テラーノベル
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部屋へ行くと、そこは見事な室内だった。
英国カントリー調のクラシックなインテリアは、重厚で上品な雰囲気を醸し出している。
花梨はその部屋がすっかり気に入ったが、今夜一晩、上司でもあり『王子様』でもある柊と過ごすのかと思うと、気が気でならない。
(ああ、なんか頭がおかしくなりそう……)
冷静さが取り柄の花梨にとって、こんなに動揺するのは初めてだった。
旅行バッグを置くと、柊が言った。
「奥が寝室だから、君専用で使うといい」
「え? でも、課長……」
「遠慮するな」
微笑む柊を見て、花梨の胸が小さく疼いた。
(なんて魅力的な笑顔……あんなキラースマイルを見せられたら、どんな女もすぐに落ちるわね……)
これまで彼の周りに何人もいたであろう美女たちのことを想像し、花梨は小さく息を吐いた。
「すみません、じゃあ、お言葉に甘えて」
花梨はそう答えると、逃げるように奥の部屋へ向かった。
扉を開けて寝室を見た花梨は、思わずため息を漏らした。
(うわぁ……すごく素敵!)
部屋の中央にはクイーンサイズのベッドが鎮座し、両脇には美しい薔薇の彫刻が施されたナイトテーブルが置かれている。そして、その上にあるアンティーク調のランプが、室内をやわらかく照らしていた。
窓辺にはパーソナルチェアが二つと丸テーブルあり、窓の外には美しい森が広がっていた。
目が覚めた瞬間、その美しい景色が目に入るようにベッドが配置されている。
部屋を見て感動している花梨の背後から、柊も覗き込んでこう言った。
「寝室もセンスがいいな」
「すごく素敵です。普段、こんなお部屋には泊まれないから、浜田様には感謝しないと……」
「明日、土産を買って帰らないとな」
「はい」
花梨は大きく頷いた。
「残念ながら温泉はないみたいだが、バスルームは女性が好みそうな雰囲気だったぞ」
「わ、見て来てもいいですか?」
「どうぞ」
花梨がバスルームを見に行くと、そこにはラグジュアリーな雰囲気が広がっていた。
広々としたバスタブは、足を伸ばしてもまだ十分に余裕がある。蛇口やシャワーはすべて華奢な作りのゴールドで、柔らかな照明に照らされ美しく輝いている。
バスタブの脇には観葉植物とキャンドルが置かれ、リラックスできそうだ。
アメニティグッズも一流ブランドのものばかりで、花梨が普段手を出せない品ばかりだ。
「先に入ってもいいぞ」
リビングから柊の声が響いたので、花梨は部屋へ戻りこう返事をした。
「私は寝る前に入るので、よろしかったら、課長、お先にどうぞ」
「そうか? じゃあ、先に入るかな……」
夕食まではまだ少し時間があったので、柊は先に入浴を済ませることにした。
その間、花梨はなぜかソワソワしてしまう。
(花梨、無よ、無の境地よ! 煩悩は捨てなさい! ほら、いつだったか、鎌倉のお寺で座禅体験をしたでしょう? あの感じを思い出すのよ!)
そう思いながら、花梨はベッドの上で座禅を組むと、両手を重ねて静かに目を瞑った。
しばらくすると、だんだんと心が落ち着いてきた。
五分ほど座禅をした花梨は、ベッドから下りて「ふぅーっ」と息を吐くと、窓辺のチェアに座り、先ほど撮影した別荘の写真を一枚一枚見ていく。
仕事のことを考えていると、さらに気持ちが落ち着いてきた。
それから30分ほどしてリビングから声が聞こえたので、花梨はドアを開けて顔を出した。
「そろそろ夕食に行こうか?」
「はい。じゃあ、ちょっと着替えてきます」
柊がカジュアルな服装なのに、自分だけ黒のパンツスーツはさすがに場違いだと思い、花梨は持ってきたデニムと白のカットソーに着替え、オフホワイトのカーディガンを羽織った。
ディナーはフレンチだったが、ホテルのホームページにはカジュアルな服装でOKと書かれていたので大丈夫だろう。
着替えを終えた花梨は、鏡の前で軽く化粧を直し、一つに結んでいた髪を解いて軽くブラッシングした。
(ああ、なんか緊張する……。まさか、こんな素敵なホテルで上司と二人きりでディナーをともにするなんて……)
そう心の中で呟きながら、花梨は柊がいる部屋へ向かった。
部屋に入ると、柊はすでに準備を終えていた。
長い足を組み、ゆったりとソファに座る彼の少し湿った髪は、妙に大人の色気を漂わせている。
それは、会社で見る柊とはまるで別人だった。
普段はスーツ姿しか見ていないため、私服の彼はどこかワイルドに見えた。
大人の男性の溢れ出る魅力に、花梨は一瞬にして見とれてしまう。こんなことは初めてだ。
元彼の卓也にだって、こんな感情を抱いたことはない。
そこで、ハッと我に返った花梨は、慌てて咳ばらいをした。
その音に気づいた柊が顔を上げる。
「準備はできた?」
「はい」
「じゃあ行こうか」
柊が立ちあがって出口へ向かうと、花梨はその後を追った。
その瞬間、爽やかなボディーソープの香りが彼女の鼻をくすぐる。
(お風呂上がりの課長を見るのは、これが最初で最後かも……。貴重な経験だわ)
思わずフフッと笑った花梨は、柊がドアを開けて待っている出口へと急いだ。
コメント
33件
花梨ちゃん、お風呂あがりの柊さんは、これからずーっと見れるから安心してね。 そのうち、お風呂に入ってる姿も|д`)д`)チラリ あ、花梨ちゃんの姿も柊さんに見られることになるけど( *´艸`)ウフフ
そんな事ないでしょ これからずっと柊様のお風呂上がりを堪能出来るよ^_^花梨ちゃん だから無の境地にならないで素直な境地で柊様にぶつかって❣️
ワイルド柊ちゃん。ワイルドだろぉ~。 げっわいえんたふっ ひとりぃでわ とけないあいのパズルをだいてっ あ。コレ、西川くんちゃう方のTMの曲。 解けない愛のパズル、解いたげて。