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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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エレベーターが最上階に着くと二人は廊下を歩き始めた。


その時突然麗奈の部屋のドアが開いた。偶然にしてはタイミングがぴったりだ。

そしてドアの向こうから白々しく出て来た麗奈は二人に声をかける。


「あら、こんばんは。今お帰り? 遅かったんですね」


麗奈は健吾に色っぽい視線を向けた。


「はい、とても楽しい夜でした」


健吾は意味深に言うと、セクシーな眼差しを理紗子へ向けて微笑む。理紗子もニッコリと微笑み返した。


健吾が今言った事はあながち嘘ではない。

素敵なレストランと素敵な星空を堪能したのだから間違ってはいないだろう。


しかし健吾は言い方に含みを持たせていた。

それは二人の夜があまりにも熱く激しく燃え上がり過ぎてしまったので、つい帰りが遅くなってしまった。麗奈にそう思わせる為にあえて含みを持たせたのだなと理紗子は気付いた。だから健吾の話に合わせるようにあえて恥じらうような顔をする。理紗子もなかなか女優だ。


今の理紗子は例えて言うなら小説の中でスパダリ男に一心に愛を注がれる愛され女子といったところだろうか?

理紗子の頬はタイミング良くほろ酔い気分でうっすらと赤く染まっていたので、それが理紗子の演技に信憑性を持たせている。

そんな理紗子を見て麗奈はかなりイライラしているようだった。そして氷のように冷たい視線を理紗子に向けながら、


「それは良かったですわね」


と、吐き捨てるように言うと不機嫌な顔のまま部屋へ戻って行った。


その瞬間健吾が小声で言った。


「勝ったな」

「うん。やったわ」


二人はクスクスと笑いながら部屋へ向かった。


部屋へ戻ると、今夜は相場で大事な指標があるからこれからパソコンに張り付く予定だと健吾が言った。

そして健吾は理紗子に風呂に入るなりテレビを見るなり部屋で好きなように過ごしなさいと言ってくれた。


それなら先にシャワーを浴びようと理紗子は思ったが、テラスにあるジャグジーが気になる。

ジャグジーは一度も使われた形跡がない。せっかくスイートに泊まっているのに一度も使わないなんて勿体ない。

理紗子がそう思いながら外のジャグジーを気にしていると、それに気付いた健吾が言った。


「外の風呂に入りたいなら入ってもいいぞ」

「えっ?」

「目隠しの衝立があるから見えないし俺は覗いたりなんかしないから一人でのんびり入ってくればいい」

「う、うん」


理紗子はその魅力に抗えなかった。きっとテラスからは満天の星が見えるだろう。そして夜の海も見渡せる。


「じゃあちょっとお借りしちゃおうかな」


理紗子が部屋から着替えを取って戻って来ると、今度は健吾がバスルームへ向かおうとしていた。


「理紗子が外の風呂を使うなら俺は中でシャワーを浴びるよ」


健吾はさっさとバスルームへ行ってしまった。

健吾がリビングにいないのなら余計に入りやすい。


理紗子は嬉しくて鼻歌を歌いながら衝立の陰で服を脱ぐと早速ジャグジーを楽しんだ。

全身を洗い終えてからゆっくりとジャグジーの中に身を沈める。気分は最高だ。


(あーっ、なんて天国なのぉ。ここはパラダイスだわ! ん? パラダイスって死語かな? まあいいわ。どんなに陳腐な言葉を並べても、今の気持ちが最高だって事には変わりがないんだから!)


理紗子はそう思いながら夜空を見上げた。


うっすらと見える天の川が夏の終わりを告げているような気がした。

きっと早朝には既に冬の星座が昇ってきているのだろう。季節は確実に変わりつつある。


(この素晴らしい星空にはまたしばらく会えないのね)


その時理紗子は星のない東京の夜空を思い浮かべた。


(この海とももうすぐお別れかー)


理紗子は段々感傷的になってくる。


(東京に戻りたくないなー、あー、ずっとこの休暇が続けばいいのに)


そんな事をぼんやりと考えているとどんどん瞼が重くなってきた。

そして急激に睡魔が襲ってくる。


(穏やかな波音と優しい風ってなんだか子守歌みたい)


理紗子の意識は段々と遠のいていった。




「おいっ、理紗子っ、理紗子っ、起きろ!」


ハッ


理紗子は急に目を覚ました。

すると短パンにTシャツ姿の健吾が、ジャグジーの脇に膝をついて理紗子の肩を揺すっていた。


「あっ、私寝ちゃってた?」

「全然出て来ないからびっくりしたよ。まさか寝てるとはな」


健吾はホッとした顔をすると、リビングへ戻って行った。

その時理紗子はハッとした。


(見られた)


急に理紗子は真っ赤になると慌ててタオルで胸の辺りを隠したが時既に遅しだった。


(またやっちゃったぁ。どうして彼には醜態ばかり晒してしまうの!)


理紗子は恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だった。

そしてノロノロとジャグジーから出ると身体を拭いて着替えを済ませた。



その頃リビングに戻った健吾は、


「参ったな、見ちまった……」


健吾は苦笑いをしながら呟く。

健吾は先ほど理紗子の裸体をバッチリと目撃してしまった。


健吾好みのサイズの形の整ったバスト、その先端のピンクに尖った蕾、脇からウエストへ繋がる滑らかなラインはため息が出るほど美しかった。そしてその下も。


(俺は今夜冷静に相場に向き合えるのか?)


そこで健吾はハーッと切ないため息を漏らした。


その時、着替えを済ませた理紗子が恥ずかしそうにリビングへ戻って来た。

そしてそのまま洗面所へ行くとドライヤーで髪を乾かす。

それが終わると再びリビングへ戻って来てから無言で寝室へ行こうとしたので健吾が声を掛ける。


「冷蔵庫に水とかあるぞ」

「あ、ありがとう」


理紗子は冷蔵庫の前へ行き水を一本取り出した。


「俺は見ていないから安心しろ」


健吾がボソッと呟く。


(嘘だ、絶対に見てる)


理紗子はそう思ったがとりあえず当たり障りのない返事をする。


「う、うん。じゃあ私もう寝るね。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


理紗子は寝室へ入ると小声でキャーッと叫んでからベッドに飛び込んだ。

恥ずかし過ぎてもうどうしていいかわからなかった。


しかし冷静に考えると、それほど大騒ぎをする事でもないように思えた。


(29のおばさんの裸に興奮するほど彼は困っていないでしょう? だってモテ男なんだから)


そう自分に言い聞かせると理紗子は少し落ち着いてきた。


時刻は夜の11時を過ぎていた。


(彼は今夜は徹夜なのだろうか?)


その時、リビングからスマホの着信音が聞こえてきた。健吾はすぐに電話に出て相手と何やら会話をしている。

気になった理紗子はドアの傍まで歩いて行きそっとドアに耳を近づけた。


「うん、そう、突然来る事になってさ、ああ明日帰る予定だからまた戻ったら連絡するよ。それより指標の予想はどう? そっか、俺もそうかなぁと思ってる。今? 今はショートをまだ握ってるよ。うん、そうだね、うん、じゃあまたな」


健吾はそう言って電話を切った。電話は投資仲間からのようだ。

理紗子は電話が女性からのものでない事にホッとする。

そしてまたベッドに寝転んだ。


健吾は石垣島に来てからずっと理紗子のお供をしてくれていた。釣りに行ったりドライブやレストランに連れて行ってくれたり。

そして今夜はほぼ徹夜らしい。


(疲れさせちゃって悪かったな……)


そんな風に思っていると、今度は本格的な睡魔が襲ってきた。


(なんだろう、この安心感。この感覚どこかで覚えがある……そっか、子供の頃の感覚だ。家族に守られているような、そんな安心感なんだわ……)


次の瞬間理紗子は眠りに落ちていた。そしてスヤスヤと静かな寝息を立て始めた。






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コメント

4

ユーザー

理紗子ちゃん、スキだらけに見えますが🤣健吾さんが相手だからでしょうね。 健吾さんからしたら、理性が幾つあっても足りないかも?🤭

ユーザー

らびぽろちゃ~ん、ギャハハハ....🤣 ホント、突っ込みどころ満載だよね~(≧▽≦)♪ 美しい星空の下での素敵な夜をすごし💏💋♥️ 女豹を追い払った迄は良かったけれど....🤔 理紗子ちゃんへの想いが溢れすぎて 暴発(⁉️)が心配な健吾さん♥️🤭 ジャグジーで寝落ちした彼女の裸をうっかり見ちゃって、この後大丈夫かしら....😁w

ユーザー

(≧▽≦*)キャッキャ♪ツッコミどころ満載なんですけど〜!!! やっぱり健吾〜✨「はい、とても楽しい夜でした」「参ったな、見ちまった…」もう🫰🏻❤︎゛この表と裏(いい意味での)の佐倉健吾という人物を表す言い方だと思うのですꔛ‬♡‪この小さなギャップがさらに魅力的な人物にさせてる、虜にさせるんでしょうねー💘 ぐにゃぐにゃ女豹蛇女はもうここまでくるとコントだよね🤣無駄な努力ご苦労様です!!!ꉂ🤣w‪𐤔

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