テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
三年前。
レコーディングスタジオには、今とは違う穏やかな時間が流れていた。
「摩耶ちゃん今日もサイコー♬ちょーヤバかった♬」
興奮冷めやらぬ様子で声を弾ませる千秋に、摩耶は嬉しそうに笑う。
「ありがとね千秋♬」
その様子を見ていた哲哉が、呆れたように声をかけた。
「コラコラ千秋ちゃん?君はアシスタント兼
マネージャーなんだよ?
タマちゃんにそういう口の利き方──」
「いいじゃん小諸さん」
摩耶はすぐに哲哉の言葉を遮った。
「堅苦しい事は言いっこ無しでさ」
「そうですよ〜だ♬べぇ〜♬」
千秋が舌を出して得意げに笑う。
哲哉はそんな二人を見比べ、苦笑を浮かべた。
「本当・・タマちゃんは千秋ちゃんに甘いよな」
「だって可愛いじゃん、妹みたいでさ♬」
摩耶はそう言って、隣にいる千秋へ笑いかける。
「ね〜♬千秋♬」
「摩耶ちゃん好きぃ〜♥」
千秋は満面の笑みを浮かべ、そのまま摩耶に抱きついた。
突然のことにも摩耶は慣れた様子で、千秋を受け止める。
「ホント姉妹みたいだな」
哲哉が微笑ましそうに呟いた。
「君たちは、もしかしたら
前世で姉妹だったりしてね」
その言葉を聞いた瞬間、千秋が勢いよく顔を上げる。
「あ♬絶対それだ〜♬」
そして、さらに強く摩耶へ抱きついた。
「お姉ちゃ〜ん♥」
「はいはい、可愛い我が妹♬」
二人の楽しげな笑い声が、楽屋の中に響く。
誰が見ても、本当の姉妹のようだった。
◇ ◇ ◇
「そんなに仲が良かったんですか?」
美沙の問いに、哲哉は静かに頷いた。
「ああ・・血の繋がりは無くても
二人の間には確かな絆の繋がりがあったよ」
哲哉は3年前の二人を思い出しているのだろう。その声には、どこか寂しさが滲んでいた。
信愛は眉を曇らせる。
「でも、そんな人が急に自殺なんて・・・」
朝陽も何か引っかかるものを感じたようだった。
「でも変ですよね?」
「変って何が?」
さくらが尋ねると、朝陽は考えを整理するように続けた。
「信愛先輩が見た霊が、その千秋さんだったとして
どうして照明機材を落としたりしたんでしょう?」
姉のように慕っていたはずの摩耶を、なぜ傷つけようとするのか。
信愛も同じ疑問を抱いていた。
「まだその千秋さんの霊がTAMAYAさんを
狙ったっていう確証があるわけじゃないけど
仮に千秋さんの仕業だったとしたら
何かあったのかもね」
信愛な表情を曇らせながら続ける。
「今まで仲が良かった事を真っ向から
否定したくなるような辛い事が・・・」
美沙がその言葉を反芻する。
「辛い事・・・」
朝陽は小さく頷いた。
「なら、それについて
調べてみる必要がありそうですね」
「だね・・・」
しかし、さくらが首を傾げる。
「でもさ?調べるってどこをどう調べるの?
名前と元アシスタント兼マネージャーって
情報だけじゃ、いくらなんでも少なくない?」
「それなんだよね・・・」
信愛も困ったように呟いた。
すると、黙って話を聞いていた哲哉が口を開いた。
「だったら、タマちゃんの事務所に 書類が残ってるかもしれない」
「事務所?」
「千秋ちゃんは、タマちゃんが
所属してる事務所の社員だったからね」
信愛は目を丸くした。
「でも、自殺した社員の書類って残ってるんですか?」
「確か労働基準法で保管が義務づけられてたはずです」
朝陽が答える。
「え?そうなの?」
意外そうな信愛に、哲哉が感心したように朝陽を見る。
「お、君、詳しいね」
そして皆に説明するように続けた。
「彼の言う通り、労働基準法で
労働契約書や給与記録は最低でも3年
税務に関連する書類は、最長7年
保管しなきゃダメだって定められるんだよ」
「知らなかった・・・」
そこまで聞いた美沙が、ひとつの提案をする。
「なら今から行ってみる?」
「いいんですか?」
信愛が尋ねると、さくらが少し心配そうに口を挟んだ。
「でも急に行って、見せてもらえます?」
「大丈夫よ、私も同じ事務所の社員だし」
美沙はそう言って、頼もしげに笑った。
「摩耶は今やウチ一番の稼ぎ頭だからね
『摩耶さんの一大事だ』って言えば見せてくれるわよ」
「あ、なるほど」
哲哉も頷く。
「なら頼んだよ、美沙ちゃん
タマちゃんは俺に任せて」
「お願いします」
話は決まった。
「なら行きましょうか」
美沙がそう言って歩き出すと、信愛も力強く頷いた。
「はい!お願いします!」
だが、数歩進んだところで信愛は何かを思い出し、足を止めた。
「あ、でもその前に病院寄ってくれません?」
美沙が振り返る。
「焔垂くんが心配なんで」
「あ、確かにそうね」
千秋の死の真相を追うことも大切だった。
だがその前に、今まさに傷ついている仲間のことを放っておくことなど、信愛にはできなかった。
コメント
1件
おおお、今回の回想パート、めっちゃグッときたわ…!摩耶ちゃんと千秋の仲良し姉妹感、可愛すぎて胸が温かくなったのに、その後の「♡♡♡」の衝撃よ。そんな仲良しだったのに、なんで照明落としたりするんだろう?何かあったとしか思えんよな。信愛たちが焔垂くんの心配しつつも調べようとしてるところも、みんなの優しさがにじんでて好き。続きめっちゃ気になるわ🔥