先日、飼っていたハムスター2匹のうち1匹が急死した。
前日まで元気に動き回っていたのに、翌日の夜ご飯を取り替えようとして異変に気付き、病院に駆け込むのも考えたが既に虫の息。
間に合うかも怪しく、間に合ったとしてもここまで弱りきったところに麻酔などの負荷をかけていいものなのかという葛藤があった。
もしかしたら持病があったのかもしれない。ペットショップからお迎えした訳ではなかったので、最初から「個体に何かあっても自己責任で」と契約書に書いてあったのを思い出す。
小さな命なので、弱いとしても仕方ない。過去にハムスターは2匹飼っていたことがあり、寿命に個体差があるのも重々承知している。
現在飼っているのは娘が選んだ黒いハムスターと、夫が選んだ薄いグレーのハムスターで、急死したのはグレーの子だった。
私は1匹でいいと言ったが、夫が最初に見た時の直感で黒い子は早くに死んでしまう気がしたらしく、娘が相当悲しむのを想定して長生きしそうなオーラのグレーの子も同時に飼うことになったのだ。
結果的に、長生きしそうだと思ったグレーの子が先立ってしまった。あまりにも急で、娘も夫も大号泣だった。3人で看取ることが出来たのは、せめてもの救いだったと思う。
グレーの子がいよいよ息も絶え絶えになった頃、同じ寝室にいた黒兎が耳を玄関の方に向けて強く足ダンをした。
何か来ている!と何度も警告のように足音を鳴らす。
生き物の最期には、「1人は寂しい」「連れて行く」といった数多の負の念を持った霊体が寄ってくる。人であったり動物であったり様々だ。中には喰らうために寄ってくるものもいる。
夫が守護や百鬼達に指示を出したようで、部屋を囲むように百鬼達が配置し対応してくれていた。
黒兎の足ダンに逸早く気付いて来てくれたのは、百鬼の動物部隊のリーダーをしているロイくんという男の子。彼は普段玄関の外で番人のような形で訪問してくる霊体の対応をしてくれている。
私の憑依守護のあさかも動物に関してはすぐ動く為、結界を張って防御に徹してくれた。
あらかた襲ってくる霊体を倒した頃、グレーの子が大きく痙攣し、最後の息を吐いた。
「行くべき所にちゃんと行けるように、道の安全は確保したよ。守護も何体か上まで付き添いするし、動物部隊の何匹か上でも一緒にいるように指示したから」と夫が言った。
「向こうで虐められたら動物部隊の子達がボコボコにしてくれるからね、すぐ言うんだよ」などと過保護な発言もあった。
動物部隊とは、ツリーハウスにいる主に動物だけが集結した部隊であり、元々生前動物で戦闘力はほとんどないけれど、大層百鬼に可愛がられている子達である。まとめ役のリーダーは動物好きなロイくんが担当している。
縄張り意識は強めなので、心強いとは思う。
「上の入口の形はわざと変えたからね。見たらすぐ分かるように。ハウスの入口と同じ形だよ」
夫はそう言って、別れを告げて撫でていた。私も夫も、飼っている動物にはかなり弱い。
時間を空けてから、ぽつりと「だからハムスターなんて本当は飼いたくないんだ、寿命が短過ぎる」とも言っていたが、動物は大体何を飼ってもよほどの事がない限り人間よりは先に旅立つものだ。
でも、グレーの子の最期にあれだけ引っ張る悪いモノが寄ってきたということは、これだけ霊感の強い黒兎がいずれ迎える最期の日にはもっと大量に押し寄せてくるのではないかと思う。
夫もそれは重々承知しているようで、「いつか来る日の為に、皆も修行を頑張ってくれ!」と百鬼に声を掛けていた。
私がいつか死んだとしても、相当な数が寄ってくると予想している。1番歴の長いS兄が「俺が1番強くなければ」と言っているのも、きっとその日が来たら今までよりもっと酷いモノが押し寄せてくるからなのだろう。S兄が先陣切って動けるくらい強くないと、もしかしたら全滅の危機があるのかもしれない。
グレーの子をケージから箱に移すなど全てが終わってから、ふと歴代のハムスター2匹を思い出す。
過去に飼った歴代ハムスター、1匹目は今回旅立った子と似たような薄いグレーの子で、かなり大きめな個体で生前とんでもなくおっとりした性格だった。
まず滑車など回さない。しかし部屋んぽは大好き。寝るのと食うのを生き甲斐とした性格で、鏡の前で謎のポーズをとったり、娘の玩具のベビーカーに乗せられると揺れが心地良かったようでベビーカーに乗ったまま爆睡するなど、どこまでもおっとりした子だった。
寿命で天に召した時、脇目も振らず真っ直ぐちゃんと動物が沢山いる動物界に行って、ポカポカな場所でのんびりのほほんと過ごしてるのは確認できた。
しかし、2匹目に飼った黒い小さなジャンガリアンが天寿を全うした後、上を探してもどうも居ない様子で、もしかして何かに食われたかのではないかと内心悲しんでいたら、なんと先日動物部隊の中にいるのを発見。
2匹目は夫と知り合った当初に私が飼っていて、遊びに来た夫のリュックをケージの隣に置いていたらリュックの紐をケージの隙間から自力で巻き込んで、なんと紐を齧りまくってもふもふな繊維にして寝床のクッションにして心地良さそうに寝ていた思い出がある。
動物部隊の中に似ている外見のハムスターがいるのは知ってたが、まさか2匹目のジャンガリアンだと思っていなくて「いつからここに!?」と聞くと、ツリーハウスが完成した頃に興味本位で降りて来たら帰り道が分からなくなってしまったようで、ツリーハウスの周りをウロウロしていたそうな。偶然見つけたロイくんに拾われたらしい。
ロイくんはうちで飼っていたとか関係なく、結構片っ端から彷徨う動物霊を拾って世話してるようだ。世話が行き届いているからか、負の念を持つ動物霊は少ない。
動物部隊はロイくんとの約束上、行きたい時に上に行くことができるらしい。しかし今はツリーハウスでわちゃわちゃしてるのが楽しいらしく、更にご飯も当たるから上に行く気はないようだ。ずっとわちゃわちゃしてる。
今回急死したグレーの子は、好きな時に降りてきてツリーハウスに混ざれるようにしたとロイくんや夫が言っていた。
……でも噂によると、動物部隊の中でハムスター達は結構強いらしい。齧歯類だからなのかは不明。
更に聞けば、1匹目は普段のほほんと上でのんびりしているけれど、気紛れに時折ツリーハウスにお尻から落ちてくると言われてちょっと笑ってしまった。
走って降りてくるのではなくて、あまりにも動くのが億劫な性格故にモチモチなお尻を下にして落下してくるらしい。気付いた百鬼がキャッチして動物部隊の元へ送っているそうだ。
「いきなり落ちて来るから、瞬発力が試される」などと百鬼が言っていて、想像してしまって吹き出した。
そして1匹目は動物部隊の所でご飯をたらふく食べた後、脇目も振らずまた安全な道から上に戻って寝るらしい。起きたらまたお尻から落ちてくると聞いて、生前のあの食いしん坊は天に召してもずっと続くんだなと実感した。そのまま転生軸に入るまで、長い時をのほほんと過ごして欲しい。
そして、そんな我が道を行く1匹目さえ受け入れてくれる百鬼がめちゃくちゃ優しさ満載でとても良い。
先程、黒兎にふと「もしかして最近ケージのドアを思いっきりガシャガシャ引っ掻いてたの、グレーの子の異変に気付いてたの……?」と聞いたら、まさかの「ブッ」と威勢のいい返事をされた。
最近やたらずっとケージのドアを引っ掻いて騒音を立てるから、何かのアピールだとは思っていたけど、てっきり部屋んぽのアピールかと……。
今後、変な行動の時はもう1匹の黒いハムスターか黒兎本人に何か異変があることを疑うつもりでいる。
グレーの子が急死する数日前に、職場の飲食店で野ねずみが出た。
飲食店なのでやはり駆除しなければならず、毒入りの餌を食べた野ねずみが従業員の出入口で死にかけているのに遭遇した。
結果、この時も看取る形になってしまい、案の定野ねずみの霊魂が憑いて来た。しかも何匹か巣を作って住み着いていたらしく、毒入りの餌を食べたのも1匹ではなかったようだ。
苦しい最期を迎えた野ねずみが2匹、家まで憑いて来た。その時は野ねずみ用のご飯などないし、まさか生前漁っていたであろう残飯をお供えする訳にもいかないので、ハムスターの餌をお供えとして供養した。
「苦しかった」と強く怒っている様子が伝わり、正直私も辛かった。
時間をかけてしっかり動物界に送ると、2匹は無事に合流した様子で仲良く駆け回っているのが視えた。きっと生前もあんな感じだったのだろう。
小さな動物がこんな短い期間に旅立つのを2度も体験するのは、かなりしんどい。
先に旅立ってしまったグレーの子と今まだ生きている黒い子は兄弟だ。
動物の兄弟姉妹は何か通ずるものがあるようで、片方が先に旅立つと生きている方もついて行ってしまう場合があると聞いたことがある。そうならないよう、黒い子や念の為黒兎にも語りかけて説得している。
どうかうちにお迎えした動物達は、天寿を全うした後、安らかに旅立って欲しい。
もう当面の間は、旅立ちを看取るのはお休みしたい。
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