、偶然にも跳ねられる直前に遊んでいたところを写した写真がありました。昔の写真なので色が褪せてはいるんですが、茶色いTシャツに青い短パンでサッカーボールを抱えた男の子の姿でした。ちょうど例の仏間でアルバムを開いていたのもあって、流石に鳥肌が立ったのを覚えています。しかし言ったところでどうせ「罰当たり!」と怒られそうなので当時は黙っていました。何故その男の子(ややこしくなるので以後『叔父』と呼びます)が前回の体験談に出てきた『何か』の中心核にいるのかは、ずっと謎でした。一応親族なのであまり酷い事は言えませんが、私からするとあまり良い雰囲気ではないのは確かで、人の幸せを叶えてくれそうな様子は微塵もありません。ただ、隙間から悪戯っぽく笑っている口元だけは若干うっすら見えていました。
保育園で見た男の子の正体が『叔父』であったと気付いた後、不思議な事に私が交通事故に遇いそうになる事が増えました。中学生では学校に行く途中 自転車走行中に軽自動車と接触しかけたり、成人した後は大型のトラックが突っ込んできたりと、どれもあわや大事故に繋がりそうな接触の仕方だったのですが、これまた不思議な事にぶつかる手前で人一人が間に挟まってクッションになったような感覚(一瞬だけ白っぽい服のようなものが見えた気がします)があり、私は転倒しただけで軽傷で済みました。何度か度重なる交通事故モドキ(いつもギリギリぶつかる寸前でしたが)に、何だか薄ら恐怖を感じていました。そして後から気付いたのですが、その交通事故に遇いかけるのは決まって14歳、24歳と『4歳』がつく年だけでした。(14歳の時は覚えているだけで1年の間に5回、24歳の時は6回程、交通事故に遇いかけていました) さすがに偶然だとしても気味が悪く、私が24歳の時には既に娘がいて 娘も4歳だったのですが、当時何だかずっと嫌な予感がしていました。その頃 娘の足元には常に何体かの『何か』が憑いていて、夜になると「タッタッタッ」とまるで馬の蹄(ひづめ)のような奇妙な足音と共にアパートの外にも『何か』が走り回っているのが肉眼ではっきり見えてしまうくらい、身近なものになっていました。
ここまで『何か』の干渉があったのに何故お祓いに行かなかったかと言いますと、単純にこの頃は離婚後で、働いてるとはいえ母子家庭だった私には、お祓いごときに何十万も支払う余裕などなかったのと、本家の人達に話したところで相手にされないので正直自分の死期も娘の死期も 感じ取ったとしても半ば諦めていたのです。
今の夫と知り合ったのもちょうどその頃でした。「雪ちゃん(私)って娘さんに対してなんか冷たいですよね」「もしかしてこの子の寿命見えてます?」と不思議そうに訊(き)いてきたのを今でも覚えています。彼もまた私より霊感が強く、人の死期というものが私同様 感じ取れる人でした。彼にとっては私が娘の死期を悟って、本能で遠ざけていると思ったのでしょう。私も自分でそんな気がしていて、彼に心霊相談を持ちかけました。実は彼、職場の後輩でして。言っていいのかわからないので詳細は伏せますが、守護がとてつもなく多くて、そのうちの数名はかなり有名な神社で祀られている動物関連で、霊力も凄まじいのです。彼曰く、元カノさんと付き合っている頃に旅行で行った神社にて呼ばれて、それ以来 今もずっと彼に憑いてる状態だそうです。彼自身も私と出会った頃には見えるだけではなくて霊視も出来て、自力である程度祓う事も出来る状態だったので、心霊相談にはうってつけでした。
彼は色々と話を聞いた後、仕事が終わると心配して家までわざわざ様子を見に来てくれました。その時に手土産として持ってきたのが、紫色のハートの形をしたガラスのネックレスでした。彼曰く「これ、旅行先のガラス館で買った一点物のネックレスなんですけど。ひとまず、強い奴には強いのぶつけてみようと思って!強い子を入れて(込めて)来ました!御守りですので是非使って下さい」との事らしく、物に宿るというのは本当で、確かに強い霊魂(私には何となく小狐っぽい形に見えました)が入っていました。「これを本家に行く時 娘さんに身に着けさせてみて下さい」と言われた通り、翌日私が仕事で娘を本家に預ける際にアクセサリーとして身に着けさせました。
そして驚いたことに次の日の夜、本家から娘を拾って帰宅した際、娘が半泣きで「あのね、本家に着いたら急に割れちゃった……」と首元から出したネックレスはなんと、ガラスの内側からヒビが入って割れていました。中に宿っていたであろう小狐は娘の足元にいます。ただ、見た感じがズタボロになっていたので、かなりの長時間『何か』とやり合ったのではないかと思いました。焦って職場にネックレスを持って行き、彼に謝ると「ああ、心配いらないです。中から出てきたんですね。良かった、ちゃんと娘さんを護るっていうお仕事を果たしてくれたんですよ」と彼は割れたネックレスを手に笑っていました。そして彼に『叔父』の存在と仏壇に宿っている『何か』の関連話と私の推測を話すと、彼は納得した様子でした。
「まず、雪ちゃんの思っている事は大体あっていて『叔父』っていうのが中心核にいるって事は、『何か』を周りに貼り付けているのは『叔父』自身で、最初に事故死してから寂しくて仲間を集めたかったんでしょうね。『何か』の姿って手足が変な方向に折れてるでしょ?全部交通事故死した霊体の成れの果てですよ、あれ。で、気付いてると思いますけど、娘さんの足元に必ず数匹『何か』が憑いてます。これが交通事故を起こしやすくしていて、完全憑依すると自分の意思は関係なしに車道に走り出します。『何か』の元の人間も、同じく憑依されて自分の意思と無関係に事故死していますね。『叔父』に関しては、本家の人達が熱心に自分に対して念仏を唱えているもんだから、自分が信仰されてると勘違いしてきっと変な方向に霊力がかなり増してしまって、年々周りの『何か』も増え続けている、そんな状態です。実際ネックレスに入れた小狐が言うには、『何か』の塊は全部で8層くらいになっていて、中心核に近付けば近付くほどに強いみたいです。娘さんは『何か』に完全憑依されていないのでまだ大丈夫かと思いますけど、足元にいるのが2層レベルなんで……娘さん、まだ幼くて自衛も効かないですし、今年4歳なら……今年いっぱいで……」
彼は何とも言えない目で娘を見ていました。私も常々直感で、娘が居なくなると感じ取っていた矢先だったのでかなり心身ダメージがありました。そんな私を見兼ねたのか、彼は「ーーー今回ネックレスに入れたのは俺に憑いてる狐の1匹で、強いと言っても正直まだそこまで霊力も高くないです。修行中って言った方がいいですかね。娘さんもまだ幼稚園児ですしあまり強過ぎるのを憑けてしまうと返って疲れて事故に繋がったら困るので小狐にしました。で、小狐に様子見してきてもらった感じだと、結構ダメージを負うみたいなので やっぱり『何か』は1層にいけばいくほど強いかなと……。まあ俺も修行を積んだ霊能者ってわけじゃないんで、出来るかどうかわかりませんけど、可能な限り祓ってみましょう!ただし、本家で祀ってるモノが全部消えても文句なしですよ!というわけで、早めに本家に案内して下さい」と言うので後日 一緒に本家にお邪魔しました。
幸い本家は自営業だったので本家の人達は1階で仕事を、私達は(彼が猫好きという事にして)現在も飼っている猫と遊びに来たよ、というていで2階に行きました。例の仏壇の前に来て一通り霊視した後、彼は何やら2、3回手を叩きました。合掌ではありません。その途端、彼はその場に崩れ落ちました。演技ではなく本当に一時的に昏睡状態になり、息はありましたが綺麗に転倒したので私はめちゃくちゃ焦ったのを覚えています。これは救急車を呼んだ方がいいのか、いやでもこの状況をどう説明すれば……と戸惑っていると、彼の身体から白っぽい影が飛び出してシュルッと仏壇の奥に入って行きました。速すぎて影しか見えませんでしたが、形からして蛇のようなシルエットでした。その白い影が入って行った後 少しして、中の蠢く気配が消えました。やがて白い影はふわっと仏壇から出てくると、彼の身体にシュルシュルと戻って行きました。あまりにも短時間の出来事で私はただ困惑し、一体中で何が起きていたのかと 恐る恐る仏壇の扉を開けば、見慣れた『何か』の塊も『叔父』も、そしてそれを抑制していたであろう3人の御先祖らしき守護霊達も 物の見事に消えていました。白い影が身体に戻っていった後 少しして彼も何事も無かったかのように目覚めて起き上がり、空っぽになった仏壇を見て一言「あー…やっぱり消えちゃいました。すみません、消しちゃったものは戻せません」と。
この一件の時、娘は小狐を憑けたまま幼稚園に登園していまして、帰ってきた時にはもう足元にいた『何か』も消え失せ、死期そのものの嫌な雰囲気も綺麗さっぱりなくなっていました。おそらく小狐が数体の『何か』を消し去ったようでした。祀られている狐は、神の眷属とも言いますから、小狐であっても普通の霊体よりはかなり強いものと思われます。
そしてそれ以来、あれだけ霊障をきたしていた『叔父』も『何か』も見かける事がなくなり、娘は今ではもう8歳。あの時憑けた小狐も一緒に、死期の影もなく元気に過ごしています。あの時一体仏壇の中で何が起きたのかを訊けば、「小狐だけだと数が多過ぎて1層目でやられちゃうので、俺に憑いてる白蛇に任せたんです。彼女曰く、一口で集合体ごとペロリだったらしいですよ。美味しくはなかったし、数が多いわりに腹は膨れなかったって。……なんせ元々祀られてる霊力の高い蛇なんでね。俺達からしたら恐怖の的でも、ヒトの成れの果てみたいなモノなんか彼女にしたら雑多に過ぎなかったみたいです」と彼は苦笑いしていました。
終わりはあっけないですが、以上で長年関わってきた『何か』と『叔父』にまつわる体験談はお終いです。もちろん本家の人達は亡くなった『叔父』が成仏して天国にいると思っているみたいですが、全然違います。食べられてしまったので、言うならば消滅です。今も尚、本家の祖父母達は空っぽになった仏壇に題目を送り続けています。あれはあれで、また何か変なものが宿らないか心配ですが、正直知ったこっちゃないです。