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国王の書簡に書いてあったのは、要約すると以下の通りだった。
【愛娘のアジェーリアとディモルトの挙式が無事に済み、かつ外交が以前より滑らかに進み始めたのは、供として同行したティアの功績でもある。だから、直々に礼を言いたい】
こんなふうにわざわざ書簡を用意してティアに伺いを立てたのは、国王が一個人として、ティアに会いたかったし、ティアとユザーナにドッキリを仕掛けたかったから。
本気で国王がティアを国益のために利用する気なら、バザロフが許すはずもない。持っている全ての権力と武力と金を使って、ティアをどこか遠くへ逃がすだろう。
それにバザロフと国王ことヴァージルにとって、ユザーナとバザロフは信頼できる家臣の一人であり、莫逆の友でもある。そんな二人を苦しめるような真似はしない。
ただヴァージルは子を持つ親として、とてももどかしい思いを抱えていた。
ユザーナは恐ろしい程に頑固者だ。どんなに説得しても、頑としてティアと会うことはしない。そのくせ四六時中、娘のことを案じている。
面倒くさい状況の中、オルドレイ国に嫁いだアジェーリアは、ティアの為にこんな手紙を王妃である母親に送っていた。
『初めての友達であるティアと、これからずっとずっとずぅーっと、堂々と文通ができる仲になりたいわ』
ヴァージルは国王の仮面を脱ぎ捨てれば、バザロフが呆れてしまうほどの親バカで、愛妻家だ。
愛する妻と末っ子の愛娘からのお願いとあれば、何が何でも叶えてあげたくなるし、十数年に及ぶ親友のじれったい状況に終止符を打ついい機会でもあった。
だからヴァージルは、ユザーナに気付かれないようティアの移し身の術に興味を持ったという体でグレンシスとバザロフに書簡を託した。
その結果、まんまとティアはこの城に来た。そして、ユザーナと無事(?)対面を果たすことができた。
とはいえグレンシスとバザロフからしたら、この一件は大変厄介で面倒なものだった。
なにせバザロフからすれば、長年の夢であるティアと共にバージンロードを歩くという夢が叶わない可能性が出てくるし、グレンシスからすればこの国一番の偏屈者からティアとの交際を反対される可能性があったから。
ちなみに裏社会の女帝であるマダムローズは、ティアの父親であるユザーナのことを意気地なしと嫌っていたりする。
だからバザロフは、書簡をティアの母親代わりのマダムローズに届けることが、とても気が重かった。
そんな複雑な事情が絡み合って、ティアは移し身の術を軍事利用されると勝手に思い込み、無駄な覚悟を決めてここへ赴いてしまった……というわけだ。
「───いい加減、戻ってこい。ユザーナ」
はるか遠くに意識を飛ばしているユザーナに声を掛けたのは国王だった。
「こんな場所ではゆっくり話も出来ぬだろう。もう中庭に茶の席が用意されている頃だ。そこで、積もる話をして来い。これは命令だ」
言外に、親子水入らずでお茶を飲めと言われたユザーナは、躊躇いながらも頷いた。続くようにティアもこくりと頷いた。
次いでティアは、国王にぺこりと頭を下げ、出口へと身体の向きを変えようとしたが、ここで呼び止められてしまった。
「ああ、あと言っておくがな、ティア」
「はい」
軽い口調で声を掛けられたティアだが、きちんと身体の向きを国王に戻す。
「私にとってお前は、ユザーナの生き別れの娘で、アジェの友でしかない」
「?……そうですか」
脈絡もなく何を言い出すんだと、ティアは首を傾げた。
そんなティアを見て、国王陛下はとてもわざとらしく笑い声をあげた。
「得体の知れない術など、私には興味もないし、今後、お前の術を必要とすることもない」
「っ……!」
問答無用で呼びつけておいて暴言を吐く国王陛下に、ティアは無言でいる。
でも口から出る言葉と、胸に抱えている感情がいつも同じであるとは限らないことも、ティアはちゃんと知っている。
この人は、アジェーリアの父親だ。優しい嘘を平然と吐ける人。
ティアは、国王ではなくアジェーリアの父親として玉座に座る男を見る。ほんの少し口元に弧を描いて。
「こんな小娘の力など、だれが求めるものか──だから安心して、親子の溝を埋めてこい」
「はい。ありがとうございます」
国王の顔に戻ったヴァージルに向け、ティアは最上の礼を執った。