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(…… 充の香りがする、気がする)
声も、気配も何となく感じるのに、悔しい事に目が開かない。睡眠不足のせいで眠気が強過ぎ、抗えない。
何かが近づいて来るのが足音でわかる。だけど、嫌な感じが全く無い。目が開かずとも、心から求める者である確信を持って掛布の中から手を伸ばし、俺はソレを掴んだ。
「清一?起きたのか?」
瞼も口もまともに動かず、問い掛けに答えられない。
(手を離したく無いな、何処へも行かないで欲しい)
「仕方ないなぁ、ったく」
呆れている事がわかる声が聞こえた。でも、何でだろう?…… ちょっと嬉しそうにも感じる。
(良かった、離さなくって)
ベッドが軋む音が聞こえ、温かなものが近づいてくる。俺の体にピッタリとくっつき、「この甘ったれが」と言う声が耳元で吐息とともに聴こえ、嬉しさに体が震えた気がした。
——間も無く、寝息が聞こえ始めた。目を閉じたまま体を横向きにし、向かい合う。
耳に届く寝息が心地いい音楽みたいで、いつまでも聴いていたくなる。ずっと、ずーっとこのままこの体温と寄り添って生きていけたら、どんなに幸せだろうか。
「…… 充」
無意識に、愛しい名前が口を出る。
「充、みつ…… る…… 」
布を掴んだまま、寒い訳でも無いのに、恋しい体温を欲して側へと近づく。胸板に頰を寄せると、とても心が落ち着いた。
(もう離さない。離したく無い)
そんな事を考えながら、俺はまた、深い眠りの中へと戻っていった。