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ホテルのレストランは、とても瀟洒な雰囲気だった。まるで、都内の老舗ホテルのような気品に溢れている。

周囲を見回すと、お洒落をしているカップルの姿も見受けられた。

花梨は、カジュアル過ぎる自分の服装に気後れし、ついこんな言葉が口をついて出た。


「もうちょっとオシャレしてくればよかった……」


その言葉に、柊が微笑みながら言った。


「気にするな。ほとんどの人が普段着なんだから」

「……それにしても、格式のある素敵なホテルですね」


花梨がうっとりと天井を見上げると、クラシカルなアンティークシャンデリアが優しい光を放っている。

レストランのテーブルには上品なベージュのクロスが掛けられ、あちこちに美しい花が生けられている。

窓から見えるライトアップされた美しい森がなんとも幻想的だ。


料理はコースと決まっているため、二人はメニューを見ながら飲み物を選んだ。


「ワインを一本頼むか」

「はい。あの、お食事の支払いも浜田様が持ってくださるのですか?」

「そうみたいだね」

「何から何まで……本当に至れり尽くせりで申し訳ないです」

「まあ、帰ったらちゃんとお礼をしておくから」

「その時は、私にも声をかけてくださいね」

「わかったよ。メインはヒレ肉のステーキみたいだから、赤でいい?」

「はい」


柊はスタッフを呼び、飲み物を注文した。


ワインが運ばれてくると、二人は乾杯した。


「あの別荘に、いい買い手がつきますように!」

「素敵なご縁に恵まれますように!」


グラスをカチンと合わせ、ワインを口に運ぶ。


「美味いな」

「美味しい~」


そこへ、シェフ特製のオードブルが運ばれてきた。

信州サーモンの燻製に、田舎風パテ、新鮮な野菜やチーズが色鮮やかに盛り付けられている。

どれも美味しくて、花梨はほっぺたが落ちそうになる。


「美味しい! どれも絶品ですね」

「うん。仕事なのに、こんなに美味いものが食べられてラッキーだったな」


柊は微笑みながら、ワインをもう一口飲んだ。


軽く酔いが回ってくると、花梨の緊張も少しずつ解けていった。

食事が進むとともに、二人の会話も自然と弾む。


「さっき言ってた資格のことだけど、今も何か勉強してるのか?」


その問いに、花梨は口をもぐもぐさせながら答えた。


「いえ、今は特に……」

「恋人と別れた後だから、むしゃくしゃしてるんじゃないの?」


そう言われて、花梨は初めて気づく。

卓也にフラれかなりムカついていたはずなのに、今回は資格試験に挑んでいないことに。


「そう言われてみればそうですね。でも、今回はまったくそんなこと思わなかったです」

「じゃあ、意外とダメージが少なかったってこと?」

「どうなんでしょう?」


そう言われると、そんな気もしてくるから不思議だ。


「彼と付き合い始めたきっかけは?」

「うーん……飲み会で隣の席になって話したのがきっかけですかね」

「ありがちな展開だな」

「課長! それってかなり失礼な言い方ですよ!」

「ははっ、だってそうだろう? あまりにも平凡すぎるじゃないか」


柊はそう言って、ニヤッと笑った。


「え? もしかして、課長はロマンティックな出会いとかが好きなタイプなんですか?」

「わりと……そうかな」

「へぇ、意外……。そういうのって、女性の方が憧れるものだと思ってました」

「いや、案外男の方がロマンティストだったりするよ。それに比べて、女性は現実的だからなー」

「まあ確かに、女性の方が計算高いっていうのはあるかもしれませんね」

「うん。それに、ちゃんと将来を見据えてる」

「そうかもしれません。でも、そういうしっかりした女って男の人は嫌いですよね? 私、わりとそういうタイプだから、愛想つかされたのかなって思ってるんですけど……」


花梨が淋しそうに笑うと、柊が口を開いた。


「将来をきちんと見据えるっていうのは、悪くないと思うけどな。恋愛も結婚も、夢やロマンだけじゃいつか破綻するしね。 だから、ちゃんと将来の設計ができる女性っていうのは素敵だと思うよ」


柊の言葉を聞き、花梨は意外に思った。


(課長が好みそうな女性って、未来なんてまったく考えずにいつもふわふわしていて、男心を惑わせるような魔性の女ってイメージなのに……意外だわ)


「へぇ……意外です。課長はてっきり、現実的ではっきりものを言うタイプの女性は苦手かと思ってました」


その言葉に、柊がピクリと反応した。


「はっきりした女性は好きだよ。自分の意志をしっかり持っている軸がぶれない女性もね。この先、長い人生を一緒に歩むパートナーなら、自立した女性の方が絶対にいい」


その時花梨は、昔卓也に言われた言葉を思い出した。

同棲を始めたばかりの頃、些細な意見の食い違いで喧嘩になった時のことだ。

卓也は、はっきりと自分の意見を主張する花梨に向かってこう言った。


『俺は花梨のそういう気の強いところが苦手だよ。女はおとなしく黙って男の言うことを聞いていればいいんだ』


その言葉に、花梨は違和感を持った。


(思えば、あの頃から二人の意識にはズレが生じていたのかもしれない。あれ以来、私は卓也に言いたいことも言えずに、いつも我慢してばかりだった。その挙句に、浮気までされちゃったんだもん)


沈んだ表情の花梨に気づいた柊は、急に話題を変えた。


「ところで、別荘をアピールするキャッチフレーズは考えたか?」


突然仕事の話を振られたので、花梨はハッとして顔を上げる。

そして、いくつか考えていたキャッチフレーズを柊に伝えた。


「さっきざっと考えてみたんですが、『四季を敏感に感じられる場所』『五感を研ぎ澄ます自然豊かな地』『心の休息』『静かな時の流れ』『本当の自分に戻れる場所』こんな感じはいかがでしょうか?」

「すごくいいね。あとは、それに具体性をプラスするともっといいかもしれない」

「スキー場のリフトまですぐの距離とか?」

「そう。それをアピールしない手はない。この辺りは星空も素晴らしいと評判だから、それも加えるといいかも」

「いいですね。星が綺麗な場所って大人気ですもんね」


アルコールの勢いもあり、二人の会話はどんどん盛り上がっていく。それとともに酒も進む。

美味しい食事とワインを楽しみながら、二人の会話はますます盛り上がっていった。

城咲課長は鉄壁女子社員を甘やかしたい

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