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チェックインを済ませた後、加藤が美空のリュックに入っている三脚に気付き、声をかけた。
「あらら、美空ちゃんも写真撮るの?」
「はい……上手く撮れるかどうか分かりませんが」
「へぇー、星の写真かぁ……いつからそんな趣味を持ってたの?」
「写真は本当に最近です。社会人になってからカメラを買ったので」
今度は植田が言った。
「女性で天体写真を撮る人ってあんまりいないよね。なかなかいい趣味だと思うよ!」
「ありがとうございます」
加藤も植田もいい人だ。美空は、まさか合コンで出会った人たちと星を観に行くことになるとは思ってもいなかったので、この不思議な縁に感謝していた。
ログ造りのロッジの壁には、鹿の首のはく製が掛けられ、その周りには大きなカウベルが飾られていた。木材の風合いを生かしたテーブルやベンチ、丸太の椅子など、手作り風の家具が味わい深い。
ロビーの中央には大きな暖炉があり、寒い季節にはここで火が焚かれるのだろう。衝立で仕切られたロビーの奥には小さなレストランがあり、夕食と朝食はここで提供されるようだ。
ロビーもレストランも、壁は一面ガラス張りで、遠くに南アルプスの雄大な山々が広がっていた。
(素敵……)
美空はその絶景に心から感動した。
「お風呂は温泉なんだって?」
「そうだよ」
「最高だなぁ!」
「この後も天気が良さそうだから、星空も期待できそうだね」
「わー、楽しみ~!」
その時、玲奈がロッジの庭へ続く扉を指差しながら言った。
「星って、あの庭から観るの?」
「そうみたいだな。移動しなくていいから楽だよね」
加藤が上機嫌で言うと、玲奈が叫んだ。
「えーっ! あんな野原みたいなところで観るの? 思ってたのと違う~! それに、私、パンプスで来ちゃったし」
不満気な玲奈に、植田が言った。
「大丈夫だよ。あそこにあるサンダルと長靴を、無料で貸してくれるみたいだし」
「えーっ! 誰かが履いた長靴なんて、嫌だわ~」
そこで、結衣がなだめるように言った。
「ほら、防寒具も無料で借りられるって書いてあるし。玲奈、上着持ってこなかったから、良かったじゃん」
「え~っ! あんなの着なきゃいけないほど寒いの?」
玲奈は、この地域の夜の気温について、まったく調べてこなかったようだ。
そこで加藤が口を開いた。
「美空ちゃんはダウン持ってきた?」
「はい、持ってきました」
「俺も念のため持ってきた。結衣ちゃんは?」
「バッチリ持ってきたよ~!」
玲奈が慌てたように言った。
「えーっ? 五月なのにダウンなの?」
それを聞いた結衣が、とうとう呆れたように言った。
「玲奈、私たちは星を観にきたんだよね? 星っていうのはさ、夜観るんだよ。それに、ここは高原で標高が高いんだから、寒いに決まってるじゃん!」
「寒いの嫌~! それに、あれも着るの嫌~!」
玲奈は貸し出し用に置いてある少し古びた上着を見て叫んだ。
「自分で用意してこなかったんだから、我儘言わないの!」
その時、険悪な空気を打ち消すように、植田が呟いた。
「へぇ……双眼鏡や望遠鏡も、無料で借りれるんだ」
その言葉に、夏彦が答えた。
「そうだよ。あと、夜は天体ドームにある大きい望遠鏡で、いろいろな観せてもらえるしね」
「そりゃあ、楽しみだなー」
そこで一旦、加藤が仕切り直した。
「じゃあ部屋の鍵を渡すぞー。男性が205号室、女性が206号室ね! 夕食は六時だから、五分前にロビーに集合して下さい。 それまでは自由時間なので、各自好きなように過ごしてください。では解散!」
六人はそれぞれ自分たちの部屋へ向かった。
美空たち三人が部屋へ入ると、そこはベージュ系で統一された洋室だった。
室内は上品で落ち着いた雰囲気で、窓からは南アルプスの雄大な山々が見えた。
明日の朝、起きたらこの景色が見られると思うと、美空の心は弾んだ。
その時、結衣が二人に言った。
「誰かが補助ベッドに寝ないとだね~」
その言葉に、すかさず玲奈が反応した。
「私、補助ベッドは嫌~」
「公平にじゃんけんで決めようよ」
「嫌~! 玲奈、安っぽいマットレスだと眠れないもん」
玲奈はまるで駄々をこねる子供のようだ。
その時、美空が口を開いた。
「私、エキストラベッドでもいいよ。晴れたら夜中に星を撮りにいくかもしれないから、出口に近い方がいいし」
「えー、でも……」
結衣が何かを言おうとしたところ、
「美空さん、ありがとう~!」
と、玲奈が遮るように言って、さっさと窓際のベッドに自分の荷物を置いた。
結衣は小さくため息をつき、美空に向かってこっそりと言った。
「ほんとに、お人好しなんだからぁ~」
「いいんだよ。その方が都合がいいし」
「ありがとうね、美空!」
結衣はそう言って、もう一つのベッドに荷物を置いた。
その後、美空と結衣は温泉へ入ることにした。
玲奈は、食後の後に入るというので、二人は彼女を部屋に残したまま大浴場へ向かった。
「まったくさぁ~、玲奈のわがままには参っちゃうよ」
「ふふっ、でも、あれだけ自分の意見をきちんと言えるのは羨ましいな」
「えーっ、そうかなぁ……。でも、『ああいうわがままなところが可愛い~♡』って思っちゃう男がいるのも問題だよね。そういう人がいるから、玲奈みたいな勘違い女が増えちゃうんだし……」
結衣は口を尖らせながら言った。
「それはあるかもね」
美空が同意したので、結衣は少し気が晴れたようだった。
女湯へ行くと、まだ誰もいなかった。
「貸し切りだね!」
「泳いじゃう?」
「子供かっ!」
思わず二人は声を出して笑った。
身体を洗った後、二人は露天風呂に浸かりながらゆったりとくつろぐ。
「暗くなったら、ここからも星が観えそうだね」
美空が笑顔で言った。
「美空は本当に星が好きだよね~」
結衣はそう言って笑う。
今夜の天気は晴れの予報で、朝まで快晴が続くようだ。
最高の条件に恵まれ、美空の胸は期待で高鳴る。
食後の観望会を楽しみにしながら、二人は温泉を満喫した。
食事の時間になると、六人はロビーで落ち合いレストランへ向かった。
ロッジでの夕食は想像以上に豪華だった。
夕食は和洋折衷の創作料理で、信州プレミアム牛のステーキや、地鶏と米茄子のミルフィーユ、春の味覚の天ぷらの盛り合わせや、美味しい信州蕎麦などが並んだ。
あまりの美味しさに、男性陣の酒が進んでいる様子だ。美空たち女性三人も、ワインを嗜む。
美空が食事の合間にふと窓の外を見ると、すでにいくつもの星がキラキラと輝いていた。
(期待できそう……)
美空は、夜空に目を向けたまま逸る気持ちを抑えると、グラスに残っていたワインを一息で飲み干した。
コメント
14件
レレレ玲奈❢『マジウザい!』みんな楽しみにしてるのに空気読めない女😮💨 観望会🌟に備えてダウン🧥準備してるのにアンタのせいでみんな気分がダウン⤵️⤵️⤵️ 加藤さん・植田さん気配りが素晴らしい👏⤴️ 美空ちゃん観望会📷🌟楽しんでね🤩
いったい何をしに来たんだか。 星を見るのは夜なのよ。 標高が高い所から見る星は凄く綺麗なの。 真冬の星空は本当に冴えまくる輝きなのよ。 それを見ないなんて勿体無いよ。
美空ちゃん夜中に星を見に行きそうだよね! そこには…夏彦くんもいたりしちゃったりなんかしちゃったりして〜(*//艸//)ドキドキ なーんてことないかな🥰