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「は……はは……」


乾いた笑いが漏れた。

いや、呆れていたのかも知れない、失望していたのかも知れない、そもそも理解が追いついていなかったのかも知れない。

目の前の光景が信じられなくて、何だか期待していたものとは違って、予想とは大きく外れて、私は上手く言葉が喉から出てこなかった。

今、自分がどんなかおをしているのか分からないぐらいに、でもきっと酷い顔をしているのだろうと思った。


「え、エトワール様」


隣でリュシオルが顔を青くして私の顔をのぞき込んでいるのが見えたが、私はきっと彼女よりも酷い顔をしていたのだろう。

もう、笑うしかなかった。

いや、こうなることを予想していたのかも知れない。でも、そうではないと自分の中で言い聞かせていた。自惚れていた。自分が彼に、リースに、遥輝に選ばれることを当然であると思い込んでいた。どうして、そんな自信が自分にあったのかと恥ずかしくなるぐらいに、自惚れていたのだ。


(何で……とか、もうそういうのいえない……)


視界が歪んでいくような気がして、目尻が熱くなるのを感じた。きっと、涙が溢れそうで零れそうで、今にも涙腺が決壊してしまうそうだったのだろう。


(私は、私が選ばれることを当然だって……思ってた)


あれだけ、熱心に私にダンスのパートナーをと言ってきたリースのことを思い出す。彼は、真剣に私にダンスのパートナーをと言ってきた。だから私は彼のために頑張った。これまで、彼に何も返せていなかったから、誕生日に、プレゼントになればと、これまでのごめんねとありがとうを込めて祝おうと努力した。彼が言ったから。私がいいっていったから。

そのどれもが、言い訳に聞えて、今のこの状況を自分の絶望を隠そうとしているようにしか思えなくて、私は爪が食い込むぐらい拳を握った。

目の前では、リースが本物のヒロインであるトワイライトにダンスのパートナーをと申し込んでいて、周りは拍手でその二人を祝福している。

その光景を見て、私には到底できないと思えた。祝う気持ちも何もなかった。どうして? っていう、汚い感情が顔を出して、それを今目の前の彼らにぶつけてしまいたいほどに。


何故なら、私は、私には―――


リースが選んだのは、私ではなくて、このゲームの主人公であるトワイライトだったのだ。そりゃ勿論、これがヒロインのストーリー初めのイベントだって言うことは理解しているし、王道がリースルートなのも分かっている。でも、それでも私が選ばれると思っていた。他の攻略キャラと違って、リースは中身が遥輝だから。遥輝は私を選んでくれるって思っていた。そりゃあ、皆に祝福されないかも知れない、でも、遥輝に選ばれるならそれでもいいって思えた。罵倒も、酷い言葉も視線も、全てその時だけは耐えようと思った。例え石を投げられたとしても、私は遥輝を祝って、遥輝と踊るって。

ぽた、ぽた……と涙がとうとう床に落ちて、私は頬に冷たい線が伝い始めてようやく自分が泣いていることに気がついた。

でも、何で泣いているのか分からなかった。


(分かっていたはずなのに、別にそうかも知れないって予想できたし、もし選ばれなくても別にっては思っていたのに……)


遥輝とは別れた仲。

推しに認知為れるだけで幸せでそれ以上は望まないって決めた。

でも、心は全身は其れがたまらなく悔しくて辛くて泣いていた。訳が分からなかった。たかが、ダンスのパートナーに選ばれなかっただけなのに。どうして、こんなに胸が苦しいのだろうか。自惚れていたから? 私だって自信があったから? 自尊心を傷つけられたから泣いているとかそう言うのではない気がした。そういう次元の話じゃなくて、そういう感情ではなくて、もっと深いものな気がしたけれど私にはこの感情が分からなかった。


「エトワール様、エトワール様」

「りゅ、しおる……」


自分の名前を何度か呼ばれて、やっとハッとする。そして、自分がまだリースとトワイライトを見ていたことに気がついて慌てて目を逸らす。これ以上見ていられなかった。


(なに、やってんだろ……私)


私よりも可愛らしくて、愛想もよくて、本当に理想のヒロインって感じのトワイライトはリースの申し出に戸惑っていた。皆が彼女とリースに視線を送っている。逃げられることのない視線を。トワイライトが選ばれても当然だと私は思った。私は彼女にあるものを全て持っていないから。そりゃ、リースだって本物の聖女でヒロインが良いだろう。


もしかしたら、遥輝も……


そこまで考えて、また胸が苦しくなった。見ていられなくて、視線を逸らして俯くけれど。彼女たちを祝福する声が聞えて、黒い感情が渦巻き出す。ここにいてはダメだと、全細胞が警鐘を鳴らしていた。


「ちょっと、気分が悪いから外にいるね……」

「え、エトワール様」


待って、というようにリュシオルは私の手を掴むが、私はその手を優しく解く。


「ごめん、一人にして」

「無理よ。そんな顔して……一人にさせられるわけないじゃない」


と、リュシオルは必死な顔で私に言ってきた。


いつもであれば、彼女の優しさを受けて、彼女に身を委ねて感情を全てはきだしていただろうけど、今の私にはそれすら出来なかった。もし、今彼女に感情をぶちまけてしまったら、きっとリュシオルまで傷つけてしまう気がしたから。

いいや、そうじゃない。


(リュシオルにも笑われているような気がして、一人になりたいからだ)


絶対そうじゃないって100%言えるのに、それでも彼女を信じることが出来無かった。心の何処かで嘲笑っているんじゃないかって思ってしまって。本当に最低だと思うし、酷い人間だと自分でも分かっている。でも、今何も信じられる気がしなかったのだ。


「エトワール様」

「ほら、リースとトワイライトが踊るんだからちゃんと見てなきゃ」

「それどころじゃないでしょ」

「それどころじゃないって……何なの」


ぽろりとでた言葉は、きっと彼女に刺さったのだろう。リュシオルは酷く傷ついたような、ショックを受けたような顔をして私を見ていた。


「エトワール様、私は……」

「ごめん、一人にして。お願いだから」


私は彼女の言葉を無視して、会場の出口へと向かって走った。私が走ろうが周りの皆は私が見えていないとでも言うようにリースとトワイライトに集中していた。そうだ。元から私は誰にも祝福されていない。

後ろの方でリュシオルの声が聞こえたが、今は振り返れなかった。


もう、無理だと思った。

もう、私はあの場所にはいられないと思った。

もう、遥輝の隣にいれないと、そう思ってしまったのだ。


「……はぁ、はぁ……」


足に痛みを感じ私はふと我に返った。気づいた時には皇宮の外、庭にいて、甘いオレンジの花の匂いで少しだけ頭が冴えると、私は何の意味も無く顔を上げ、見える空には月が浮かんでいるのを見つけた。

舞踏会のドレスの裾は土で汚れて、髪もぼさぼさになっていた。それでも、遠くから見える皇宮の光から逃げたくて足を進めようとしたが、足が痛くて動く気力もなかった。


「……はぁ……あははは……」


私は、一人に虚しくて笑いながら近くにあった噴水の縁に腰をかけた。

水面に跳ね返った水がドレスを濡らそうが、気にならなかった。どうせ、もうこんな綺麗な服なんて着る機会はないのだから。

そう思うと、なんだかさっきよりも気持ちが楽になった。

これで良かったんだ。これで……

自分に言い聞かせるように呟いてみたけれど、心は全く晴れなかった。ただ、悲しさだけが込み上げてくるだけだった。悲しくて、石で出来た噴水の縁に拳を叩き付けて、じぃんと叩いたところから痛みが伝わってきて、私は顔をしかめた。


(私、何をやってんだろ……)


リースがダンスのパートナーに選んだのは私じゃなかった。

私が選ばれるってどうして思っていたのだろうか。これは、ヒロインのストーリーのメインイベント。私は、悪役で、本来ならトワイライトを虐める役なのだ。でも、現実は彼女とは仲良くて姉妹みたいで、トワイライトも私を慕ってくれて、いつも私を優先してくれた。

リースだって、本来のエトワールとは全然違う扱いをしてくれて、中身が遥輝だって言うのもあるけれど、私に好きを伝えてくれていた。全て上手くいっているはずだと思っていた。

けれど、実際如何だろうか。

リースはトワイライトを選んだ。あの様子じゃ、トワイライトもリースに落ちるのに時間はかからないだろう。そうしたら、きっと二人は結ばれてそのまま……

そう考えるとまた涙がこみ上げてきた。両手で顔を覆って涙が零れないようにと必死に堪えるけれど、やっぱり溢れ出てきて止まらなかった。


(なんで……なんで、私じゃないんだろ……)


悔しかった。

選ばれたトワイライトが羨ましくて、妬ましさと悲しみがごちゃ混ぜになって私の心を蝕んでいく。

けど、どうして彼女に嫉妬するのか、こんなに悲しいのか理解できなかった。たかが、選ばれなかっただけ。たかが、リースとは遥輝とは元恋人という仲。

なのに、どうして悲しいのだろう。悲しむ必要があるのだろう。

私には自分の気持ちが理解できなかった。


「う……うぅ……」

「おい」


と、声を堪えて泣いているとどこからともなく男の人の声が降ってきて、私は顔を上げた。

泣いている所なんて、誰にも見られたくないのに、どうしてか顔を上げても大丈夫だと思ってしまった。


(あ、ああ……紅蓮……)


目の前にふわりと映った紅蓮に、満月をバックに光る黄金の瞳。それは、まるでこの世のものではないような美しさを醸していて、一瞬時を忘れた。


「ある……あるべ……」

「どうして、泣いてんだよ。エトワール」


そういって、私の顔をのぞき込んで心配そうに顔を歪め、涙を拭ってくれたのは一番苦手だった人物だった。

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