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その日午前中の仕事を終えた瑠璃子は昼休みに弁当を持って食堂へ行った。

辺りを見回すと知り合いは誰もいなかったのでいつもの壁際の席に座って食べ始める。

すると大輔がやって来た。


「今日は僕もここで食べようかな」


大輔は瑠璃子お手製の弁当を手にして瑠璃子の前に座った。


「お疲れ様です。先生、朝同僚にスリップの事を話した運転が下手なんだからマイカー通勤はやめなさいって言われました」

「ずばり本音を言ってくれる同僚で良かったね」

「ひどーい」


瑠璃子の憤慨ぶりに大輔が声を出して笑う。

そこへトレーを持った長谷川がやって来た。


「今日も瑠璃ちゃんの隣に座っちゃおう」

「あ、長谷川先生お疲れ様です」

「お疲れー」


長谷川が嬉しそうに瑠璃子の隣に座るのを見て大輔がボソッと呟く。


「『そっと見守る』の意味がわかってない先輩だなぁ…」

「ハハッ、まぁいいじゃないか」


そこで長谷川が大輔と瑠璃子の弁当を見比べて気付いた。


「あ、同じ弁当だ」

「これはお礼の代わりなんです」

「お礼?」


そこで瑠璃子は朝起きた事故寸前の出来事についてを長谷川に話した。

瑠璃子には運転の素質がないので今年の冬は大輔の車に便乗させてもらう事、そして弁当はそのお礼だと説明した。


「なるほど。確かに雪道運転はナメてかかったら大事故に繋がるから充分気をつけた方がいいね。慣れないうちは運転はしない事! 充分気を付けて!」

「重々承知いたしました」


その時三人が座っているテーブルへ女性が近づいて来た。

その女性は朝大輔と瑠璃子が出勤した時に二人を見つめていた女性だった。名前は早見陽子(はやみようこ)、32歳。緩くウェーブのかかった女らしいヘアスタイルにきちんと施した隙のないメイク。服装は第二ボタンまで外した黒いブラウスに膝丈のベージュのスカートを履きその上に白衣を羽織っている。とてもエレガントな美人だった。

陽子は三人がいるテーブルへ近付くと言った。


「長谷川先生、前に座ってもよろしいですか?」

「どうぞ早見君、研修から戻って来たんだね? で、東京での研修はどうでしたか?」

「東京の大学病院はかなり刺激的でした。自分ではかなりレベルアップ出来たと思っています」


そして陽子は今度、大輔の方を見て挨拶をした。


「岸本先生、お久しぶりです」

「どうも」


大輔は一言だけ返す。

陽子は大輔ににっこりと微笑んでから今度は斜め前にいる瑠璃子に向かって自己紹介をした。


「初めまして! 私、以前岸本先生とお付き合いをしておりました薬剤部の早見と申します」


その言葉に瑠璃子は驚く。しかし驚きを表に出さないようにしながら落ち着いて挨拶をする。


「外科の村瀬と申します」

「村瀬さんは最近この病院に入った方?」


そこで長谷川が説明をした。


「瑠璃ちゃんは10月にこの病院に来たばかりなんだよ」

「へぇ、そうなんですね。前にお見掛けした事がなかったから新しい方なんだろうなーって思ってました」


そこで陽子は大輔をチラリと見る。

瑠璃子も大輔の様子をうかがうと大輔はムスッとしたまま食事を続けている。


その時早見も気付いたようだ。大輔と瑠璃子の弁当が同じだという事に。


「あら美味しそう! お弁当は村瀬さんの手作り?」

「え? あ…はい」


その時食堂の向こう側から陽子を呼ぶ声が響いた。


「早見さーん! 早く、早くこっちに来て!」

「うん、今行く」


早見は椅子から立ち上がると言った。


「どうもお邪魔しました。では、村瀬さんまたね」


陽子は意味深にそう言い残すとその場を後にした。


その後三人の間にはなんとなく気まずい空気が流れていた。

瑠璃子はなんとか場を和ませようとこんな風に言った。


「岸本先生の元カノ、すごくお綺麗な方でびっくりしちゃいました」

「まぁあの時はねぇ……岸本先生は彼女に押し切られた形で無理して付き合った感じだったからねぇ。ほら、見ての通り彼女は気が強くて積極的だろう?」


長谷川は自分はああいったタイプは苦手だという顔をして瑠璃子に言う。

そこで瑠璃子はしみじみ言う。


「岸本先生でも押し切られる事ってあるんですねぇ…」


そこで長谷川が声を出して笑った。大輔も釣られて笑う。

二人が笑うのを見て瑠璃子は何か可笑しな事を言っただろうかとキョトンとしていた。


天然な瑠璃子のお陰で、再び三人は昼休みが終わるまで楽しく談笑を続けた。


食事を終えナースステーションへ戻る途中、瑠璃子は先ほどの陽子の事を思い出していた。

職場恋愛などしないタイプだと思っていた大輔が薬剤部の陽子と交際していた事を知り瑠璃子は軽く衝撃を受けていた。

伊藤モータースの百合子とランチをした際、大輔は私生活では職場の人間と距離を置いているようだと百合子は言っていた。だから余計に意外な気がした。

そして明らかに陽子は瑠璃子を意識して挑発的な言動をしてきた。

そんな陽子のあからさまな態度は、瑠璃子の気分を徐々に憂鬱な雰囲気へと変えていくような気がした。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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コメント

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ユーザー

陽子さんすごいキャラですね。しかも大輔さんの元カノ。今も同じ職場で働いてるってことはすぐに別れたのかな。瑠璃子さんが北海道に移住した理由を知ってる大輔さんが何とかするはずです。陽子さんがこれからどう絡んでくるのか⁉︎

ユーザー

おぉんなぁ~~、ごぉころのぉ~~、みぃれん~でしょぉ~~~~(都はるみ『北の宿から』より)ぶっさいくな未練。

ユーザー

自分から『以前付き合ってた』なんて言う元カノ、初めて見たよ👀‼️ ゴリ押しして付き合わされた大輔先生、可哀想😢 きっとご自分の都合でお付き合いも辞めたのでは⁉️ 長谷川先生のフォローで瑠璃ちゃんもなんとか持ち堪えてたみたいだけど、大輔先生の元カノがいたとは思ってなかったよね、瑠璃ちゃん。。 これはーー、しばらく憂鬱な日常になりそうな嫌な予感😥🤢💦

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