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——結局。司さんに流され、私達はチャペルという神聖な場所で背徳的行為に二度も及んでしまった。
わ、私的にはもっと多かったけど…… まぁ、もう回数なんか数えられないから、それは置いておいて——
その後に、ホテルに取ってあったという部屋に移動してからも、せっかくの豪華な部屋だったのに、記憶に残ったのはベッドの天井やシーツの感触ばかりだった。
この日は『こんな記念日の祝い方でいいの?』と、ちょっとだけ思ったけど、『私達らしいな』と今なら思える。たぶん、あれから結構いっぱい色々と思い出せたおかげだろう。でも——
…… 自分の記憶を呼び起こす刺激が、何故夫婦生活なのよ!?
と、自分にツッコミを入れたくなる事も最初は多かったが、戻る記憶の内容が内容で、納得しか出来ない自分がいる。
まだ全部の記憶は取り戻せてはいないまでも、料理や家事に関しては、司さんと交際が始まったと同時に忙しい仕事の合間をぬってお料理教室に行ったり、自宅で猛勉強したりしていた記憶が戻ったおかげで、今では難なくこなせるようになり、すっかり問題では無くなった。
定期健診の時に『何がきっかけで記憶が回復してる?』と病院の先生に訊かれた時は、流石に正直には言えなかったけど…… でもまぁ、いいよね?先生には秘密でも。
診察室に一緒に居た宮川先生がニヤッと笑っていたのが少し気にはなるけど…… 気にしても仕方がないのでそれは無かった事にしよう。
二人で、のんびりゆっくり思い出を重ねつつ、記憶を取り戻していければそれでいい。
いつかきっと、今の状況もいい思い出になるだろうし。
「全部思い出せるのは、君が生まれた後になるかなぁ」
二ヶ月目でまだ真っ平らなお腹を軽く擦り、「——よしっ」と気合を入れた声を出すと、私はフライパンの中に入る料理の味の確認した。
「…… こんなもんかな?」
そう呟いた時、玄関のドアの鍵がガチャッと開く音と、「ただいまー」と言う司さんの声が玄関の方から聞えてきた。
「おかえりなさーい」
大きめの声で返事をしながら、今出来たばかりの料理を、事前に出しておいた平皿に盛り付ける。
「お、今日は随分と豪華だな。何かいいことでもあったのか?」
ネクタイを緩めながら、食卓テーブルの側に立つ司さんが嬉しそうな声で私に訊く。
「うん、そうなの」
「珍しい紅茶の葉でも手に入ったのか?」
「違うよ、そんな事じゃここまではしないって」
「…… んじゃ、なんだろう?何かの記念日でもないし」
「あのね、実は今日病院に行ったらね、お腹に私達の——」
【完結】