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9月2日の昼前。俺は映画を見ている。
最近ずっとこの映画だ。
ビッグフィッシュ。
父さんが1番好きな映画だ。
父親と息子の物語だ。
父親がよく息子に話している若き日の話。
それはおとぎ話のようで年を取るにつれ、息子は嫌いになっていた。
だが、父親が病気で入院したことで父親のことを知りたいと思うんだ。
そして息子の頭の中で父親が話をしたおとぎ話が空想となり、物語が進むのだ。
小さい俺は父さんの膝の上で見ていた。
俺もこの映画が大好きだった。
若き日の父親が巨人や奇妙なサーカス、そして後に結婚する奥さんと出会うのだ。
どれもキラキラしてて、俺はこの映画のような世界に憧れていた。
きっと父さんもこんな世界に憧れていたから好きだったのかもしれない。
一緒に見ていた父さんは
「俺にはお前に話せるような楽しい話はないがな……」
と寂しそうに笑っていた。
「だからお前は自分の子供に楽しい話を聞かせれるようになれ。」
って言われたんだ。
そのあと母さんが微笑みながら、
「楽しい話ならあるじゃない。 私達が出会った時の話」
「そうだな。」
その時の父さんと母さんは幸せな笑みを浮かべいたんだ。
でも……その時には俺を守ろうとする行き過ぎた感情があったのか……。
俺が幸せになるように……。
映画を見終わった。
そろそろあそこへ向かおう。
俺が向かってるのは大塚にあるfriendsという店。
よく綾葉と行っていた店だ。
巣鴨からは一駅で行けるし、お互い甘いのが大好きでケーキを食べることが多かった。
そこでお茶をしてから何処かに行くのがお決まりだったのだ。
でも……。
あの夜から行かなくなった。
ある映画の結末に、愛していた女性に裏切られ、財産とも言えるものを全て失った。
それは自分の友人達がその女性と協力して行ったのだ。
主人公の男は財産も愛する人も友人も失った。
そして最後は1人寂しく、愛する人が話していたカフェへ行くんだ。
その彼女が来るわけないのに……。
それが自分と重なりそうでカフェに行かなくなり、綾葉との思い出が蘇りそうでケーキ等が食べれなくなったのだ。
だが、久々に行こうと思ったのだ。
今日が……。
沙和子の20歳の誕生日だから。
沙和子も甘いのが好きで昔は2人でよく食べいた。
お互い好きなケーキはチーズケーキ。
父さんがお土産で買ってくると俺と沙和子は目を輝かせながら、それを食べたんだ。
だから……。
形だけでも、俺が美味しいと思ったところで密かにお祝いしようと思ったんだ。
店に着いた。
以前と変わらず、花が飾られていて綺麗な店だ。
店内も華やかに飾り付けされていてとても綺麗だ。
俺は以前によく頼んでいたアールグレイとチーズケーキを頼む。
ここのチーズケーキは今までで食べた中で1番美味しい。
「お待たせしました!」
店員さんが紅茶とケーキが持ってきた。
「ありがとうございます……」
俺は店員さんの顔を見て、どこかで見覚えのある顔だと思った。
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#ミステリー
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もしかして……。
「あの……すみません」
店員さんがこちらを向く。
「間違いだったら申し訳ないんですけど、大谷幸代子さんですか?」
店員さんはクスッと笑いながら
「やっと気づいてくれたね、友和君。 忘れられてるのかと思ったよ」
「ごめん。もしかしてずっと働いてた?」
「そうだよ。実はここ、私のお店なんだ!」
「すごいな。俺と同い年で自分の店を持つなんて……」
「大変だったよ。学生時代はアルバイトでお金貯めて、専門学校の時はいろんなところで修行した。 ここで働いてる人達は専門学校時代の友達なんだ!」
「そ、そうなんだ。 友達とお店を開けるなんていいね……」
少し羨ましく感じた。
俺にはもう友達も家族も何もないから。
「事件のこと……ニュースで知ったよ…。 すごく辛かったよね……」
「大丈夫だよ……。 少しは落ち着いた」
本当は大丈夫じゃないのだ。
あの瞬間のことがまだ頭から離れない。
俺が発してしまった言葉が妹を殺してしまったから……。
「それならよかったよ……。 久々に来てくれたんだね。 嬉しいよ」
「うん……」
あれ以来行ってなかった。
でもあれだけ行ってて気づかなかったのか……。
悪いことをした。
綾葉に関しては忘れていたんだろう。
「綾葉ちゃんと……よく来てくれてたよね。 綾葉ちゃんは普通に私のこと忘れちゃってた感じかな。 私は同窓会に風邪で行けなかったし……。 友和君は綾葉ちゃんのこと気にかけていて気づいてなかったんじゃないかなって思ってた。」
「本当にごめん」
申し訳なく感じる。
「いやいや!責めてるわけじゃないの。」
大谷が慌てる。
「私も声掛ければよかったことだし…。 でも……」
「2人が毎回楽しそうに話しているのを見て、声かけづらかったんだよね……」
楽しそう………か。
「でも嬉しかったんだ。2人が私のケーキを美味しそうに食べてくれて…。」
「とても美味しいよ。 このチーズケーキも他とのお店と比べて1番美味しい」
「ありがとう! あの時も同じこと言ってくれたよね」
「あの時?」
「そう!高校2年生のバレンタインの日」
たしかもらったな……。
「パンケーキ作ってくれたんだっけ?」
「そう! そしたら友和君、目を輝かせてすごく美味しいって言ってくれたんだよ。 それで将来ケーキを作る人になれるんじゃないかって言ってくれたんだよね」
そうか……。
俺の一言で……。
「そして今に至るって感じかな!」
「そうなんだ……。 あの時のパンケーキすごく美味しかったよ。 ここのケーキもすごく美味しい。 それにお店の前にある花もとても綺麗だ」
「そうでしょ! マリーゴールド。 私の誕生花なんだ」
「誕生花?」
「生まれた日にちなんだ花のことだよ。 私が生まれた7月18日の誕生花はマリーゴールドなの。」
俺の誕生花はなんだろう……。
「友和君はたしか……6月5日だよね?」
「よく覚えてたな。」
「まあね! 私と誕生花が同じだったから」
「一緒とかあるの?」
「そうだよ。 誕生日は違くても、花はおんなじことがあるみたい」
「そうなんだ。 何か意味とかあるの?」
「あるよ! 素敵な花言葉でね。 変わらぬ愛っていう意味があるの。 黄色のマリーゴールドは健康かな」
「いい花言葉だな」
変わらぬ愛か……。
「ままーー」
奥から子供が出てきた。
ママ?
「幸友どうしたの? 部屋でおばあちゃんと遊んでるんじゃなかった?」
大谷は子供を抱っこした。
「大谷の子供か?」
「うん……。 2年前に幸友ができて、結婚したの」
2年前……。
丁度俺と綾葉がよく来てた時だ。
俺に小さな指で
「おじちゃんだれ?」
と聞いた。
「おじちゃんじゃないでしょ。 お兄さんって言いなさい。 この人はママのお友達で……」
大谷は少し答えづらそうになった。
俺は微笑みながら
「お子さん可愛いな。」
「男の子で手がかかるけどね。」
「名前もすごくいいと思う。 もしかして幸せに友か?」
「…… うん。 幸せの漢字は私の名前から取ったの。 私もお父さんに名前を付けてもらった時そうだったから」
うちもそうだ。
父さんの和と母さんの友の字をもらったんだ。
「私が中学生の時、離婚してそれから音信不通だけどね」
大谷も家庭で色々あったんだな……。
「幸代子、俺はお前がいて幸せだ。 お前も幸せになるんだぞって。 優しかったけど、仕事で何かあったみたいで人が変わっちゃった……。 毎日仕事のことばかりでお母さんと喧嘩が絶えなかったの」
「そうなのか……」
「それで中学2年生ぐらいのときかな? お母さんの実家がある千葉に来たの。」
「……」
「あ、ごめん。 なんか暗い話しちゃって」
「大丈夫だよ。 大変だったね」
「前はそうだったけど、今があるから全然平気」
「そうか。それならよかった。」
俺は最後の一口を口に運び、紅茶を飲んだ。
「すごく美味しかったよ。」
「また来てね。友和君。 お話しできて楽しかったよ」
「…… ああ。俺も楽しかったよ」
「おにぃちゃん、バイバイ。」
幸友君が手を振った。
俺も手を振りかえした。
「そういえば……。 今は大谷じゃないのか。 今の苗字は?」
「…… 小田だよ」
「俺と同じなのか。 すごい偶然だな」
「うん……」
「美味しかったよ。じゃあな」
俺は微笑みながら扉を開けた。
コメント
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いやあ、久しぶりにあのカフェに行く決心をした友和くんの気持ち、すごく伝わってきました。沙和子ちゃんの誕生日に一人でこっそりお祝いしようとした優しさが胸に沁みます。それに、まさか大谷さんが自分のお店を持ってて、しかも子持ちだったとは……!マリーゴールドの「変わらぬ愛」という花言葉も、いろんな人の関係性を考えさせられてじんわりきました。久々の再会が温かくてよかったです🤍