すっかり辺りは闇に包まれてしまった。
「なんで僕なんかと喋るわけ?」
「イケメンとか居るじゃん。僕なんて平凡じゃん」
そう愚痴のように声を漏らすと
「だからいいじゃん」
「私、イケメンとかあんま好きじゃない」
と僕の先を歩きながら振り向き様に言う。
ずっと疑問に思っていたことを聞けてスッキリしているはずだったが、
それでも疑問の雲が晴れないようで複雑な気持ちになる。
「古佐くんって好きなことないの?」
「好きなこと?」
好きなことって何…
趣味とかってことだろうか。
「私はね〜花言葉が好き!」
「それは調べたりってこと?」
「そ!いつか花言葉だけで会話とかしてみたいな〜」
「いや、無理でしょ」
心の中でそう呟くはずが、
勢いが強すぎて思わず声に出てしまった。
「多分ニュアンスは伝わるじゃん?だからいけるかな〜って」
あー、まぁ。
ニュアンスは伝わりそうだけど。
「でも会話ってどうやってすんの?花見せたりとか?」
「うん!」
「でも大体、生えてないこととか多くない?」
「見たことないやつとか」
そう現実的に言うと
「夢が無いな〜」
と頬を膨らませながら返事をしてくる。
「あ、僕ここら辺でいいよ」
話しながら歩いているうちに、
気づいたら僕の家の通りになっていた。
「ん、分かった」
「じゃ、また明日ね〜!!」
そう言いながら畑葉さんは小走りで帰って行った。
あ、家の場所どこら辺か聞きたかったのに聞き忘れちゃったな…
1人になった瞬間、すごい寂しさが…
明日、学校行ったら連絡先聞こうかな。
そんなことを考えると、
何故か僕の口角は上がった。
慌てて自身の手で口を塞ぐも、変わらない。
「おはよ畑葉さん…って、あれ?」
居ない。
今日は僕の方が早かったのかなぁ。
そんなことを思いながら自身の席に座る。
いつも隣を見れば畑葉さんが見えるのに、
今見えるのは春の景色を映した窓のみ。
今日休みなのかなぁ。
そんなことを思っていると
「遅れた!!ギリセーフ…!」
と言いながらドタバタと教室へ入ってくる畑葉さん。
どうやらただの遅刻のようだ。
なぁんだ、心配して損した。
「ねぇ、もしかしてさ…」
「朝ごはんって桜餅だった?」
「え?嘘?!え、口についてる!?」
そう言いながら口周りや頬をペタペタと触る。
いや、何もついてないんだけどね。
「朝ごはん桜餅だったから遅刻したんじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけど…」
やっぱり。
朝からニコニコだし。
それなら納得がいく。
満面の笑みで桜餅を頬張る畑葉さんが想像出来る。
「で、何個食べたの?」
少し意地悪げにそんな質問をすると
「…引かない?笑わない?」
と質問を返してくる。
多分、多い量なんだろう。
そう予想する。
「んー、どうだろ」
そう僕が言うと
「…個」
と小さな呟き声が聞こえた。
だが、小さすぎて聞き取れなかった。
「何?聞こえなかった」
「もう1回言って?」
「50個…」
「50?!」
全然多いじゃん…
昨日30個とか言ってなかった?
全然嘘ついてんじゃん。
「…太るよ」
そう僕が独り言のように言うと
「そんなの分かってるよ!!」
と言いながら机を叩く。
瞬間、先生が教室へ入ってくる。
「畑葉〜、机は叩くものじゃないぞ〜」
そんなことを言いながら。
「分かってます!!」
と言い返しながらも畑葉さんは僕のことを睨む。
いや、でも明らかに50個は太る量でしょ。
「蝶々って雅だよね〜」
下校中、
共に歩いている時にそんなことを言ってくる。
「まぁ、」
そう適当に返事すると
「古佐くんって好きな季節何?」
「うーん..秋かな」
「紅葉が綺麗だし」
そう言うと小さめな声で『そっかぁ』と何やら落ち込む声が聞こえた。
「私はどの季節が好きだと思う?」
ふとそんな事を聞かれ、
『昨日言ってたじゃん』と思いながらも
「春でしょ?」
と問いで返す。
「え!なんで分かったの?!」
「いや、昨日言ってたし」
「あれ?そうだっけ?」
疑問の声を上げながらうーんと唸る畑葉さん。
昨日の記憶さえも消えているって相当やばいと思うけど。
「そういえば畑葉さんって家、どこなの?」
そう聞くも、返ってきたのは沈黙。
もしかして聞いちゃいけなかったのかな…
そんな不安に駆られながらも
「こんなところで話し込んでないでそろそろ家帰ろっか〜!!」
と話を逸らす。
と同時に
「今から変な事言うけど、信じてくれる?」
と俯きながら質問をしてきた。
いつもの畑葉さんらしくないなと思いながらも
「いいよ」
と返事する。
「私、家が無いの」
え?
無い?
家が?
「急にこんなこと言われて戸惑うよね…」
「ちょっと着いてきて」
そう言いながらどこかへ向かう畑葉さんの背を追う。
いつもなら腕を引っ張ってくるのに。
そう思いながら。
着いた場所は大きな桜の木がある丘だった。
「ここは…?」
「私の生まれの地」
「え?」
予想外すぎてそんな言葉が漏れる。
というか生まれの地?
ここで産まれたってこと?
尚更意味が分からない。
「みんなはさお母さんとかお父さんが居て、0歳から始まるでしょ?」
「私の始まりはね、高校1年生なの」
「1番最初の記憶は16歳の私がこの桜の木の前に居たこと」
頭がこんがらがって余計に話が分からない。
まるで人間じゃないと言っているような感じで…
「私は突発的に、何が原因で、なんの条件下で生まれたのかは分からない」
「だから、いつか居なくなるのかもしれない」
畑葉さんが物語の話をしているようで、
現実感が無い。
「古佐くんは私が居なくなったら悲しい?」
「…悲しいのかな。分からない」
口にしたのは事実のことで、
本当に訳が分からなかった。
「嘘はついてないみたいだね…」
そんな畑葉さんの声は耳には入らず、
途中で止まる。
居なくなる?
しかも生まれは16歳?
そうして思い出したのは畑葉さんと昨日話した『生まれ変わり』の話について。
もしかしたらあれも意味があって話していたのかもしれない。
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