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「はあ……疲れた」
トワイライトを助けるために思った以上に魔力を使ってしまったのか、帰りの転移では魔力を持っていかれたという感じがして、身体がだるかった。目と鼻の先に見えている聖女殿が遠くに感じるのはきっとその疲れのせいだろう。
(足が棒……もうちょっと体力付けた方がいいかも)
元々運動は苦手だったから、体力もなかったけど、これから色々あると考えたら体力は付けた方が良さそうと思った。簡単につくものではないと思うけど。
私がよぼよぼの足で歩いていると、アルバがおんぶして帰ろうかと言ってくれたのだが、この距離とは言え人におぶられているところを見られたくないと思ったため、あと少しの距離だし大丈夫と断った。
「トワイライトは平気? あの時は、いきなり転移魔法使われたけど、今回初めてじゃないかなって。魔力とか」
「はい、大丈夫です。お姉様。お姉様が魔力をわけてくれたのもあって」
と、トワイライトは嬉しそうに笑った。そういえば、彼女を助けるために魔力を注いでいたことを思い出し、数分前の記憶だろうに飛んでいたのかと自分でも馬鹿馬鹿しくなった。
だけど、トワイライト自身魔力が残っていたのだろう。あまり疲れているようには見えない。
(それかもしかしたら、魔力の注ぎ方間違えたのかも……)
初めて人に魔力を注いだのもあってかなり身体に負担がかかっていたのかもしれない。それに、教えてもらっただけですぐ実行したため、魔力をどれぐらい注ぐとかはあまり考えていなかった。そう思うと、彼女に与えすぎたのかも知れない。
どちらにせよ、私がこうなっているのは度重なる戦いと、彼女に魔力与え、この点に魔法で皆の分の魔力を補ったからだろう。城下町から港に行く距離かは、聖女殿近くに戻る距離の方が遠かったから。遠いほど多い魔力を消費するのは私でも分かっている。
私は、よたよたと歩きながら、聖女殿に繋がる坂を上り始めた。そして、ふと足を止めて、彼がついてきていないのを知る。
「アルベド?」
「俺はあの先いけねえよ。あそこ、相当デカい結界が張ってあるからな。そこまでおくったら、帰る分の魔力がなくなっちまう」
と、ひらひらと手を振っていた。
最後までおくって欲しいという気持ちと確かにそこまで我儘は言えないという気持ちの両方があって、私は仕方ないかと思った。と同時に、彼にそんな思いを抱いている自分がいることに気がつき顔が真っ赤になった。
「エトワール様どうしましたか?」
そう、アルバに顔を覗かれ、私は何でもないと顔を覆ったが、面白そうにこちらを見ていたアルベドは、ニヤリと口角を上げた。
「何だ。エトワール、俺と別れるのが寂しいのか? なら、そう言ってくれれば――――」
「なわけないじゃない! 誰がアンタと!」
私は感情にまかせてそのまま返してしまった。
だが、それは逆効果で、さらにアルベドは愉快そうに笑った。
私が大きな声をいきなり出したことで、アルバは驚いていたし、トワイライトも私とアルベドを交互に見て、これはただならぬ関係かも知れないと、頬を膨らましていた。
「まあ、そんな恥ずかしがるなって。俺たち、恋人になるかも知れねえだろ」
「は、は、はあ!?」
いきなり、アルベドが可笑しなことを言い出すので、私はさらに声を荒げてしまった。アルバと、トワイライトの鋭い視線がアルベドを突き刺す。だが、彼にそんな女性の睨みなど通用することも、怯ませることも出来ず、勝ち誇ったような笑みを浮べている。
何故そんな言葉が出てくるのか私も不思議でたまらなかったし、どんな風に思考回路を回せば、私とアルベドが恋人同士になるという言葉にたどり着くのだろうと。
(全く意味分からない。私が、アンタを好きだとでも?そもそも、アンタが私を好きなんて聞いたことない)
きっとからかっているのだろう。いつものように人をからかって楽しんでいるのだろうと、私は無視をすることにした。だが、それがよくなかったのか、アルベドはさらに追撃を繰り出してきた。
「何度もお前のピンチを救ってやっただろ? 苦難を一緒に乗り越えた男女は結ばれるって良く言うじゃねえか」
「アンタには助けてもらったけど、一度たりともときめいたことはない!」
「連れねえ。何度も俺の腕の中でしがみついて離れなかったくせに」
「妄想が過ぎるのよ!」
私は、もうこれ以上何か言われたら不味いと彼の元まで戻って指を指した。
先ほどの疲れなど吹き飛ぶぐらい、彼に対して殺意が湧いてきた。きっと、その殺意は可愛らしいものなのだろうけど、アルバやトワイライトの疑いの目が刺さって酷いため、もうこれ以上誤解を招く言い方はして欲しくなかったのだ。
「つれねえな、ほんと。星流祭だって俺と一緒にまわっ――――」
「だ――――ッ! もう、それ以上言ったら、アンタに最大の魔力流してあげるから。黒焦げよ、黒焦げ!」
私は、アルベドの口を必死に塞ぎながら叫んだ。
アルベドはそれは簡便と言ったように、ニッと目を細めた。
アルバは星流祭? と答えにたどり着きそうだったため、私は慌てて鉢合わせただけだと伝えた。それから、勝手に彼奴がついてきただけだの言葉を並べて何とか誤魔化す。
言ってしまえば、それは全部嘘で、でもシステム的に仕方のないことだと思った。間違えてアルベドとまわるというように設定した自分が馬鹿だったと今でも思っている。星流祭のジンクスとか聞いて、余計に彼を意識してしまっているのも事実だ。でも、だからといって私に彼に対する感情があるかと聞かれれば、きっと恋愛感情はないと言う。
(そう、私は此奴のことが好きでも何でもない!)
何度も助けてもらって、そのたび格好いいなとか、安心感は覚えるけど、それは皆抱いて当然だと思う。命の危険にさらされて、そんな時颯爽と現われて助けてくれたら、皆少しはドキッとするだろう。安心感を覚えるだろう。
これが私だけだったらどうしようと思うけど、漫画のヒロインとかはそういうヒーローに惚れるのだ。
(私は惚れてないけど、断じて惚れてないけど!)
心の中で何度も否定の言葉を並べて、私はアルベドを睨み付けた。彼はまだ愉快そうに笑っており、腹が立ったため、足を踏みつけてやった。しかし、今回は予想していたのかいきなり踏まれたというわけでは構えていたようなので、痛いなど声を上げなかった。
それどころか、踏まれて若干嬉しそうにしている。
(何此奴、ほんと意味分かんない)
私は、アルベドを再度睨み付けた。
頭から離れない紅蓮の髪に、曇り一つない満月の瞳を見て、私は矢っ張り此奴は綺麗だなと思った。此奴の顔だけは殴らないでおこうと思った。そりゃ、攻略キャラだし、他の攻略キャラも美形だし、イケメン揃いだけど、アルベドの顔ってほんと言動や性格と違って綺麗だと思った。その綺麗な顔に何度も血を跳ねさせてはいたけれど、それすらも綺麗と感じてしまった私が過去にいたことは事実だ。
「見惚れてんのか?」
「自惚れないで、違う」
私が彼の口を塞いでいる手を緩めると、途端にそんなことを言い出した。
見惚れただの、惚れただの何回も聞くが、私は惚れてもいなければ、あ、ちょっといいかもと思ったことすらない。なのに、何故毎回同じように聞いてくるのか。
「もう、人前であんまり言わないで」
「人前じゃなければ、いいのか?」
「何を?」
「そうだな、例えば――――」
と、彼は言って私の手を掴むとそのまま引き寄せて私頬にキスをした。
柔らかい唇の感触が頬に伝わり、私の体中の体温が一気に跳ね上がる。自分で耳まで赤くなるのを感じ、金魚のように口をパクパクと開閉させることしか出来ない。
「な、な、ななな!」
「こういうこと、人前じゃなければ何度だってしてやるぜ?」
「だ、誰がって、待ちなさい!」
「また、今度会うときはもっと凄いのしてやるから待ってろよ」
そう言って彼は、私から距離を取ると転移魔法を発動させ、一瞬のうちにして消えてしまった。彼が消えても尚、彼に触れられた頬や、身体は熱くて仕方がなかった。
(私今ちょっと、ドキッとした?)
それは気のせいだと思いたい。私は、彼が去った後その場に立ち尽くし、何度もアルバやトワイライトに声をかけられても気づくことが出来なかった。