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いやー、今回はアルカナの行動力にびっくりしましたよ。雀に変身して単独で南風家に乗り込むとは…「叶糸の幸せ」のためなら何だってするって意志がひしひしと伝わってきました。深夜のベッドでこっそり抜け出すあたりの猫みたいな動きが可愛い反面、叶糸が虚ろな瞳でガラスを引っかいてる描写がめっちゃ不気味で対比が効いてるなと。南風家の設定も緻密で、獣人差別の歴史から加護まで綺麗に繋がっていて世界観に厚みが出てきましたね。
泥沼にでも嵌まったみたいに抜け出せずにいた睡眠状態から、明け方近くになってようやく目が覚めた。相変わらず私の体はマーモットのままだ。あんなに強固だった『認知』が随分と緩んだおかげで今もまだ他の姿への変身は出来そうだけど、やっぱりこのままが一番楽だなと、変化せずともわかる。 いつも通り隣には妙にスッキリとした顔の叶糸が眠ったままで、私がちょっと動いても起きる気配はなさそうだった。
(叶糸も初めての夜会で相当疲れたのだな。……となると、出掛けるなら今がチャンスか)
実は、今後の為にも早めにやっておきたい事がある。だけど叶糸は私に拘束魔術をかけたくらいにとっても過保護だから、彼が起きている時には単独での外出は嫌がりそうな気がするのだ。なので、いっその事彼が眠っている今のうちに用件を済ませておこうと、そっと叶糸の腕の中から抜け出してみる。
時間帯のおかげか彼の眠りはまだまだ深いみたいだ。先ほどまで私を包んでいた腕がぽすんとベッドに落ちたが、起きそうな様子はない。その事にほっと息を吐き、引き続きノソノソとゆっくり布団から這い出て行く。
ベッドからトンッと降りて後ろを確認したが、幸いにして叶糸は今も眠ったままだ。『よしっ』と心の中だけでガッツポーズを取り、窓枠に手を掛けて、幽霊みたいにするりと窓を通過していくと同時に、我が身を『雀』の姿に変えた。あまり派手な鳥だと早暁であろうが目立ちそうなので、どこにでもいる小さな鳥を選んだ。何も考えずに、移動が楽だからと『飛べる生き物』とだけイメージしたら獣人化した時の姿に引っ張られて、巨大な龍になるか、あるいは鳳凰にでもなってしまいそうだったから、きちんと意識をしてこの姿に体を固定した。
(うーん、やっぱちょっと疲れるな……)
この姿で居ようと意識しないとすぐにマーモットに戻ってしまいそうなくらいに引っ張られる。『どんだけマーモットが好きなんだ、叶糸は!』とちょっと文句を言いたい気持ちになりながらもふわりと飛び立ち、目的地を目指す。
——だがその同時刻。
叶糸がのそっとベッドから起き出して裸足のまま歩き、窓の外を見上げていた。虚な瞳のまま、丈夫な爪でガラスを引っ掻いていた事にも、いつもの自慰行為がマーキングと同等の効果を持っている事にさえも気が付かぬまま、私は愛らしい雀ボディで必死に大空を羽ばたき続けた。
今回の目的地は『侯爵』の爵位を持つ『南風』家である。結婚や養子などといった形で、この国を統治している『皇』家の血筋を何度も迎え入れ、過去には幾度も『公爵』に昇爵した事のある最古参の名家の一つだ。皇家との繋がりがかなり深く、国の暗部を担っているとの噂も絶えない一族でもある。
まぁ確かに昔はそういった部分を担っていた事もあったが、実際にはもっぱら諜報面や情報収集と、その分析を得意としている。今じゃ国内どころか世界中の情報を握っていると言っても差し支えない程なのだとか。
そんな南風家は過去の『管理者』の一人の覚えがめでたく、ひっそりと『加護』を授かっている珍しい家系でもある。
『地球』のケモ耳文化をこちらでも取り込もうと計画し、徐々に『獣人』が生まれる様になっていった当初。その子らは奇形や忌み子として、生まれてすぐに処理されてしまっていた。獣との交尾によって生まれた子に違いないと、産んだ母親ごと殺されてしまった例もあったという。
(当時はまさか『獣人』がフィクションの産物であるとは思いもしなかったようだ。参考文献の多さを考えると、実在すると思い込んだ気持ちはわかる!)
そんな風潮の最中。
南風家にも『獣人』の子供が生まれたが、その時の当主は逆に面白がって育ててみようと心に決めた。——するとどうだ。何においても『人間』よりも高い能力を発揮し、体は丈夫で寿命も長く、見目も良いではないか。その子をきっかけに南風家は『獣人』を一族の中に取り込み始め、重要な地位に採用したりと積極的に優遇した事で、一層の繁栄を思いのままにした。それを見ていた他の貴族達もこぞって真似をし始め、囲い込みをした事で平民よりは格段に貴族達の元に獣人が生まれやすくなっていき、国内で生まれる『獣人』を取り巻く環境が急速に改善していった。その功績を称え、当時の『管理者』は南風家に『獣人が生まれやすくなる』という『加護』を与えたのだ。
(他の国でも同じ事例が多数あって、それらの一族にも加護を与えたんだよね)
世界全体を見ても獣人は低確率でしか生まれないはずが、『南風家』の様な加護持ちの家にはどの代にも必ず『獣人』が生まれ、過去には本家の半数を占める事まであった。現在の当主である『南風アルサ』も『蝙蝠の獣人』であり、二十代にして国の宰相を務める程の才子である。先代は騎士団長だったらしいし、個々の特性を活かしつつ、誰かしらが常に国の中枢を握る一族の様だ。
だからか、到着した南風家のなんと壮麗な事か。
男爵である剣家ですらも平民の家よりは随分と立派だが、流石は侯爵家だ。グレードがまるで違う。別格だ。領地にある本家ではなく、首都にあるタウンハウスの方に来たのに、剣家どころか、昨日行った星澤侯爵家の倍くらいに敷地が広い。美しい日本庭園に囲まれ、木造二階建ての邸宅は古いながらも隅々まで手入れが行き届いていそうな雰囲気である。敷地全体に強固な結界が張られていて、私や叶糸クラスでもなければ部外者は立ち入れそうにない広大な地下空間もあるみたいだ。
規則正しく並ぶ石畳をとっとっとと飛ぶ様に歩いて進み、正面玄関に向かう。私は泥棒でも不審者でもないので、今回も堂々と真っ向からお邪魔するつもりだ。まだ暁の空が美しい頃合いなので当主は眠りの中だろうが叩き起こしてでも話を聞いてもらう腹づもりでいるが、一応姿は消しておこう。
(私の優先はあくまでも『叶糸の幸せ』だから、他なんぞ知った事か)
なんともまぁ自己中心的な事を考えつつ玄関を開けぬままスルリと通過し、途端に私の体がビクッと跳ねた。
「——お待ちしておりました、我らが主よ」
大人数が声を揃えた状態で意味不明な事を言われ、困惑を隠せない。広めの玄関にびっしりと、しかも続く廊下のかなり奥まで人が並び、皆が皆、跪礼している。だが待ってほしい。私はまだ姿を隠したままのはずなのだが……どうして私の来訪に気が付いたというのだ。
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月咲やまな
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#恋愛
十色
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