テラーノベル
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一般道を走っていると、前を走っていたはずの加藤の車が見えなくなった。
「あれ? はぐれちゃったかな? まあ、場所は分かってるから大丈夫だけどね」
その時、美空のスマホに結衣からメッセージが届いた。
【はぐれちゃったみたいだから、ランチの店で合流しよう!】
【分かった!】
美空は返事を送信すると、夏彦に伝えた。
「ランチの店で待ってるそうです」
「了解!」
二人の乗った車は、軽快に走り続けた。
東京には本格的な春が訪れていたが、この辺りはまだ冬の名残が感じられる。芽吹き始めたばかりの木々の新芽が愛らしく、春の訪れを告げていた。
一足先に芽吹いた木々の葉は、鮮やかな黄緑色に染まっていた。ライトグリーンの葉が風に揺れる様子を眺めていると、なんとも癒される。
しばらく走り続けると、目的のレストランが見えてきた。
駐車場には既に加藤の車が停まっており、外には四人の姿が見えた。
車を駐車して外に出ると、加藤が待ちきれない様子で二人に声をかけた。
「やっと来たか! 腹減ったから行くぞーっ!」
そう言いながら加藤は店の入口へ向かい、その後ろを夏彦と植田が続く。玲奈は急いで夏彦に追いつこうと駆け出した。
一番後ろを歩く美空の隣に結衣が並び、ニヤニヤしながら言った。
「二人きりのドライブ、どうだった?」
「結衣が期待するようなことは、何もないよ。星談議には花が咲いたけどね」
美空は微笑みながらドアを開け、結衣を先に中へ入れた。
店に入ると、ふんわりと良い匂いが鼻をくすぐる。
この店は、パスタやハンバーグで有名らしい。カントリーテイストの内装に、女性が喜びそうな可愛らしい雑貨があちこちに飾られており、とても素敵な雰囲気だ。
席に着いた六人は、メニューを見ながら食べるものを決めた。男性陣はハンバーグセットを、女性陣はパスタを選んだ。
料理が来るまでの間、この後の予定について話し合った。
チェックインは三時からなので、このまま宿へ行っても早過ぎてしまう。
その時、玲奈が提案した。
「私、可愛いお店巡りがしたーい!」
「可愛い店って、雑貨屋とかのこと?」
「うん♡可愛いお店なら何でもいい!」
玲奈の言葉を聞いた男性陣は、携帯を手にしてこの辺りの雑貨屋を探し始めた。
いくつか可愛いらしい雑貨店が見つかったので、まずはそれらを巡ることに決めた。
その時、加藤が言った。
「なんか手作り体験ができる場所もあるぞ!」
「えっ? 何が作れるの?」
結衣が興味津々で尋ねると、加藤が答えた。
「うーんと、今やってるのは『トンボ玉作り』だって! トンボ玉って何だ?」
「キャーッ! 私やりたいっ! そこも行こう!」
結衣が興奮気味に叫ぶ。
「トンボ玉は、ガラスのビーズみたいなやつです。バーナーでガラスの棒を溶かして丸くするんです」
美空が説明すると、夏彦が興味を示した。
「やったことあるの?」
「はい、一度だけ。昔、デパートのガラス工芸展でアルバイトをして、体験コーナーでやらせてもらったことがあるんです」
「へぇ……難しいのかな?」
「大丈夫ですよ。誰でも簡単にできます。いびつに仕上がっても、味わいがあって可愛いし」
美空がにっこりしながら答えると、夏彦は少し安心したようだ。
「じゃあそこも行きまーす!」
加藤はそう言いながら、コーヒーを一気に飲み干した。
六人はレストランを出て、トンボ玉作りの体験ができる場所へ向かった。
店に到着すると、六人はさっそくトンボ玉作りに挑戦した。
講師の説明を聞いた後、実際に作業を開始する。ガラスの棒をバーナーで溶かし、くるくる回しながら球体を作り上げる。
途中、講師がそのトンボ玉に綺麗な模様を入れてくれた。女性陣はハート型を、男性陣は縞模様を入れてもらい、トンボ玉は完成した。
完成したばかりのトンボ玉はまだ熱いので、しばらく砂の中に埋めて冷やす。冷えるまでの間、六人は店からもらったチケットを持って、カフェコーナーでコーヒーを飲むことにした。
「思ったより簡単だったな! 最初は火にガラス棒を直接つけるのが怖かったけどさ」
加藤が言うと、植田も口を開いた。
「うん、楽しかったな。俺こういうのって結構好きかも!」
「きっと観光地でトンボ玉体験を見つける度に、挑戦しちゃうんじゃない?」
「あっ、さすが結衣ちゃん! 俺が考えてること、全部丸分かりじゃん!」
その言葉に、五人が一斉に笑った。
その時、玲奈が唐突にこんなことを提案した。
「ねぇ、ここからは車に乗るメンバーを変えない? 私、色々な人とお話ししてみたいし」
玲奈の言葉を聞いた結衣がギョッとした顔をするのを、美空は見逃さなかった。
すると、加藤が残念そうに言った。
「あれ~、玲奈ちゃん、俺の車だとご不満ですかぁ?」
「そういうわけじゃないですぅ~」
玲奈はごまかすように微笑んだ。
「分かったよ。じゃあもう一度くじを引き直そう!」
加藤はそう言いながら竹串を取り出し、皆に一本ずつ引かせた。
今度は、美空と結衣と植田が加藤の車に、そして玲奈は狙い通り夏彦と二人きりの車をゲットし、かなりご満悦の様子だ。
そんな彼女を見た結衣が、美空にボソッと呟く。
「あいつ、マジウザい!」
「まあまあ……」
美空はなだめるように言った。
コーヒーを飲み終えた六人は、店に戻りトンボ玉を受け取った。
手作りのトンボ玉にはおしゃれな紐がつけられ、素敵なストラップに仕上がっていた。
「うわっ、かわいい!」
思わず美空が思わず声を上げると、夏彦が微笑んでいた。
一方、玲奈は、ストラップの仕上がりよりも、夏彦と二人きりになれることの方が嬉しかったようで、ウキウキと一番前を歩いていく。
その時、一番後ろを歩いていた美空の隣に夏彦が来て、こう言った。
「これ、あげるよ」
夏彦は、先ほど作ったトンボ玉のストラップを美空に渡した。
「えっ?」
美空はびっくりして声を上げたが、夏彦はすでに前へ歩き出していた。
美空は驚いたまま受け取ったストラップを見つめる。
彼が作ったトンボ玉は、美空が大好きなトパーズを思わせる、美しいオレンジ色をしていた。
その後、六人はいくつか雑貨屋を巡った後、本日宿泊する宿へ向かった。
夏彦がよく利用するそのロッジは、オーナーが天文好きで庭に天体観測ドームが備わっていた。
宿泊客なら誰でもそのドームを利用できる。
ロッジは山に囲まれた小高い丘の上にあり、街明かりが遮られているため夜の闇が深い。
光害の影響が少ないこのロッジは、天文ファンの間では人気の宿だ。
ロッジへ入った美空は、フロント周りに飾られている写真を見て驚いた。
(すごい……天文ファンの人が撮ったすごい写真ばかりだわ)
いくつものレベルの高い天体写真を眺めながら、美空は今夜の星空への期待に胸を膨らませた。
コメント
32件
あざとい女って男にはモテるんだよね。 女の敵だわ
玲奈邪魔‼️
もしかしてこの宿…天体観察🌠 岳大さんのおじさんの宿ですね✨️ 今まで気づきませんでした⭐️ マリコさん楽しみまた、増えました💞